変更できるのは、事業年度の最初の3か月
役員報酬は、思い立った月に変えられるものではありません。 通常の改定として扱えるのは、会計期間が始まった日から3か月を経過する日までです。 4月に始まる事業年度なら、7月1日が期限になります。
ここでよく起きる取り違えが2つあります。 1つは「決算月から3か月」と読んでしまうこと。数えるのは決算のあとではなく、 新しい事業年度が始まった日からです。 もう1つは「3か月以内」と読んで、期限を1日手前で切ってしまうこと。 条文の言い方は「3か月を経過する日まで」なので、 4月1日開始なら7月1日が含まれます。
期限を過ぎていても、役員報酬を払い続けること自体はできます。 できなくなるのは「金額を動かすこと」で、しかも動かせないわけではなく、 動かすと通常の改定としては扱われなくなる、というのが正確なところです。 何が変わるのかは、次の節から順に見ていきます。
なぜ期限があるのか(定期同額給与)
期限があるのは、役員報酬が定期同額給与という形で会社の損金に算入されるためです。 定期同額給与とは、支給の時期が1か月以下の一定の期間ごとで、 事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものを指します。
役員は自分の報酬額を自分で決められる立場にあります。 利益が出そうな月に報酬を増やせば、その分だけ会社の所得は減ります。 これを自由に認めると、利益の調整が後からいくらでもできてしまう。 そこで「期の初めに1年分を決めて、あとは同額を払い続ける」という形にしたものだけを 損金として認める、という作りになっています。
同額であることが条件なので、途中で増やすのも減らすのも、 原則としては通常の改定にあたりません。 増やす方向だけが問題になるわけではない、というのは覚えておくと役に立ちます。
もう一つ、見落とされやすい点があります。 定期同額給与は1つの事業年度の中で同額であることを見ています。 したがって、期の初めに改定したあとは、翌期の初めまでその金額が続く前提になります。 「とりあえず3か月だけこの額にして、様子を見てから戻す」という使い方はできません。 決めるのは1か月分ではなく、12か月分だということになります。
これは資金繰りの面では重い条件です。 売上が落ちた月も同じ額を払い続けることになるので、 役員報酬は実質的に固定費として扱うことになります。 金額を決めるときに「平均的な月なら払える額」ではなく 「いちばん苦しい月でも払える額」から考える会社が多いのは、このためです。
外すと、会社から出た額はそのままで税だけ減らない
要件を外したときに何が起きるかを、金額の行き先で見ておきます。 役員報酬は会社から出ていくお金なので、会社の現金はそのぶん減ります。 ここは要件を満たしていても満たしていなくても同じです。
違うのは、法人税を計算するときの所得から引けるかどうかです。 引ければ、所得が減って法人税も減ります。 引けなければ、会社から現金は出たのに、税の対象は減りません。
しかも、受け取った本人の側では給与所得として課税されます。 会社では損金にならず、個人では課税される。 同じお金に対して、両側で不利な扱いが重なることになります。 金額をいくらにするかより先に時期を確かめるべきなのは、このためです。
自分の会社の数字でどれだけ変わるかは、役員報酬を変えたときの個人と法人の増減を試算すると、個人の手取り・会社に残る資金・税と社会保険を並べて見られます。 改定できる時期かどうかも同じ画面で判定します。
3か月を過ぎても改定できる場合
期限を過ぎていても、次のどちらかに当たれば改定できます。 どちらも「決算の都合で動かしたい」という理由では使えません。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定 |
| 業績悪化改定事由 | 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額の改定 |
臨時改定事由
役職が変わった、担当する職務の範囲が大きく変わった、といった事情です。 会社の中での立場や仕事が実際に変わったことが前提なので、 肩書きだけを変えて報酬を動かす、という使い方はできません。
業績悪化改定事由
こちらは減額の方向にしか使えません。 しかも「著しく悪化した」ことが必要で、 一時的に資金繰りが苦しいという程度では当たらないとされています。 売上が落ちたから下げる、という判断がそのまま通るわけではありません。
賞与は別の制度(事前確定届出給与)
ここまでは毎月の役員報酬の話です。 役員に賞与を出す場合は、事前確定届出給与という別の制度になります。 名前のとおり、支給する時期と金額をあらかじめ決めて、税務署へ届け出ておくものです。
届出の期限は、原則として株主総会等の決議から1か月以内、 または会計期間の開始から4か月以内のいずれか早い日です。 毎月の報酬の改定期限(3か月を経過する日)とは別の日付なので、 同じものとして覚えないほうが安全です。
届け出た金額と実際に支給した金額が違うと、 原則として支給した全額が損金に算入されません。 「届けた額より少なく払う」も含めてずれになる、という点が毎月の報酬と違うところです。
期を逃したときにできること
期限を過ぎていることに気づいたとき、まずやることは 「今期は動かさない」と決めてしまうことです。 動かせないと分かっていれば、残りの期間は別のことに使えます。
次の事業年度の開始日は、いまの事業年度の開始日の1年後です。 その日から3か月を経過する日までが、次に金額を動かせる期間になります。 期限が分かっていれば、それまでに決めておくべきことを逆算できます。
- 来期の売上と利益の見込みを、いまの実績から置いてみる
- 個人で必要な毎月の手取りを、生活費と個人の支払いから数える
- 会社に何か月分の運転資金を残したいかを、月あたりの固定費から決める
- その2つを満たす役員報酬の範囲を、先に出しておく
役員報酬は、金額の有利不利だけで決まるものではありません。 個人で必要な現金が先にあり、会社に残すべき現金も先にあります。 その両方を満たす範囲がどこまでかを先に出しておけば、 次の期の初めに迷う時間が短くなります。
変更するときの手順
金額を決めたあとにやることは、多くありません。 ただし「決めた」ことを後から示せる形にしておく必要があります。
- 1自分の会社の事業年度が何月に始まるかを確かめる(決算月の翌月)
- 2開始の日から3か月を経過する日までに、新しい金額を決める
- 3株主総会(または取締役会)で決議し、議事録を残す
- 4決めた月から、毎月同額で支給する
- 5社会保険の標準報酬月額が変わる場合は、随時改定の届出を確認する
議事録は、あとから「いつ、いくらに決めたか」を示すための記録です。 金額を動かしたこと自体は支給の実績から分かりますが、 それが期間内に決議されたものかどうかは、記録がなければ示せません。 決議した日付と金額が書いてあれば足りるので、様式にこだわる必要はありません。
5番目は見落としやすいところです。 役員報酬を変えても、社会保険料が同じ月から自動で切り替わるわけではありません。 固定的な賃金が大きく変わり一定の条件を満たした場合に、 変更後3か月の報酬をもとに4か月目から標準報酬月額が改定されます。
- 報酬を上げた月から、すぐに社会保険料が上がるわけではない
- 逆に、下げた月からすぐ下がるわけでもない
- そのため、変更した年度は「平常時」と手元の現金の動きがずれる
