NISAの説明は、利益が出た場合の話が中心になりがちです。 けれど投資である以上、損失が出ることもあります。 そのとき、NISA口座には課税口座にはない不利があります。
NISAでも損失は出る
NISAは税金の制度であって、値動きを抑える仕組みではありません。同じ商品を課税口座で持っていても、NISA口座で持っていても、 値下がりの幅はまったく同じです。
非課税というのは「利益が出たときに税金がかからない」という意味で、 「損しない」という意味ではありません。ここが混ざると、 本来なら投資に回さないお金まで入れてしまうことがあります。
非課税という言葉の印象が強いため、NISAには何か保護の仕組みがあるように 感じられることがあります。実際には、値下がりを止める仕組みも、 元本を保証する仕組みもありません。あるのは、利益が出たときに税金がかからないという 一点だけです。
そして、その一点が効かないとき——つまり損失が出たとき——には、 課税口座にはある救済のほうが使えなくなります。順番に見ていきます。
NISAの損失はどう扱われるか
NISA口座で売却して損失が出た場合、その損失は税務上「無かったもの」として扱われます。
これは「損が無くなる」という意味ではありません。実際に減ったお金は減ったままです。 無かったことにされるのは、税金の計算の上でだけです。 そのため、損失を使って税金を減らすことができません。
この扱いは、売って損失を確定させた場合の話です。持っているあいだの含み損は、 課税口座でも税金の計算には出てきません。そこは同じです。 違いが出るのは、売った瞬間からです。
課税口座なら、損失は税金の計算に使えます。ほかの利益から差し引けるので、 その分だけ納める税金が減ります。NISAではこれができません。
言い方を変えると、課税口座では損失に「税金を減らす価値」が付きます。 将来の利益と相殺できるので、損失そのものが税の面では持ち駒のように働きます。 NISAの損失にはその価値が付きません。
これは制度の設計としては筋が通っています。利益に課税しないのだから、 損失も計算に入れない、という対称になっているためです。 ただし利用する側から見ると、利益のときと損失のときで効き方が反対になります。
特定口座との損益通算はできるか
できません。NISA口座の損益は、課税口座の損益と合算しません。
たとえば同じ年に、特定口座で40万円の利益、NISA口座で40万円の損失が出たとします。 全体では差し引きゼロですが、税金の計算では次のようになります。
| 口座 | 損益 | 税金の計算に使えるか |
|---|---|---|
| 特定口座 | +40万円 | 課税の対象になる |
| NISA口座 | −40万円 | 使えない(無かったものとみなす) |
| 合計 | 0円 | 特定口座の40万円に課税される |
手元のお金は増えていないのに、税金だけがかかります。 これが、NISAの損失で起きるいちばん分かりにくい不利です。
仮に両方が課税口座だったなら、利益40万円と損失40万円が相殺され、 その年に納める税金はありません。口座の置き方が違うだけで、 同じ売買から出てくる税額が変わることになります。
気づきにくいのは、明細を見ても理由が書かれていないためです。 特定口座の年間取引報告書には課税口座の分しか載らず、NISAの損失はそこに現れません。 「なぜ相殺されていないのか」を確かめるには、両方の口座を並べて見る必要があります。
損益通算ができる相手は決まっています。上場株式等の譲渡損失は、 同じ上場株式等の譲渡益と、申告分離課税を選んだ配当等と相殺できます。 預貯金の利子とは相殺できません。どちらも同じ約2割の税率ですが、 通算できる範囲が違います。
NISA口座の損益は、この範囲のどこにも入りません。金額の大小ではなく、 そもそも計算に登場しないという扱いです。だから「NISAの損が大きいから 少しは考慮される」ということもありません。
翌年へ繰り越せるか
こちらもできません。課税口座の損失は、確定申告をすれば翌年以降3年間まで繰り越して、 将来の利益と相殺できます。NISA口座の損失は繰り越せません。
繰越をするには確定申告が要りますが、NISAはそもそも確定申告の対象外です。 申告する場所がないため、繰り越す手続きも存在しません。
- 課税口座の損失 … その年の相殺 → 使い切れなければ3年間繰越
- NISA口座の損失 … どちらもできない
繰越を使うには、損失が出た年に確定申告をしておく必要があります。 そして翌年以降も、相殺する利益が出なかった年を含めて、続けて申告しないと 繰越がつながりません。手間はかかりますが、金額が大きければ効きます。
NISAにはこの手続き自体がありません。損失が出た年に何かをしておけば あとで使える、ということもないので、あとから取り返す方法もありません。
課税口座との違い
利益が出たときと損したときで、有利・不利が入れ替わります。 並べると次のようになります。
| 場面 | NISA | 課税口座 |
|---|---|---|
| 利益が出た | 税金がかからない | 約2割が引かれる |
| 損失が出た | 税務上は無かったもの | 相殺・繰越ができる |
| 値動き | 同じ | 同じ |
| 確定申告 | 対象外 | 源泉徴収ありなら不要 |
もう一点、枠の面でも影響があります。NISA口座で損したまま売ると、 翌年に戻るのは買ったときの値段の分です。実際に戻ってきたお金より大きい枠が 戻ることになるので、枠の面では損をしていません。ただし、 減ったお金が戻るわけではありません。
使う前に理解しておきたいこと
この不利があるからNISAを使わないほうがよい、という話ではありません。 利益が出た場合に税金がかからない効果と、損失が出た場合に救済が使えない不利は、 どちらも同じ制度の裏表です。片方だけを見て判断しないことが要点になります。
実際のところ、影響が大きいのは課税口座でまとまった利益や損失を扱っている人です。 課税口座での取引がほとんどない人にとっては、相殺する相手がそもそもいないため、 この不利が現実の金額として表れる場面は多くありません。
知っておくべきなのは、次の2つです。
- 利益が出たときだけ効く制度で、損したときは効かないどころか不利になる
- 課税口座に損失や繰越がある人は、利益の置き場所を先に考える
特に2つ目は、判断が分かれるところです。繰り越している損失の額と、 あと何年使えるかによって答えが変わります。金額が大きい場合は、 税務署か税理士に確かめるのが確実です。
確かめる材料としては、繰り越している損失の残額、その損失が使える残りの年数、 そしてその年に確定させる予定の利益の額の3つがあれば足ります。 いずれも確定申告書の控えと、証券会社の年間取引報告書で分かります。
この記事の内容は一般的な扱いの説明で、個別の申告についての助言ではありません。 実際の申告は、その年の制度と、その人の他の所得を含めて判断することになります。
利益が出た場合の差の大きさは、NISAと特定口座の違いで扱っています。
最後に、実務的な話をひとつ。NISA口座で含み損を抱えたまま売るかどうかを、 税金を理由に決めないほうが安全です。課税口座なら「損出し」といって、 年内に損失を確定させて利益と相殺する手が使えますが、NISAではその手が効きません。 効かない手を前提に売り買いを組み立てると、判断がずれます。
売るかどうかは、その商品を持ち続ける理由があるかどうかで決めることになります。 税金の扱いは、そのあとに付いてくるものとして見たほうが整理しやすくなります。
