株で損をした年に配当も受け取っていると、「この配当と相殺できないか」と考えます。 結論から言えばできます。ただし、何もしなければ相殺されません。 配当の受け取り方と、申告のしかたで扱いが変わるためです。
できる。ただし条件がある
上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当等と 損益通算できます。これは法律で認められた組み合わせです。
条件は2つあります。配当が上場株式等のものであること。そして、 その配当について申告分離課税を選んで確定申告すること。 どちらかが欠けると、相殺できません。
相手になるのは上場株式等の配当だけです。非上場株式の配当や、 一定の大口株主が受け取る配当は、別の扱いになり、譲渡損失とは相殺できません。 普通に証券会社を通じて上場株式や投資信託を持っている場合は、 ここで引っかかることはほとんどありません。
相殺できる金額にも上限はありません。損失が配当より大きければ、 配当はすべて相殺され、課税対象はゼロになります。 それでも残った損失は、翌年以後への繰越候補として残ります。
配当の課税方式は3つ
上場株式等の配当は、受け取ったあとの扱いを3つから選べます。 どれを選ぶかで、税率も、相殺できるかどうかも変わります。
| 方式 | 譲渡損失との相殺 | 配当控除 |
|---|---|---|
| 申告不要 | できない | 使えない |
| 申告分離課税 | できる | 使えない |
| 総合課税 | できない | 使える |
申告不要を選ぶと、源泉徴収されたところで課税関係が終わります。 手間はかかりませんが、損失と出会う場面がありません。 総合課税を選ぶと配当控除が使えますが、こちらも譲渡損失とは相殺できません。
申告不要が既定になっているのは、受け取る時点ですでに源泉徴収が済んでいるためです。 手続きをしなければ、そこで課税関係が完結します。 便利な仕組みですが、損失が出た年にはその便利さが働きません。 相殺したいなら、完結させずに申告のテーブルに載せる必要があります。
申告分離課税を選ぶと、配当は上場株式等の譲渡所得等と同じ区分で計算されます。 税率は源泉徴収されていたものと同じなので、相殺する相手がいなければ 納める税額は変わりません。変わるのは、損失と出会えるかどうかです。
申告分離課税を選ぶ
申告分離課税を選ぶには、確定申告書にその旨を記載し、 必要な明細書を添えて提出します。選んだ配当は、 上場株式等の譲渡所得等と同じ箱に入り、そこで損失と足し引きされます。
選ぶ単位にも決まりがあります。1回ごとの配当を選り分けることはできません。 源泉徴収ありの特定口座に受け入れた配当については、口座ごとに選ぶ形になります。
この変更は、判断にそのまま効いてきます。かつては 「所得税は申告分離で相殺し、住民税は申告不要にして保険料への影響を避ける」 という組み方ができました。いまは所得税で申告すれば住民税も同じ扱いになるため、 その逃げ道はありません。相殺の効果と保険料への影響を、同時に引き受けることになります。
自分の損益と配当を入れると、申告した場合としない場合で 課税対象がいくら変わるかが並びます。配当を含めて税負担の差を試算すると、相殺の順番まで出ます。
配当控除とは両立しない
総合課税を選ぶと使える配当控除は、配当に対する二重課税をやわらげる仕組みです。 所得が少ない人ほど有利になりやすく、その場合は総合課税のほうが 手元に残る額が大きくなることがあります。
ただし総合課税を選ぶと、譲渡損失との相殺はできません。 損失が大きい年は申告分離課税、損失がない年は総合課税、 というように年ごとに有利なほうが変わります。
配当控除そのものの仕組みは、配当の税金の記事にまとめています。
どの口座で受け取ったか
配当をどの口座で受け取っているかで、相殺の起き方が変わります。 ここを見落とすと、戻る額を多く見積もることになります。
- 損失が出た源泉徴収ありの特定口座に受け入れている … 証券会社の側ですでに相殺されている
- 別の口座・別の受け取り方をしている … 申告して申告分離課税を選べば相殺できる
前者の場合、申告しても配当の分は動きません。すでに精算済みだからです。 そこにもう一度「損失×税率」を足すと、二重に数えることになります。
配当を源泉徴収ありの特定口座で受け取るには、証券会社に届出を出して 受け入れを選んでおく必要があります。何もしていなければ、 配当は口座の外で受け取っている状態です。心当たりがなければ、 年間取引報告書の配当の欄を見るのがいちばん早い確認方法です。
株式数比例配分方式という受け取り方を選んでいるかどうかも関係します。 証券口座で受け取る方式にしていなければ、配当は口座を通らず、 口座の中での相殺も起きません。受け取り方の設定は、 証券会社の画面で確認できます。
税金の外で起きること
配当を申告すると、その配当は所得として扱われます。 税金の計算だけでなく、保険料や扶養の判定にも入ってくることがあります。
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料は、前年の所得をもとに決まります。 申告した配当がそこに乗ると、税金が減った額より保険料の増えた額のほうが 大きくなることがあります。
会社の健康保険に入っている人は、保険料が標準報酬月額で決まるため影響しません。 どちらに当てはまるかで、判断の材料が変わります。
考える順番
ここまでの条件が重なると、どこから見ればよいか分からなくなります。 順番を決めておくと、判断が止まりにくくなります。
- その配当は上場株式等のものか。非上場株式や大口株主の配当は、そもそも対象外です
- どこで受け取ったか。損失が出た口座に受け入れていれば、すでに相殺されています
- 相殺する損失がいくらあるか。損失がなければ、分離と総合のどちらが有利かという別の話になります
- 保険料に影響する立場か。国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入しているなら、税額だけで決められません
1つ目と2つ目で結論が出てしまうことがよくあります。 口座の中ですでに相殺されていれば、申告しても配当の分は動きません。 そこを飛ばして金額の比較から入ると、動かないものを計算することになります。
3つ目まで来てはじめて、申告分離課税と総合課税の比較が意味を持ちます。 損失が大きければ相殺の効果が勝ちやすく、損失がなければ 配当控除のほうが効くことがあります。年ごとに違っていて構いません。 去年こちらを選んだから今年も、という決め方をする必要はありません。
4つ目は、税額の計算では出てこない部分です。 税金が減る額より保険料の増える額が大きくなることがあり、 その場合は申告しないほうが手元に残ります。 自治体によって条件が違うので、窓口で確かめるのが確実です。
扶養の判定にも関わります。配偶者控除や扶養控除の対象になるかどうかは 合計所得金額で決まるため、申告した配当がそこに乗ると判定が変わることがあります。 自分の税金が減っても、扶養している側の税金が増えれば、 世帯として見たときに差し引きゼロか、逆になることもあります。
こうした影響は、税額の計算式の外にあります。 だからこそ、計算で出た金額を結論として扱わないほうが安全です。 出てきた額は「税金だけを見たときの差」であって、 手元に残る額の差ではありません。
まとめ
株の損失と配当は相殺できます。ただし自動ではなく、 確定申告で申告分離課税を選ぶという手続きが要ります。 総合課税を選べば配当控除が使えますが、そのときは相殺できません。
そして、損失が出た口座に配当も受け入れているなら、 証券会社がすでに相殺を済ませています。 その場合に申告しても、配当の分で動く金額はありません。
