役員報酬

役員報酬を上げると法人税はどうなる?

役員報酬は損金になるので、上げれば法人税は減ります。ただし減る税より、会社から出ていく額のほうが大きくなります。

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この記事の要点

  • 法人の税は1つではなく、所得に乗るものと、計算した法人税額に乗るものに分かれます
  • 資本金1億円以下の普通法人では、年800万円以下の部分に軽減税率がかかります。境目を超えても、下の部分の税率は変わりません
  • 役員報酬も会社負担の社会保険料も損金になるため、報酬を上げると法人の課税所得は二重に減ります
  • 減る法人税より、会社から出ていく額のほうが必ず大きくなります。節税を目的に金額を決めると手元の現金が足りなくなります
  • 法定実効税率は法人事業税の損金算入を織り込んだ割り戻しの率で、その期に出ていく現金とは別のものです

法人の税は1つではない

会社の利益にかかる税金を「法人税」とひとことで呼ぶことが多いのですが、 実際には複数の税が重なっています。 しかも、何を土台にして計算するかが税ごとに違います。

法人の税は、所得に乗るものと法人税額に乗るものに分かれる所得に乗るもの課税所得法人税法人事業税(所得割)法人税額に乗るもの法人税の額地方法人税法人住民税(法人税割)防衛特別法人税
灰色の帯が、それぞれの税が計算の土台にしている額です。左は所得そのもの、右は計算した法人税の額に乗ります。特別法人事業税だけはさらに別で、法人事業税の額を土台にします。1つの実効税率にまとめると、この違いも、所得の段階で変わる税率も見えなくなります。

重なっている理由は、国と地方の両方が法人に課税しているためです。 国が課すのが法人税と地方法人税と防衛特別法人税で、 都道府県や市町村が課すのが法人住民税と法人事業税です。 地方法人税は名前に「地方」と付きますが国税で、 集めた額が地方交付税の原資に回る仕組みになっています。

所得そのものを土台にするのが、国税の法人税と、地方税の法人事業税です。 一方で、地方法人税と法人住民税の法人税割は、 計算した法人税の額に料率をかけて出します。 2026年4月1日以後に始まる事業年度からは、防衛特別法人税も法人税額を土台に加わります。

特別法人事業税だけは、さらに別です。 これは法人事業税の所得割の額を土台にします。 土台の土台、という形になっているため、所得が増えると二段階で効いてきます。

このほかに法人住民税の均等割があります。 これは資本金と従業者数で決まり、所得では変わりません。 赤字でもかかる代わりに、役員報酬を動かしても金額は同じです。

所得の段階で税率が変わる

国税の法人税には、所得の段階によって違う税率が用意されています。 資本金1億円以下の普通法人の場合、 年800万円以下の部分には軽減税率が、それを超える部分には基本税率がかかります。

境目を超えても、下の部分の税率は変わらない1年の課税所得軽減税率の部分基本税率の部分境目
帯の全体が1年の課税所得です。境目を超えた分にだけ高いほうの税率がかかり、境目までの部分は軽減税率のままです。所得が1円増えたことで、全額の税率が上がるわけではありません。役員報酬を動かすと、課税所得がこの境目をまたぐことがあります。

ここで取り違えやすいのが、境目を1円超えたときに全額の税率が上がるわけではないことです。 超えた部分にだけ高いほうの税率がかかり、 800万円までの部分は軽減税率のままです。 個人の所得税の累進と同じ考え方です。

マネック(案内役):「800万円を超えると税率が上がる」は半分だけ正しいよ。 上がるのは、超えた分にかかる税率だけ。

軽減税率には、使えない場合もあります。 資本金が1億円を超える普通法人は対象外で、所得のすべてに基本税率がかかります。 また、資本金が小さくても、 過去数年の所得の年平均が大きい法人は適用除外事業者として扱われ、 800万円以下の部分にも高い税率が適用されます。

法人事業税の所得割にも段階があります。 こちらは400万円と800万円で区切られていて、法人税とは刻みの数が違います。 同じ「800万円」でも、どの税の話をしているかで意味が変わります。

税率そのものと、適用される事業年度は法人にかかる税金の税率のページにまとめてあります。改正があれば、読んだ日付とあわせて更新しています。

報酬を上げると、法人税はどう動くか

役員報酬は、要件を満たしていれば会社の損金になります。 損金になるということは、法人税を計算するときの所得から引けるということです。 報酬を上げれば所得が減り、法人税も減ります。

引けるのは報酬だけではありません。会社が負担する社会保険料も損金になります。 報酬を上げると会社負担の保険料も増えるので、その分も所得から引かれます。

会社から出るもの法人税の計算で引けるか
役員報酬(要件を満たす場合)引ける
役員報酬(要件を満たさない場合)引けない
会社負担の社会保険料引ける
法人住民税の均等割引けない

報酬を動かすと、課税所得が税率の境目をまたぐことがあります。 所得が800万円を下回る水準まで下がれば、 超えていた部分にかかっていた基本税率の分がなくなります。 逆に、報酬を下げて所得が大きく増えれば、境目を上向きにまたぎます。

自分の会社の数字でどれだけ動くかは、報酬を変えたときの個人と法人の増減を試算すると、法人の課税所得と法人税等が報酬ごとに並びます。

法人税が減ることは、得をすることではない

ここがいちばん間違えやすいところです。 役員報酬を上げれば法人税は減りますが、減った法人税より多くのお金が会社から出ていきます。

会社から出るのは報酬の全額と、それに対する会社負担の社会保険料です。 戻ってくるのは、そのうち法人税等の税率をかけた分だけです。 税率が3割なら、1万円出して3千円が戻る計算になります。

  • 会社から出る額のほうが、減る法人税より必ず大きい
  • 出た分は個人に入るが、そこで所得税・住民税・社会保険料がかかる
  • 個人と会社を合わせて見ないと、どちらに残るかの比較にならない

会社から出る額と戻る額の差は、報酬が大きいほど開きます。 個人側の所得税は累進なので、報酬を上げるほど個人にかかる税率が上がる一方、 法人税の税率は所得の段階で決まっていて、ある水準から先は一定だからです。 どこまで上げると割に合わなくなるかは、会社の利益水準によって変わります。

逆に、報酬を下げれば法人税は増えますが、 会社に残る現金はそれ以上に増えます。 どちらが良いかは、個人でいくら必要か、会社にいくら残したいかで決まります。 税額の大小だけでは決まりません。

「法人税を減らすために役員報酬を上げる」という考え方は、 会社から出ていく額のほうが大きいことを見落としています。 節税を目的に金額を決めると、手元の現金が足りなくなることがあります。

損金にならないと、何が変わるか

ここまでは、役員報酬が損金になることを前提にしてきました。 定期同額給与などの要件を満たさない役員給与は、 原則としてこの前提から外れます。

外れたときに変わるのは、法人税の計算だけです。 会社の口座から出ていった現金は戻りません。 所得から引けなくなるので、同じ利益でも法人税が大きくなります。

さらに、受け取った本人の側では給与所得として課税されます。 会社では引けず、個人では課税される。 同じお金に対して、両側で不利な扱いが重なることになります。

会社から出る現金法人税の対象から引けるか個人の課税
要件を満たす出る引ける給与として課税
満たさない出る(同じ)引けない給与として課税(同じ)

金額をいくらにするかより先に、改定できる時期かどうかを確かめるべきなのは、 このためです。時期を外した状態で金額だけを比べても、 前提が崩れているので比較になりません。役員報酬はいつ変更できる?に、期限と例外をまとめています。

赤字になったときにかかるもの

役員報酬を高く設定した結果、会社が赤字になることがあります。 このとき、所得を土台にする税はかかりません。 法人税も、法人事業税の所得割も、所得が0なら0です。

ただし、赤字でもかかるものがあります。 法人住民税の均等割です。 これは資本金と従業者数で決まる定額で、利益が出ていなくても納めます。 報酬をいくらにしても金額が変わらないため、比較には現れませんが、 資金繰りを見るときには入れておく必要があります。

赤字になった事業年度の損失は、 一定の要件のもとで翌期以後に繰り越して、将来の所得から引けます。 その意味では「今期の赤字がそのまま消える」わけではありません。 ただし繰り越せる期間には限りがあり、 その間に利益が出なければ使い切れずに終わります。

  • 所得を土台にする税は、赤字ならかからない
  • 法人住民税の均等割は、赤字でもかかる
  • 損失は繰り越せるが、期間内に利益が出なければ使い切れない
役員報酬を上げて意図的に赤字にすると、金融機関からの評価に影響することがあります。 借入を予定している場合は、税負担だけで金額を決めないでください。

「実効税率◯%」で考えない

法人の税負担を1つの率で表した法定実効税率という数字があります。 便利に見えますが、役員報酬を考えるときには向きません。 理由は2つあります。

1. 刻みが消える

1つの率に畳むと、所得800万円の境目も、 法人事業税の400万円の刻みも見えなくなります。 役員報酬を動かすと、課税所得はまさにその境目をまたぎます。 またぐかどうかが見えない数字では、比較になりません。

2. 自治体によって変わる部分がある

法人住民税と法人事業税は、自治体が標準税率を超える税率を定められます。 対象になるのは多くが一定規模以上の法人ですが、 どの自治体に本店があるかで負担が変わりうる、ということです。 全国一律の率として扱うと、そのぶんがずれます。

3. 出ていく現金とは別のもの

法定実効税率は、法人事業税が納めた事業年度の損金になることを織り込んで、 割り戻して作られた率です。 その期に実際に会社から出ていく現金とは、別のものを表しています。 資金繰りを見たいときに使うと、手元に残る額を取り違えます。

法人の税は、所得に乗るものと法人税額に乗るものに分かれ、所得の段階で税率が変わります。 役員報酬を上げれば法人税は減りますが、会社から出ていく額のほうが必ず大きくなります。 個人と会社の両方を並べて見ないと、比較になりません。

よくある質問

課税所得が800万円を1円超えると、全額の税率が上がりますか?
上がりません。超えた部分にだけ基本税率がかかり、800万円までの部分は軽減税率のままです。個人の所得税の累進と同じ考え方です。
役員報酬を上げれば、節税になりますか?
法人税は減りますが、会社から出ていく額のほうが必ず大きくなります。出た分は個人に入り、そこで所得税・住民税・社会保険料がかかります。個人と会社を合わせて見ないと、どちらに残るかの比較になりません。
会社が負担した社会保険料も、損金になりますか?
なります。そのため役員報酬を上げると、報酬そのものと会社負担の保険料の両方が法人の課税所得から引かれます。
法人の実効税率は何%で計算すればよいですか?
役員報酬を比べる場面では、1つの率にまとめないほうが実態に合います。畳むと所得800万円の境目や法人事業税の刻みが見えなくなり、報酬を動かしたときに境目をまたぐかどうかが読めなくなるためです。

参照した一次情報

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この記事は商品の仕組みを説明するものであり、 特定の商品の購入を勧めるものではありません。 個別の投資助言でもありません。制度や条件は変わることがあるため、実際のご判断にあたっては国税庁 役員に対する給与のページや、お取引先の金融機関で最新の条件をご確認ください。