なぜ課税標準額が要るのか
役員社宅で役員からいくら受け取るかは、賃貸料相当額という額で決まります。 その計算式は3つの部分からできていて、どれも固定資産税の課税標準額を使います。
つまり、この額が分からないと相当額そのものが出ません。 家賃から逆算することもできません。家賃は家主との交渉で決まった額で、 固定資産税の計算とは別のところから来ているためです。
借りている物件なのに、なぜ固定資産税の書類が要るのか。 固定資産税は、その不動産を持っている人にかかる税だからです。 会社が借り上げている社宅なら、払っているのは家主で、 毎年の納税通知書も家主のところへ届きます。借りている会社には届きません。 それでも国税庁の計算式が課税標準額を使うと定めている以上、 借りている側がその額を知る必要がある、という形になっています。
必要なのは建物と土地の両方で、片方だけでは足りません。 式の1つめが建物、3つめが敷地の課税標準額を使うためです。 区分所有のマンションであれば、敷地は住戸ごとの持分に応じた額が 明細書に載ります。建物についても、専有部分と共用部分の持分が 分かれて記載されることがあります。どちらも、明細書の見方を 確かめてから拾うのが確実です。
評価額と課税標準額は、別の額
固定資産税の書類には、似た名前の金額がいくつも載っています。 まず押さえるのは、評価額(価格)と課税標準額が同じとは限らない、ということです。
課税標準額は、原則として価格と同一とされています。 ただし次の場合に、価格とは違う額になります。
| 違ってくる場合 | 何が起きるか |
|---|---|
| 住宅用地の課税標準額の特例 | 住宅1戸につき200㎡までの部分は、固定資産税の課税標準額が価格の6分の1になります。200㎡を超える一定の部分は3分の1です |
| 土地についての税負担の調整措置 | 前年度の課税標準額が低い土地では、負担水準に応じて今年度の課税標準額を段階的に引き上げます |
住宅用地の特例は、住宅が建っている土地なら当たり前に適用されます。 社宅にしようとしている物件は住宅ですから、土地のほうは評価額と課税標準額が大きく違っているのがふつうです。 評価額をそのまま式に入れると、相当額が本来より大きく出ます。
負担調整措置のほうは、さらに分かりにくい仕組みです。 前年度の課税標準額が低い土地では、今年度の額を一気に上げず、 負担水準に応じて段階的に引き上げます。住宅用地であれば、 前年度の課税標準額に特例適用後の金額の5%を加える、という形で近づけていきます。 ただし特例適用後の金額を上限とし、その20%を下限とします。 つまり同じ評価額の隣り合った土地でも、 これまでの経緯によって課税標準額が違うことがあります。
ここまでを整理すると、土地の課税標準額は「評価額に特例率を掛け、 さらに前年度からの調整を経た額」になります。 手元の数字が評価額なのか、特例を掛けただけの額なのか、 調整まで済んだ額なのかで、3つとも違う数字になりえます。 式に入れるのは、最後の額です。
明細書のどの欄を見るか
毎年の納税通知書には課税明細書が付いています。 ここに物件ごとの金額が並びますが、欄の名前と並びは 市町村ごとに違います。同じ「課税標準額」という言葉でも、 本則の額と調整後の額が別の欄に分かれていることがあります。
横浜市の様式を例にすると、土地には評価額、本則課税標準額、課税標準額が それぞれ載ります。本則課税標準額は原則として価格で、住宅用地なら 価格に特例率を掛けた額です。そこから負担調整を経た額が課税標準額になります。
どの欄を使うかで迷ったときは、物件のある市町村の固定資産税の窓口か、 顧問税理士に確認してください。ここを1つ取り違えると、 相当額も、受け取るべき額も、まるごとずれます。
賃貸物件のとき、家主に頼む
会社が借り上げる社宅では、固定資産税を払っているのは家主です。 課税明細書も家主に届きます。借りている側に送られてくるものではないので、家主に写しをもらうのがいちばん早い道になります。
- 1不動産会社を通しているなら、まず管理会社に相談する
- 2何に使うかを伝える(役員社宅の賃貸料相当額の計算に要る、と言えば通じやすい)
- 3必要なのは建物と土地の両方である、と伝える
依頼するときは、使い道を先に伝えるほうが話が早く進みます。 家主からすると、税額が分かる書類を借主に渡すことになるので、 何に使うのか分からないままでは警戒されて当然です。 税理士に提出する計算の資料として必要だと伝えれば、 不動産会社を通している場合でも取り次いでもらいやすくなります。
断られることもあります。家主にとっては税額が分かる書類なので、 出したくないと言われても不思議ではありません。 写しは渡せないが金額だけなら伝えられる、という答えになることもあります。 それでも計算には足りるので、まずは金額だけでも聞いてみてください。 どうしても取れないときは、次の方法になります。
家主から取れないとき、市町村で閲覧する
市町村は固定資産課税台帳を備えていて、 一定の人はその内容を見ることができます。借家人も、賃借している部分について閲覧できる扱いがあります。
- 窓口は、物件のある市町村の固定資産税の担当課です
- 賃貸借契約書など、借りていることが分かる書類の持参を求められます
- 見られるのは賃借している部分についてです。建物まるごとの情報が出るとは限りません
- 手数料や必要書類は市町村ごとに違います。行く前に電話で確かめるのが確実です
推定で代えてはいけない理由
書類がそろわないと、つい「だいたいこのくらい」で決めたくなります。 家賃の1割くらい、近隣の相場から、といった置き方です。 これを避けたほうがよいのは、外したときの向きが一方的だからです。
推定した額が本来の相当額を下回れば、その差額が給与として課税されます。 会社から出ていくお金は変わらないのに、役員の所得税と住民税が増え、 社会保険の報酬にも乗ります。あとから指摘されれば、 過去の分までさかのぼって精算することになります。
書類がそろったら、会社と個人でいくら変わるかまで試算すると、相当額と、いまの想定額で給与課税される差額が同時に出ます。
年度が変わったら、計算し直す
課税標準額は、その年度分の額です。評価替えや負担調整で動きますし、 住宅用地の特例が外れれば大きく変わります。 つまり相当額も、年度が変われば動きます。
実務では、社宅規程に金額そのものを書かないでおくのが扱いやすい形です。 「賃貸料相当額とする」と書いておけば、額が動いたときに規程まで直さずに済みます。 金額を書き込むと、動いた年に規程と実際の天引き額が食い違います。
「その年度分」という言い方にも気をつけてください。 固定資産税は1月1日時点の所有者に、その年度分として課される税です。 年度の途中で評価額が動くわけではありませんが、 年度が替われば額は変わりえます。 去年の明細書を見ながら今年の相当額を決めると、 その差のぶんだけ受け取る額がずれることになります。
とはいえ、毎年必ず大きく動くわけでもありません。 土地の評価替えは3年ごとで、その間の年は負担調整による動きが中心です。 大きく動くのは、評価替えの年と、住宅用地の特例の適用が変わった年です。 社宅をやめて事務所にした、といった使い方の変更があると、 特例が外れて課税標準額が跳ね上がることがあります。
