保険料は報酬そのものにかからない
役員報酬にかかる社会保険料は、報酬の額に料率をかけて出すものではありません。 報酬の額を段階に区切った標準報酬月額という額に、料率をかけて計算します。 段階に区切ってあるので、報酬が数千円変わっても保険料が変わらないことがあります。
区切りは隣り合う段階の中間に置かれています。 自分の報酬がどの段階に入るかで保険料が決まるため、 段階の境目をまたぐかどうかで、同じ1万円の増額でも効き方が変わります。
段階に区切ってある理由は、事務の手間を減らすためです。 1円単位で報酬が違う人それぞれに保険料を計算するのではなく、 近い額の人をまとめて同じ保険料にします。 そのため、報酬を少し動かしたときに保険料が変わるかどうかは、 その額が段階の境目をまたぐかどうかで決まります。
段階は標準報酬月額の等級表として公表されていて、 下のほうは数千円刻み、上のほうは数万円刻みになっています。 報酬が大きいほど刻みも大きくなるので、 役員報酬の水準では、月に数万円動かしても等級が変わらないことがあります。
かかる保険は、健康保険・介護保険・厚生年金・子ども子育て関係の負担です。 このうち介護保険は40歳から64歳までの人にだけかかります。 39歳までと65歳以降は、この分がありません。
上限は2つあり、止まる位置が違う
標準報酬月額には上限があります。 報酬がその額を超えても、標準報酬月額はそれ以上には上がりません。 つまり、報酬を増やしても保険料が増えなくなる位置があるということです。
注意したいのは、この上限が保険によって違うことです。 厚生年金のほうが先に止まり、健康保険はそれより高いところまで続きます。 そのため、報酬を上げていくと、 まず厚生年金が止まり、しばらくしてから健康保険も止まる、という順番になります。
上限の具体的な金額は、等級表の改定で動きます。 いまの金額と、自分の報酬だとどこに当たるかは、自分の会社の数字で個人と法人の増減を試算すると、グラフの上に止まる位置が示されます。
会社の負担は、本人の2倍ではない
健康保険・介護保険・厚生年金・子ども子育て支援金は、労使で折半します。 本人の給与から引かれる額と同じ額を、会社も負担しているということです。 ここまでは「会社の負担=本人の負担」で合っています。
ただし、事業主だけが負担するものがもう1つあります。 子ども・子育て拠出金です。これは全額が会社の負担で、 本人の給与からは引かれません。
名前が似ている2つを混同しないようにしてください。 子ども・子育て支援金は労使で折半し、健康保険の標準報酬月額を土台にします。 子ども・子育て拠出金は事業主が全額を負担し、 厚生年金の標準報酬月額を土台にします。 土台が違うので、報酬が高いほど2つの差は開きます。
| 負担する人 | 土台になる額 | |
|---|---|---|
| 健康保険・介護保険 | 労使で折半 | 健康保険の標準報酬月額 |
| 厚生年金 | 労使で折半 | 厚生年金の標準報酬月額 |
| 子ども・子育て支援金 | 労使で折半 | 健康保険の標準報酬月額 |
| 子ども・子育て拠出金 | 事業主が全額 | 厚生年金の標準報酬月額 |
会社から見ると、役員報酬の総額は「報酬そのもの+会社負担の社会保険料」です。 本人の手取りを基準に考えていると、この分が抜け落ちます。 報酬を上げたときに会社から出ていく額は、報酬の増加分だけではありません。
報酬を変えても、保険料はすぐ変わらない
役員報酬を改定しても、社会保険料が同じ月から切り替わるわけではありません。 固定的な賃金が大きく変わり一定の条件を満たした場合に、 変更後3か月の報酬をもとに、4か月目から標準報酬月額が改定されます。 これを随時改定といいます。
- 報酬を上げた月から、すぐに保険料が上がるわけではない
- 下げた月からも、すぐには下がらない
- そのため、改定した年度は手元の現金の動きが「平常時」とずれる
資金繰りを見るときは、この時間差を入れておく必要があります。 報酬を下げて会社の負担を軽くしようとしても、 数か月のあいだは前の金額に応じた保険料がかかり続けます。
賞与にも保険料がかかる
役員に賞与を出す場合、その賞与にも社会保険料がかかります。 毎月の報酬とは別に、賞与の額を区切った標準賞与額という額に料率をかけます。 料率そのものは毎月の保険料と同じです。
ここでも上限があり、しかも数え方が毎月の保険料とは違います。 健康保険は1年度の累計額に上限があり、 厚生年金は1回の支給ごとに上限があります。 年に複数回に分けて出すか、まとめて1回で出すかで、効き方が変わるということです。
役員報酬を毎月の報酬だけで組むか、賞与を混ぜるかで、 社会保険料の総額は変わります。 ただし役員賞与は事前確定届出給与という別の制度になり、 届け出た金額と実際の支給額がずれると損金に算入されません。 社会保険料だけを見て組み立てる話ではありません。
扶養家族が増えても、保険料は変わらない
健康保険では、一定の条件を満たす家族を被扶養者にできます。 被扶養者になった家族は、自分で保険料を払わずに健康保険を使えます。
ここで誤解されやすいのが、扶養する家族が増えても、本人の保険料は増えないことです。 保険料は標準報酬月額にかかるもので、家族の人数は計算に入りません。 3人を扶養していても、誰も扶養していなくても、同じ報酬なら保険料は同じです。
国民健康保険とはここが違います。 国民健康保険には世帯の人数に応じてかかる部分があるため、 家族が増えれば保険料も増えます。 会社を辞めたあとにどちらを選ぶかを比べるときは、この違いが効きます。
- 健康保険の保険料は、扶養している家族の人数では変わらない
- 国民健康保険には、世帯の人数に応じてかかる部分がある
- 厚生年金の保険料も、家族の人数では変わらない
なお、配偶者が国民年金の第3号被保険者になる場合、 その配偶者は保険料を自分で納めなくても国民年金に加入している扱いになります。 この分の保険料が本人の給与から追加で引かれることもありません。
下げると、将来の年金も下がる
社会保険料は、払って終わりの費用ではありません。 厚生年金は、納めた保険料の計算に使われた標準報酬月額が、 将来受け取る年金額の計算にも使われます。
つまり、報酬を下げて保険料を減らすと、その期間に対応する将来の年金額も下がります。 「社会保険料が年◯万円減る」という数字だけを見て判断すると、 受け取る側の減少が勘定に入りません。
どれだけ下がるかは、下げた期間の長さで決まります。 厚生年金の額は加入していた期間すべての標準報酬月額をもとに計算されるので、 1年だけ下げた影響と、10年下げ続けた影響は同じではありません。 短期の資金繰りのために一時的に下げる場合と、 これから長く続ける水準として下げる場合とでは、意味が変わります。
健康保険のほうは、保険料を下げても受けられる医療が変わるわけではありません。 ただし、傷病手当金や出産手当金のように、 標準報酬月額をもとに計算される給付はあります。 下げたときに何が連動するかは、保険ごとに違います。
