標準報酬月額とは
健康保険と厚生年金の保険料は、毎月の給与の額そのものにかけて計算するのではありません。 報酬月額をあらかじめ決められた等級の値に当てはめ、 その値に料率をかけます。この等級の値が標準報酬月額です。
「÷2」があるのは、健康保険と厚生年金の保険料を勤務先と折半しているためです。 給与明細に出ているのは半分だけで、同じ額を勤務先も負担しています。 採用にかかる費用として語られる「人件費」が給与より大きくなるのは、 この事業主負担があるためです。
等級の区切りは、隣り合う標準報酬月額のちょうど中間です。 たとえば標準報酬月額98,000円の等級に入る下限は、 88,000円と98,000円の中間である93,000円になります。 この決まり方のおかげで、報酬月額はいちばん近い等級に寄せられます。
等級で丸めているのは、事務を簡単にするためです。 毎月1円単位で変わる給与に対して、そのつど保険料を計算し直していては、 勤務先も保険者も処理しきれません。 あらかじめ決めた段に当てはめることで、 同じ等級の人は同じ保険料になり、計算も検算もしやすくなります。
等級の刻みは、低い報酬の帯では細かく、高い帯では粗くなっています。 報酬が少ない人ほど、少しの差で保険料が大きく変わらないようにする配慮です。 逆に高い帯では、1つの等級がカバーする報酬の幅が広くなります。
何が報酬に含まれる?
等級を決めるときの「報酬月額」は、基本給だけではありません。 労働の対償として勤務先から受け取るもののうち、 毎月または年3回以下でない形で支給されるものが幅広く含まれます。 現金で払われるものだけでなく、社宅や食事のように現物で提供されるものも、 金額に換算して含めます。
| 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|
| 基本給・役職手当・家族手当 | 年3回以下の賞与(別に標準賞与額として計算) |
| 残業手当・休日出勤手当 | 退職金・結婚祝金などの慶弔費 |
| 通勤手当・住宅手当 | 出張旅費・交際費など実費弁償にあたるもの |
| 現物支給(社宅・食事など) | 傷病手当金・労災の給付 |
いつ決まる?
標準報酬月額は、毎月の給与に合わせて自動で動くものではありません。 決まったタイミングで見直され、次の見直しまで同じ等級が使われます。
- 資格取得時決定:入社したときに、見込みの報酬から決める
- 定時決定:毎年、決まった月の報酬をもとに見直し、その年の後半から翌年にかけて適用する
- 随時改定:報酬が大きく変わったときに、定時決定を待たずに見直す
- 産前産後・育児休業等終了時改定:復職して報酬が下がったときに見直せる仕組み
この仕組みのため、いまの給与と、いま引かれている保険料は必ずしも対応していません。 残業が多かった時期に決まった等級が、残業が減ったあとも続くことがあります。
定時決定は、毎年決まった月の報酬をもとに行われます。 その結果は年の後半から適用され、次の定時決定まで続きます。 つまり1年のうち、特定の数か月の報酬が、その後1年間の保険料を決めています。 その数か月に残業が集中すると、影響は1年続きます。
産前産後休業や育児休業から復職したあとには、 報酬が下がったことを反映しやすくする仕組みがあります。 通常の随時改定より緩い条件で見直せるため、 時短勤務に切り替えた場合などは、勤務先に確認する価値があります。
給料が変わった場合
昇給や異動で報酬が大きく変わったときは、定時決定を待たずに等級を見直します。 これが随時改定で、一定の等級以上動いたときに行われます。
注意したいのは、変わった月からすぐに保険料が変わるわけではない点です。 報酬が変わってから数か月分の平均を見て判断するため、保険料が変わるのは少し遅れます。 昇給した直後は保険料が据え置かれ、あとから増えることになります。
減ったときも同じだけ遅れる
報酬が減ったときも同様に、保険料の引き下げは遅れて反映されます。 収入が下がった直後は、高かった頃の等級で保険料が引かれ続けるため、 手取りの落ち込みが一時的に大きく感じられます。
残業が多い時期が続いた場合も同じことが起こります。 定時決定の対象になる月にたまたま残業が集中していると、 その後1年近く、高めの等級で保険料が計算されます。 「残業が減ったのに保険料が高いまま」というのは、この時間差によるものです。
保険料が高いことに意味がある場面
標準報酬月額は、保険料の計算だけに使われるのではありません。 将来受け取る老齢厚生年金の額、病気で働けないときの傷病手当金、 出産のときの出産手当金も、この金額をもとに計算されます。
つまり、標準報酬月額が高い期間は保険料も高くなりますが、 そのぶん将来の年金や、いざというときの給付も大きくなります。 手取りだけを見ると損に見えても、受け取る側の計算にも同じ数字が使われています。
上限があるということ
標準報酬月額には上限があり、健康保険と厚生年金では上限の水準が違います。厚生年金のほうが低い水準で頭打ちになります。
等級の数も違い、健康保険のほうが上まで細かく段が続きます。 このため、月給が上限を超えると、それ以上いくら増えても厚生年金の保険料は増えません。 高収入の人ほど、額面に対する社会保険料の割合は下がっていきます。 手取り率が年収とともに下がり続けるわけではなく、 途中から下がり方がゆるやかになるのは、この上限の効果です。
上限があるのは、受け取る側にも上限があるためです。 厚生年金の額は標準報酬月額をもとに計算されるので、 保険料に上限がなければ年金にも上限がなくなります。 制度としては、払う額と受け取る額の両方に天井を置く形になっています。
下限も同じように設けられています。 報酬が非常に少ない場合でも、下限の等級で保険料が計算されます。 ただし、そもそも被用者保険に加入するかどうかは、 勤務時間や勤務先の規模といった別の条件で決まります。
上限の金額と等級の数は会社員の社会保険料率に載せています。制度改正で変わることがあるため、記事本文には書いていません。
賞与との違い
賞与にも社会保険料はかかりますが、計算の仕組みが月給と違います。 賞与の額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に、同じ料率をかけます。 等級に丸めるのではなく、実際の支給額をそのまま使う点が違います。
標準賞与額にも上限があり、健康保険と厚生年金で数え方が違います。 片方は年度の累計で、もう片方は1回の支給ごとに上限が設けられています。 このため、年収を12等分して計算した保険料とは必ずずれます。
賞与の割合が大きい働き方をしている人ほど、このずれは大きくなります。 手取りを正確に出したいときは、年間の賞与を分けて入れる価値があります。自分の社会保険料を含めて手取りを診断するでは、賞与を別に入力できるようにしています。
自分の標準報酬月額は、給与明細からおおよそ逆算できます。 健康保険料の欄の金額を、加入している保険者の料率の半分で割ると、 その時点で使われている標準報酬月額に近い数字が出ます。 正確な等級は勤務先の給与担当か、日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できます。
賞与の手取りがどう決まるかはボーナスの手取りはどう決まる?で詳しく扱っています。
