退職給付金は、勤めていた会社から退職のときに支払われるお金のことです。 「退職金」と同じ意味で使われることが多い言葉ですが、法律で決まった呼び名ではありません。 そのため、会社によって呼び方も、支払われる形も違います。 まず、どの言葉が何を指すのかを整理します。
退職給付金とは何を指すか
退職給付金は、退職をきっかけに勤務先から受け取るお金をまとめて指す言葉です。 一度にまとめて受け取る形(退職一時金)と、年金の形で分けて受け取る形(企業年金)の 両方を含みます。
会計の世界では「退職給付」という言い方をします。 会社が将来支払う見込みの額を、働いている期間にわたって費用として積み上げる考え方です。 働いた期間に対する後払いの報酬、という位置づけになります。
後払いという性格は、金額の決まり方にも表れます。 多くの規程では、勤続年数が延びるほど1年あたりの積み上がりが大きくなります。 長く勤めた人ほど有利になる形で、途中で辞めると、その手前で止まります。
大事なのは、すべての会社にあるわけではないことです。 退職給付の制度を設けるかどうかは、会社が決めます。 制度がなければ、退職しても支払われません。 就業規則や退職金規程に書かれていなければ、請求もできません。
厚生労働省の調査では、退職給付の制度がある会社は年々減っています。 制度のある会社でも、対象になるのは一定の勤続年数を満たした人だけ、という規程が多くあります。 「勤めていれば当然もらえるお金」ではない、というところが出発点です。 転職を考えるときは、いまの会社で何年働くと対象になるのかも一緒に見ておくと、 辞める時期の判断が変わることがあります。
退職金・退職手当との違い
呼び名は違っても、指しているものはほぼ同じです。使われる場面が違うだけです。
| 言葉 | 主に使われる場面 | 指すもの |
|---|---|---|
| 退職金 | 日常会話・求人票 | 退職のときに勤務先から受け取るお金 |
| 退職手当 | 法令・公務員の制度 | 同じもの。税法では「退職手当等」と呼ぶ |
| 退職給付金 | 会計・企業年金の説明 | 一時金と企業年金を合わせた総称 |
| 退職一時金 | 制度の説明 | そのうち、一度にまとめて受け取る形 |
税法では「退職手当等」が使われます。iDeCoや企業型DCを一時金で受け取ったお金も、 この退職手当等に含まれます。会社から出たものだけを指す言葉ではない、というところが、 あとで税額を計算するときに効いてきます。
失業手当とは別のもの
退職のときに受け取るお金として並べて語られますが、退職給付金と失業手当はまったく別の制度です。 混同すると、受け取れる時期も金額も読み違えます。
| 退職給付金 | 失業手当(基本手当) | |
|---|---|---|
| 出どころ | 勤務先 | 雇用保険(国) |
| もらえる条件 | 会社に制度があり、規程の条件を満たすこと | 働く意思と能力があり、求職活動をしていること |
| 金額の決まり方 | 勤務先の退職金規程 | 離職前の賃金と年齢、加入期間 |
| 受け取る形 | 一時金、年金、またはその組み合わせ | 原則4週間ごとの振り込み |
| 税金 | 退職所得、または公的年金等の雑所得 | 非課税 |
失業手当は、次の仕事を探している間の生活を支えるためのものです。 退職後すぐに次の会社で働く人や、退職して働かないと決めた人は受け取れません。 一方、退職給付金は求職活動とは関係なく、制度と規程の条件で支払われます。
受け取る時期も違います。失業手当は、離職票を出して手続きをしたあと、 待期期間を経てから4週間ごとに支払われます。自己都合の退職では、 さらに給付が始まるまでの期間が置かれます。 退職給付金は、規程で決まった時期に一度(または年金として毎年)支払われます。 どちらも「退職してすぐ、まとまって入る」とは限らない、ということです。
制度は大きく2つに分かれる
退職給付の制度は、一時金で支払う形と、年金で支払う形に分かれます。 両方を持っている会社もあります。
- 退職一時金制度:会社が自前で積み、退職のときにまとめて支払う形
- 確定給付企業年金(DB):将来受け取る額が決まっている企業年金
- 企業型確定拠出年金(企業型DC):掛金が決まっていて、運用の結果で受取額が変わる
- 中小企業退職金共済(中退共):中小企業が外部の制度を使って積む形
企業年金の多くは、年金で受け取るか一時金で受け取るかを選べます。 企業型DCは、制度としては年金ですが、一時金で受け取ることもできます。 どの形を選べるかは、会社の規約によって違います。
自分で申し込むiDeCoは、この中に入りません。会社の制度ではなく、個人で入る年金だからです。 ただし税の計算では、iDeCoを一時金で受け取った分も退職手当等として扱います。 会社の退職給付とiDeCoは、出どころは別なのに、税の枠は分け合うということです。 企業型DCがある会社では、その分も同じ枠に入ります。
自分の勤務先がどの制度を持っているかは、就業規則、退職金規程、 企業年金のある会社なら加入者向けの通知で確かめられます。 転職した人は、前の会社の企業型DCを移換しているかどうかも確かめてください。 移換していれば、その期間も加入していた期間として数えられます。
いくらもらえるかは、規程で決まる
金額は、勤務先の退職金規程で決まります。よく使われるのは、 退職時の基本給に勤続年数ごとの支給率を掛ける形と、 働いた年ごとにポイントを積み上げて単価を掛ける形です。
同じ勤続年数でも、自己都合の退職か会社都合かで金額が変わる規程が一般的です。 自己都合のほうが低く設定されていることが多く、勤続年数が短いほど差が大きくなります。 また、勤続3年未満は支給しない、といった条件を置いている会社もあります。
減額や不支給の条件が書かれている規程もあります。懲戒解雇のときは支給しない、 同業他社へ移ったときは減額する、といった条項です。 支払われる時期も規程で決まり、退職から1、2か月あとというのが一般的です。 退職した月にすぐ振り込まれる前提で予定を立てると、資金繰りがずれます。
世の中の平均額は統計で公表されていますが、自分の額の目安にはあまり使えません。 会社の規模、業種、制度の有無で大きく散らばるためです。 見るべきなのは平均ではなく、自分の勤務先の規程です。
税の扱いは、受け取り方で変わる
一時金で受け取ると退職所得になります。退職所得は、 収入から退職所得控除を引き、残った額の2分の1だけが課税の対象です。 他の所得と分けて計算するので、その年の給与が高くても税率が上がりません。
年金で受け取ると、公的年金等に係る雑所得になります。 公的年金と合算して計算し、2分の1にする扱いはありません。 さらに、その年の所得が増えるので、国民健康保険料や介護保険料も上がります。
どちらが手取りで多くなるかは、勤続年数と金額、公的年金の見込額で変わります。 税額だけを見ると年金が有利に見えることが多いのですが、 社会保険料まで引くと逆になることもあります。
自分の条件でどうなるかは、一時金と年金の手取りを、社会保険料まで引いて比べるで確かめられます。iDeCoもある人は、退職金とiDeCoを、受け取る年ごとに比べるほうが実態に近くなります。
退職の前に確かめること
受け取り方と受け取る年は、申し出た時点で決まります。あとから変えられません。 退職の前に、次の点を確かめてください。
- 退職金の制度があるか。ある場合、規程での金額の決まり方と支給の条件
- 一時金と年金のどちらを選べるか。年金の場合の年数と予定利率
- 企業型DCやiDeCoがあるか。ある場合、それをいつ受け取るか
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出す時期。出さないと控除を使わずに源泉徴収されます
最後の1つは、手続きの抜けで損をする典型です。 この申告書を出していないと、退職所得控除を使わないまま一律の税率で源泉徴収されます。 確定申告で取り戻せますが、その手間は避けられます。
使い道を決めるのは、手取りが分かってからにしてください。 規程に書かれた額は税を引く前の金額です。年金で受け取る場合は、 そこから社会保険料も増えます。額面のまま住宅ローンの返済や住み替えの計画を立てると、 手元に残る額が足りなくなることがあります。
退職の前後は、健康保険や年金の切り替え、住民税の納め方の変更など、 お金にまつわる手続きが重なります。退職給付金の受け取り方だけを切り離して決めず、 退職後1年の収入と支出をひととおり並べてから決めると、判断の順番を間違えにくくなります。
