「元本割れするから続ける」は判断になっていない
貯蓄型の保険を解約しようとすると、たいていこの数字にぶつかります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| これまで払った保険料 | 800万円 |
| いま解約すると戻る額 | 650万円 |
| 差 | −150万円 |
よくある状況
ここで「150万円も損するなら続けよう」と考えるのは自然です。 ただし、この150万円は、続けても解約しても戻ってきません。 すでに保険会社に渡ったお金で、今日からの選択では動かせない部分です。
この記事では、何と何を比べれば判断できるのかを整理します。 解約をすすめる記事でも、続けることをすすめる記事でもありません。 比べ方が決まっていないと、どちらを選んでも後から不安になるからです。
戻らないお金を、判断から外す
図の左側が、すでに出ていったお金です。 続けても解約しても、ここは変わりません。 右側だけを見て、どちらが多く残るかを比べます。
それでも左側が気になるのは、人の感覚としては当然のことです。 ここまで払ったという事実は重く、無かったことにはできません。 ただ、その重さは、これからの損得を変えません。 重さを感じたまま、右側だけで比べる。この切り分けができるかどうかが、 この判断のほとんどを決めます。
過去の差額には、もうひとつ役割があります。契約の実績を知ることです。 20年払って元本割れしているなら、その契約は貯蓄として効率がよくなかった、という事実が分かります。 ただしそれも「これから先も同じとは限らない」ので、 将来の返戻金を保険会社から取り寄せて確かめることになります。
選択肢は2つではなく3つ
「続けるか、解約するか」で悩んでいる人が多いのですが、 間にもうひとつあります。払済保険への変更です。
| 今後の保険料 | 保障 | 手元に入る現金 | |
|---|---|---|---|
| 続ける | 払い続ける | いまのまま | 無い |
| 払済にする | 止まる | 小さくなって残る | 無い |
| 解約する | 止まる | 無くなる | 解約返戻金 |
3つの選択肢
払済は、保険料の支払いだけを止めて契約を残す変更です。 解約返戻金は手元には来ず、保障額を下げた保険の原資として使われます。保険料は止めたいが、保障をゼロにはしたくない場合の選択肢になります。
さらに細かく見ると、選択肢は5つあります。 保障額を減らす「減額」と、特約だけをやめる「特約の解約」を入れると、 保険料を一部だけ軽くする道もあります。
| 方法 | 保険料 | 残るもの |
|---|---|---|
| 減額 | 減らした分だけ安くなる | 小さくなった保障と、特約 |
| 特約の解約 | 特約の分だけ安くなる | 主契約はそのまま |
| 払済 | 止まる | 小さくなった主契約のみ |
| 延長(定期)保険 | 止まる | 同額の死亡保障。期間は短くなることがある |
| 解約 | 止まる | 何も残らない。現金を受け取る |
保険料を軽くする・止める方法
一時的に苦しいだけなら、減額や特約の解約のほうが戻しやすいことがあります。 払済や延長に変えると、払込を再開することはできません。 収入が戻ったときに元に戻すには復旧の手続きが要り、告知か診査が必要になります。
ただし、払済にできる契約とできない契約があります。 解約返戻金が少なければ変更できず、保険種類によっては取扱いがありません。 詳しくは払済保険とは?で扱っています。
同じ資金条件にそろえて比べる
3つを比べるときに、ほとんどの人が落とす項目があります。払わずに済む保険料です。
続ける人は保険料を払い続けます。払済と解約の人は払いません。 保険会社が示す将来の返戻金だけを並べると、 払っていないぶんのお金が消えた比較になり、続けるほうが必ず有利に見えます。
月2万円の保険料で、あと10年払う契約なら、払わずに済む額は240万円です。 これを現金のまま置いておくのでも、別の置き場所に移すのでも、手元に残っているという事実は変わりません。 3案を並べるときは、この240万円を払済と解約の側に足してから比べます。
具体的に並べると、こうなります。月2万円・あと10年・いまの返戻金180万円の契約で、 保険会社から「続けた場合の10年後は500万円、払済にした場合は210万円」と返ってきたとします。 払わずに済む保険料は240万円です。現金のまま置く前提で足すと、次のようになります。
| 案 | 保険から | 払わずに済む保険料 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 続ける | 500万円 | 0円 | 500万円 |
| 払済にする | 210万円 | 240万円 | 450万円 |
| 解約する | 180万円 | 240万円 | 420万円 |
同じ条件でそろえた例(利回り0%・税金は考慮せず)
この例では続ける側が多く残ります。 ただし、払済と解約の側に240万円を足さなければ、500万円・210万円・180万円という並びになり、差はまったく違って見えます。 足すか足さないかで、結論ではなく差の大きさが大きく変わる、というところが重要です。
金額で決められない部分
ここまでは金額の話でした。 ただし、この判断は金額だけでは決められません。解約すると保障が終わるからです。
解約した場合の金額には、失う保障を別で用意するときの費用が入っていません。 同じ保障を買い直すと新しい保険料がかかり、そのぶん解約側の数字は小さくなります。 必要な保障がほかで足りているなら、この費用はかかりません。 足りていないなら、買い直す費用まで含めて比べることになります。
- いま必要な保障額はいくらか
- その契約が無くなったとき、足りなくなる額はいくらか
- 足りない分を別で用意する場合、保険料はいくらか
- 健康状態で、入り直せるか
この4つが先です。金額の順位は、そのあとに見ます。
保障の必要額は、年齢とともに下がっていくのが普通です。 子どもが小さいうちは、万一のときに教育費と生活費を長く賄う必要がありますが、 独立すれば必要額は大きく減ります。契約したときに必要だった額と、いま必要な額は違います。 「当時は必要だった」ことと「いまも必要」であることは別なので、 そこは数え直す価値があります。
逆に、死亡保障ではなく貯蓄の置き場所として入っている契約なら、 失う保障はそもそも小さいことになります。 その場合は金額の比較がそのまま判断材料になります。 自分の契約がどちらなのかは、証券の死亡保険金額を見れば見当が付きます。 払った保険料の総額に近い金額しか設定されていないなら、 保障として買っていたものは多くありません。
解約を検討する価値がある場面
解約がすすめられる場面、という書き方はしません。 どの契約にも事情があり、一律には決まらないからです。 代わりに、比べておく価値が高い場面を挙げます。
| 場面 | なぜ比べる価値があるか |
|---|---|
| 保険料の負担が重い | 払い続けられないなら、止める方法を先に知っておく必要がある |
| 近く大きな現金支出がある | 保険の中のお金は、使いたいときにすぐ動かせない |
| 必要な保障が別契約で足りている | 保障を失う影響が小さい |
| 払込が終わっている | 今後の保険料がゼロなので、続ける側の負担がない |
比べておく価値が高い場面
逆に、健康状態で入り直せない場合は、金額の順位より先に保障を確かめることになります。 失う保障は、資産の多さでは埋め合わせられません。
急いで決めないほうがよい場面もあります。 低解約返戻金型の契約で、払込満了まであと数年という場合です。 この型は払込期間中の返戻金を低く抑えてあり、満了すると返戻率が上がります。 満了の直前に解約すると、その段差をまたぐ直前で降りることになります。 あと何年で満了するのかは、証券か返戻金予定表で確かめられます。
決める前にやること
順番があります。数字を取り寄せる前に決めようとすると、推測で判断することになります。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | いま必要な保障額を数える |
| 2 | 保険会社に、いまの解約返戻金を確認する |
| 3 | 払済に変更できるか、変更後の保障額と将来の返戻金を取り寄せる |
| 4 | 続けた場合の、将来の返戻金を取り寄せる |
| 5 | 3案を同じ条件で並べる |
決めるまでの順番
2から4は同じ電話で頼めます。 コールセンターでも代理店でも、契約番号を伝えれば試算を出してもらえます。 その場で答えが出ないこともありますが、書面で郵送されるか、 契約者向けのページで確認できる形になることが多いはずです。
3と4が揃うまで、3案の順位は出せません。 将来の返戻金は商品ごとに決まっていて、 いまの返戻率から逆算することはできないからです。 とくに低解約返戻金型は払込期間の前後で段が付くので、 いまの率を伸ばした数字は実際とまったく違います。
