いくら受け取れば、給与にならないか
会社が借りた住宅を役員に貸すとき、役員から賃貸料相当額を受け取っていれば、社宅を貸したこと自体は 給与として課税されません。受け取る額がそれより低ければ、 その差額が給与になります。無償で貸せば、相当額の全額が給与です。
ここが、この話でいちばん取り違えられるところです。 家賃20万円の部屋だから10万円は払わないといけない、という決まり方では ありません。家賃が高くても相当額が低いことがありますし、その逆もあります。 家賃と相当額は、別の場所から来る数字です。
受け取る額を決めるとき、まず押さえておきたいのは 「いくら受け取れば足りるか」であって「いくらまで下げられるか」ではない、 という向きです。下げるほど役員の手元に残る現金は増えますが、 相当額を割った瞬間に、割った分だけが給与として課税されます。 課税される側では所得税と住民税がかかり、社会保険の報酬にも響くので、 下げた額がそのまま手元に残るわけではありません。
「家賃の50%」はどこから来たのか
役員社宅の話で必ず出てくるのが「家賃の50%を払えばいい」という説明です。 これは使用人のルールで、役員には当てはまりません。 役員と使用人は別の通達で扱われていて、 使用人には「受け取る額が賃貸料相当額の50%以上なら、差額は課税しない」 という線があります。役員には、その線がありません。
紛らわしいのは、役員の話にも50%という数字が出てくることです。 ただし意味がまったく違います。小規模でない住宅を会社が借り上げて貸すとき、家主へ払う家賃の50%と、自社所有の式で計算した額を比べて、高いほうを賃貸料相当額とする、という決まりです。 受け取る額の下限を「家賃の半分」と定めたものではありません。
もうひとつ見かけるのが「家賃の10%でいい」という説明です。 こちらは根拠が見当たりません。小規模な住宅の計算をすると、 結果として家賃の1割前後になることはありますが、それは計算した結果であって、 先に1割と決めてよいという意味ではありません。
まず、小規模な住宅かどうか
計算式は、住宅が小規模な住宅に当たるかどうかで変わります。 分かれ目は床面積で、基準は建物の法定耐用年数によって違います。
| 建物の法定耐用年数 | 小規模な住宅となる床面積 |
|---|---|
| 30年以下 | 132㎡以下 |
| 30年超 | 99㎡以下 |
法定耐用年数は建物の構造で決まります。木造や軽量鉄骨は30年以下、 鉄筋コンクリート造は30年を超えるのが一般的です。 同じ120㎡の部屋でも、木造なら小規模、鉄筋コンクリートなら小規模ではない、 ということが起こります。
床面積が240㎡を超える場合は、別の判定が入ります。 取得価額や支払賃貸料、内外装の状況などから豪華社宅に当たるかどうかを見ることになり、 当たると下に書く計算式は使えません。 240㎡以下でも、一般的な住宅にはないプールなどの設備があれば該当します。
小規模な住宅の計算(3つの合計)
小規模な住宅の賃貸料相当額は、次の3つを足した額です。すべて1か月あたりで、 固定資産税の課税標準額はその年度分を使います。
- 1建物の固定資産税の課税標準額に、0.2%を掛けた額
- 212円に、建物の総床面積を3.3㎡で割った数を掛けた額
- 3敷地の固定資産税の課税標準額に、0.22%を掛けた額
2つめで使うのは建物の総床面積です。 その役員が住んでいる部屋の面積ではありません。 大きな建物の一室を借りている場合、ここを部屋の面積に置き換えると、 相当額が本来より小さく出ます。
自分の数字で計算するなら、会社と個人でいくら変わるかまで試算すると、相当額と、いまの想定額で給与課税される差額が同時に出ます。
小規模でない住宅の計算
小規模な住宅に当たらない場合は、住宅を会社が所有しているか、 他から借りているかで変わります。
会社が所有している場合
建物の課税標準額に12%(法定耐用年数が30年を超える建物は10%)を掛けた額と、 敷地の課税標準額に6%を掛けた額を足し、それを12で割った額が 1か月あたりの賃貸料相当額になります。
他から借りている場合
会社が家主に支払う家賃の50%に当たる額と、 上の自社所有の式で計算した額を比べ、高いほうが賃貸料相当額になります。
足りないと、何が起きるか
受け取る額が賃貸料相当額に足りないと、その差額が給与として課税されます。 ここで起きることを、順に見ておきます。
- 差額に所得税と住民税がかかります。役員本人の負担が増えます
- 社会保険の報酬にも影響します。標準報酬月額の等級が上がれば、本人と会社の保険料がどちらも増えます
- 会社から出ていくお金は変わりません。家賃を払っていることに変わりはないためです
会社の側から見ると、支出の名前が変わるだけで額は変わりません。 家賃として出ていった分のうち、相当額に足りない部分が給与として扱われる、 という整理になります。会社が新たに負担を増やすわけではないので、 「会社の経費が増えるから得」という話にもなりません。 増えるのは、受け取る側の税と、労使それぞれの社会保険料です。
社会保険については、もうひとつ知っておくことがあります。 社会保険で住宅を報酬に換算するときに使うのは、税務の賃貸料相当額ではなく、住宅の現物給与価額という別の定めです。都道府県ごとに額が違い、 税務で課税されない負担額でも、社会保険の報酬には入ることがあります。 税務の結論をそのまま社会保険に当てはめることはできません。
そもそも社宅と認められないもの
会社がお金を出していることと、社宅であることは別です。 次のものは社宅の貸与とは認められず、給与として課税されます。
| やり方 | 扱い |
|---|---|
| 現金で住宅手当を支給する | 給与 |
| 本人が家主と契約している家賃を、会社が負担する | 給与 |
| 会社が家主と契約し、役員に貸して相当額を受け取る | 社宅の貸与 |
違いは誰が家主と契約しているかです。 個人名義のまま会社が家賃を払っても、社宅にはなりません。 すでに個人で借りている部屋を社宅にしたい場合は、 家主の承諾を得て法人名義へ切り替える手続きが要ります。
あわせて用意しておきたいのが社宅規程です。 誰に貸すのか、使用料をどう決めるのか、退去のときにどうするのかを書いた 社内の決まりで、役員だけを特別扱いしていないことを示す材料になります。 使用料は給与から天引きする形にしておくと、受け取った記録が毎月残ります。 現金でやり取りすると、受け取っていたかどうかが後から確かめにくくなります。
計算の前に、そろえるもの
3つの式はどれも固定資産税の課税標準額を使います。 賃貸物件でも必要で、推定では代えられません。 推定した額が本来の相当額を下回れば、その差額が給与として課税されるためです。
- 1建物の固定資産税の課税標準額(家主、または物件のある市町村から)
- 2敷地の固定資産税の課税標準額(同じく)
- 3建物の総床面積と、貸す部屋の床面積(区分所有なら共用部分の按分も)
- 4建物の構造(法定耐用年数が30年以下か、30年超か)
課税標準額は、固定資産税の課税明細書に載っています。 賃貸物件では家主が持っているものなので、依頼して写しをもらうか、 物件のある市町村で固定資産課税台帳の閲覧を申請することになります。
そろったら、賃貸料相当額の計算機に入れると、1画面でその場で出ます。
