源泉徴収ありの特定口座は「確定申告しなくていい口座」として案内されます。 これは正しいのですが、どこまでが「しなくていい」のかが抜けがちです。 損失が出た年は、ここを正確に押さえないと判断を間違えます。
自動で通算される範囲
源泉徴収ありの特定口座では、その口座の中の損益を証券会社が通算します。 同じ口座の中で売買を繰り返していれば、利益と損失は年末までに差し引きされ、 引かれすぎた税金はその都度戻ってきます。
配当についても、その口座に受け入れる手続きをしていれば、 同じ口座の譲渡損失と相殺されたうえで源泉徴収されます。 この手続きをしていなければ、配当は口座の外で完結し、相殺されません。
口座の中での精算は、売買のたびに起きています。 年の前半に利益が出て税金が引かれ、後半に損失が出れば、 その時点で引かれすぎた分が口座に戻ります。 年末に一度だけ計算するのではなく、取引のたびに差し引きが見直される形です。
源泉徴収なしの特定口座では、この精算が起きません。 年間取引報告書は発行されるので損益の把握はできますが、 税金は自分で納めることになります。損失が出た年でも、 別の口座に利益があれば申告して相殺する余地があるのは同じです。
別の証券会社とは通算されない
証券会社は、ほかの証券会社にあるあなたの口座の損益を知りません。 そのため、A社の利益とB社の損失は、自動では相殺されません。 両方とも源泉徴収ありの特定口座であっても同じです。
口座をまたいで相殺したいときは、確定申告が必要です。 申告ではじめて、ばらばらだった口座の損益が1つに集まります。 「源泉徴収ありなら申告不要」は、口座が1つで完結している場合の話です。
同じ証券会社でも、特定口座と一般口座に分かれていれば別の扱いになります。 口座の数ではなく、どの口座にどの損益があるかで決まります。
口座を複数持つこと自体は珍しくありません。手数料や取扱商品で使い分けたり、 NISAと課税口座を別の会社に置いたりすることがあります。 その状態で損失が出ると、自動では相殺されない組み合わせが生まれます。 口座を分けている人ほど、申告する価値が出やすいということでもあります。
申告が要る場面、要らない場面
損失が出た年に申告が意味を持つのは、口座の外に相手がいるときです。 整理すると次のようになります。
| 状況 | 確定申告 |
|---|---|
| 損失も利益も、同じ源泉徴収ありの特定口座の中で完結している | しなくても通算済み |
| 別の証券会社に利益がある | 申告すると相殺できる |
| 別の口座で受け取った配当がある | 申告分離課税を選べば相殺できる |
| 今年使い切れない損失を翌年以後へ繰り越したい | 申告が必要 |
| 過去から繰り越している損失を今年使いたい | 申告が必要 |
逆に言えば、口座が1つで、そこで損益が完結していて、繰り越す必要もないなら、 申告しても税額は動きません。動かないものを動かそうとして、 手間だけがかかることになります。
判断の順番としては、まず口座を並べるところから始めます。 どの証券会社に、どの区分の口座があり、そこにいくらの損益があるか。 これが見えていないと、申告で動く金額も見えません。 金額の計算より先に、口座の地図を作るほうが早いことが多いところです。
二重に数えない
ここが金額を間違えるいちばんの原因です。 同じ源泉徴収ありの特定口座の中ですでに通算されているのに、 その損失にもう一度税率をかけて「これだけ戻る」と数えてしまう形です。
たとえば同じ口座で利益100万円・損失60万円なら、 証券会社は差し引いた40万円に対して源泉徴収しています。 ここで損失60万円に税率をかけた額が戻ると考えると、 すでに精算された分をもう一度数えることになります。
自分の場合にどちらなのかは、口座の関係を選べば分かります。口座の区分を含めて税負担の差を試算すると、すでに精算済みの場合は差がゼロと出ます。
配当についても同じ注意が要ります。損失が出た口座に配当も受け入れていれば、 その配当は口座の中ですでに損失と相殺されています。 別の口座で受け取った配当なら相殺されていないので、申告する意味があります。 同じ「配当がある」でも、どこで受け取ったかで結論が逆になります。
申告すると起きるほかのこと
税額が下がるとしても、それだけで決まらない場合があります。 確定申告した上場株式等の所得は、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、 介護保険料の算定に含まれることがあるためです。
会社の健康保険(健康保険組合・協会けんぽ)に入っている人は、 保険料が標準報酬月額で決まるため、金融所得を申告しても保険料は変わりません。 影響を受けやすいのは、国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している人です。
もうひとつ、源泉徴収ありの特定口座の損失について申告して 口座の外の利益や配当と相殺する場合、その口座の配当は申告不要制度を使えなくなります。 配当も申告に含まれることになり、その分も算定の対象に入ります。
何を見れば分かるか
判断の材料は、証券会社から届く「特定口座年間取引報告書」にそろっています。 1月ごろに、口座を持っている証券会社ごとに届きます。
- 譲渡の対価の額・取得費・差引金額 … その口座で確定した損益
- 配当等の額 … その口座に受け入れた配当。ここに載っていれば、口座の中で相殺されている
- 源泉徴収税額・還付税額 … すでに引かれた税金と、口座の中で戻った税金
この3つを口座ごとに並べれば、どこに利益があり、どこで精算済みなのかが見えます。 源泉徴収税額が0円なら、その口座から戻る税金はもうありません。
報告書は紙で届く場合と、証券会社の画面でしか見られない場合があります。 電子交付を選んでいると郵送されないため、年が明けても届かないと感じることがあります。 その場合は、ログインして書面の閲覧ページを探すことになります。
申告する場合、この報告書の数字をそのまま申告書に書き写していきます。 自分で損益を計算し直す必要はありません。 国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、報告書の項目に対応した入力欄が並んでいて、 埋めていくと付表や明細書も作られます。
最後に、この記事が扱っているのは確認の手順までです。 申告するかどうかは、動く税額と、保険料への影響と、手続きにかかる手間を 並べたうえで決めることになります。 ToMiは「確定申告してください」とは言いません。
一般口座とNISA口座の場合
特定口座以外の口座では、前提が変わります。まとめて見ておきます。
一般口座では、年間取引報告書が発行されません。 売った値段と買った値段、手数料を自分で集めて、損益を計算するところから始めます。 株式分割や株式移転をはさんでいると、取得費の計算も自分で追うことになります。 損益通算や繰越控除の仕組み自体は特定口座と同じですが、 入口の手間がまったく違います。
NISA口座では、そもそもこの仕組みが使えません。 NISA口座の中で出た損失は税務上「無かったもの」とされ、 課税口座の利益との相殺も、翌年以後への繰越もできません。 利益が非課税になることと、損失が救済されないことは一組です。
| 口座 | 損益通算・繰越控除 | 年間取引報告書 |
|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 使える。口座の中は自動で通算 | 発行される |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 使える。税金は自分で納める | 発行される |
| 一般口座 | 使える。損益の計算は自分で行う | 発行されない |
| NISA口座 | 使えない | 対象外 |
同じ年に複数の区分で損益が出ていることもあります。 その場合は、NISA口座の分だけを外して、残りで計算します。 口座ごとに分けて並べるのは、このためでもあります。
