損失が出た年に相殺する相手がいなければ、その年に戻る税金はありません。 それでも申告する意味があるのは、使い切れなかった損失を 翌年以後に持ち越せるからです。ただし、黙っていても持ち越せるわけではありません。
繰越控除とは何か
繰越控除は、今年使い切れなかった損失を、翌年以後の利益から差し引ける仕組みです。 今年の損失を来年の利益にぶつけて、来年の課税対象を小さくします。
差し引ける相手は、損益通算のときと同じです。 上場株式等の譲渡益と、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当。 繰り越した損失を、給与所得から差し引くことはできません。
ここが「将来戻る税金」と言えない理由です。 繰越損失に税率をかけた金額は、あくまで上限です。 その金額が手に入ると決まっているわけではありません。
繰越控除が働く順番も決まっています。まずその年の損益を通算し、 それでも残った利益があれば、そこから繰越損失を差し引きます。 今年の損失と過去の損失が両方あるときは、今年の分を先に使い切る形になります。
差し引いた結果、課税対象がゼロになれば、その年に株の利益から源泉徴収された 税金は戻ってきます。利益が小さくて繰越損失を使い切れなければ、 残りはさらに翌年へ持ち越されます。期限が来るまでは、この繰り返しです。
何年使えるか
繰り越せるのは、損失が出た年の翌年以後3年間です。 その年に出た損失は、翌年・翌々年・その次の年まで使えます。 4年目には残っていても使えません。
大事なのは、この時計が損失が出た年ごとに別々に動くことです。 3年続けて損失が出ていれば、期限の違う損失を3つ抱えることになります。 合計額だけを覚えていると、どれが先に切れるのかが分かりません。
| 損失が出た年 | 使える期間 | 使えなくなる年 |
|---|---|---|
| 1年目 | 2年目から4年目まで | 5年目から |
| 2年目 | 3年目から5年目まで | 6年目から |
| 3年目 | 4年目から6年目まで | 7年目から |
3年という期間は、損失が出た年を含みません。損失が出た年は その年のうちに損益通算を済ませる年で、繰越が始まるのはその翌年からです。 「3年」と聞いて損失が出た年から数えると、1年ぶん短く見積もることになります。
期限の数え方は年単位で、月は関係しません。1月に出した損失も12月に出した損失も、 同じ年に出たものであれば期限は同じです。年末に売るか年明けに売るかで、 使える期間が1年ずれることになります。
毎年の申告が要る
繰越控除は、申告書を1回出せばあとは自動、という仕組みではありません。使うまでの各年に、連続して確定申告書を出し続ける必要があります。
- 1損失が出た年に、付表を付けた確定申告書を出す
- 2その後の年も、連続して付表を付けた確定申告書を出す
- 3実際に差し引く年にも、付表と計算明細書を付けた申告書を出す
付表というのは「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る 譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」のことです。 これが付いていない申告書では、繰越が続きません。
なぜ毎年の申告が要るのかというと、繰越損失は申告書の上でしか存在しないためです。 証券会社が管理しているのは口座ごとの損益までで、 繰り越している損失の残高を持っているわけではありません。 残高をつないでいるのは、毎年提出する申告書そのものです。
裏を返せば、自分でも残高を記録しておく必要があります。 申告書の控えを捨ててしまうと、いくら繰り越しているのかを あとからたどるのが難しくなります。控えは期限が切れるまで取っておくことになります。
取引がなかった年も出す
見落としやすいのがここです。その年に株を1回も売買していなくても、申告書を出す必要があります。 繰越を次の年へつなぐための申告だからです。
「今年は何も取引していないから、申告することがない」と考えて出さないでいると、 そこで繰越が途切れます。翌年に大きな利益が出ても、 せっかくの損失が使えなくなります。
取引がなかった年の申告は、書く金額もほとんどありません。 繰り越している損失の額を付表に書いて提出するだけです。 手間としては小さいのですが、出さなければ意味がないという点で、 忘れたときの損失だけが大きくなります。
会社員で、ふだんは年末調整だけで済ませている人ほど当たりやすい落とし穴です。 繰越を始めた年から、使い切るか期限が来るまでは、確定申告が続くことになります。
古い損失から先に使う
繰り越している損失が複数ある年は、古い年に出た損失から順に使います。 新しいものから使うと、先に期限が来るほうが残って消えてしまうためです。
同じ金額を繰り越していても、使う順番で最終的に消える額が変わります。 たとえば3年前の損失と1年前の損失を同じだけ抱えていて、 今年の利益がその片方ぶんしかないとき、どちらに当てるかで結果が変わります。
- 3年前の損失に当てる … 期限の近いほうが片付き、1年前の損失はまだ2年使える
- 1年前の損失に当てる … 3年前の損失は今年で期限が来て、使われずに消える
自分がいま何年分の損失をいくら抱えていて、今年どれが使われ、 どれが消えるのかは、金額を入れれば並びます。繰り越せる損失と期限を確かめると、発生した年ごとに分けて出ます。
期限が来るとどうなるか
期限の年までに使い切れなかった損失は、そこで消えます。 繰り延べたり、ほかの損失に付け替えたりはできません。
消えること自体を避けるために取引をするのは、順番が逆です。 期限に合わせて利益を確定させると、税金のために投資の判断を変えることになります。 ただ、いつ消えるのかを知らないまま過ごすのとは別の話です。 知ったうえで何もしないことは選べますが、知らなければ選べません。
損失が出た年に申告しなかった場合
繰越控除は、損失が出た年に申告しておくことが出発点です。 その年に出していなければ、翌年に利益が出ても差し引く損失がありません。 申告書の上に存在しない損失は、使えないからです。
ここで気になるのが、あとから出せるのかという点です。 確定申告をする義務がなかった年について、あとから申告書を提出できる場合があります。 ただし条件や期限があり、提出できる期間を過ぎていれば受け付けられません。一律に「あとからでも大丈夫」とは言えないところです。
実務的には、損失が出た年に申告しておくのがいちばん確実です。 その年に戻る税金がゼロでも、翌年以後の選択肢を残すための手続きになります。 申告の手間と、使えなくなる損失の大きさを比べて決めることになります。
もうひとつ、口座を解約したり証券会社を変えたりした場合も、 繰り越している損失そのものは消えません。損失は人に紐づいていて、 口座に紐づいているわけではないためです。 ただし金額の根拠として、当時の年間取引報告書や申告書の控えが要ります。
