税は二段構えで軽くなる
退職金は、受け取った額にそのまま税金がかかるわけではありません。まず退職所得控除を引き、残った額の2分の1だけが課税の対象になります。 この二段構えがあるため、同じ額の給与や年金より税がかなり軽くなります。
長く勤めた人ほど控除が大きくなる仕組みなので、 勤続年数が長ければ退職金の全額が控除に収まり、 税金がまったくかからないことも珍しくありません。 逆に勤続が短いと控除が小さく、思ったより引かれます。
なぜここまで優遇されているのか。退職金は、長年働いた対価が一度に支払われるものだからです。 その年の所得として普通に課税すると、累進課税のせいで一度きりの収入に高い税率がかかります。 働いていた年数に分けて受け取っていれば、もっと低い税率で済んだはずのものです。 その不都合をならすために、控除と2分の1という2つの仕組みが置かれています。
この考え方が分かると、勤続年数が効いてくる理由も納得できます。 長く働いた人ほど「本来なら何年にも分けて受け取っていたはずの額」が大きいので、 その分だけ差し引く枠も大きくなります。逆に短期間で受け取る場合は、 ならす必要がそもそも小さいため、控除も小さく、後で見る例外規定も付いています。
勤続20年で、単価が変わる
退職所得控除は「勤続年数 × 一定額」だと思われがちですが、20年のところで単価が変わります。 20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円です。
| 勤続年数 | 計算 | 控除額 |
|---|---|---|
| 10年 | 40万円 × 10年 | 400万円 |
| 20年 | 40万円 × 20年 | 800万円 |
| 30年 | 800万円 + 70万円 × 10年 | 1,500万円 |
| 38年 | 800万円 + 70万円 × 18年 | 2,060万円 |
勤続年数と退職所得控除額
この折れ目を知らないと、長く勤めた人ほど控除を少なく見積もります。 勤続38年なら控除は2,060万円で、退職金がそれ以下なら税金はかかりません。 「退職金には2割くらい税金がかかる」という感覚は、 多くの会社員にとって当てはまりません。
折れ目より前と後で、1年の重みが1.75倍になります。 勤続19年から20年になると控除は40万円増えますが、 20年から21年になると70万円増えます。 あと1年勤めるかどうかを金額で考えるとき、この差は無視できません。
勤続年数は切り上げる
勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。 34年1か月なら35年です。1か月の差で控除が70万円変わるので、 退職日が年度末をまたぐかどうかで結果が動くことがあります。
数え方そのものは会社の退職金規程によります。 休職していた期間を含めるか、前の会社から転籍したときに通算するか、 といったところは制度ごとに違います。自分の勤続年数が何年として扱われるのかは、 規程か人事に確かめてください。ここがずれると、控除額が丸ごとずれます。
残りの半分だけが課税される
控除を引いても、まだ残りがある場合。その残った額の2分の1だけが課税の対象になります。 退職金2,000万円で控除が1,800万円なら、残りは200万円。 課税されるのはその半分の100万円です。
この100万円に、所得税の速算表と住民税10%がかかります。 所得税の税率は課税所得が小さいほど低いので、 半分にする効果はそのまま税率を下げる効果にもなります。 2,000万円という額に対して、実際の税額はごく小さくなります。
2分の1の効果は、控除を超える額が大きいほど強く効きます。 控除を1,000万円超えたとしても、課税されるのは500万円です。 所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる仕組みなので、 半分にすることで掛かる税率そのものが一段下がることが多くあります。 控除で額を減らし、2分の1で税率も下げる。二重に効いているわけです。
この2つがあるおかげで、退職金は同じ額の給与や年金よりはるかに軽く済みます。 たとえば年収2,000万円の給与なら数百万円の税になりますが、 勤続の長い人の退職金2,000万円なら数万円か、ゼロで済みます。 「退職金にも税金がかかる」と身構えている人ほど、 実際の額を計算すると拍子抜けすることになります。
勤続5年以下には制限がある
2分の1にできるのは原則で、例外があります。勤続5年以下の場合です。
| 立場 | 2分の1にできるか |
|---|---|
| 役員等 | できない。控除を引いた全額が課税の対象 |
| 役員等以外 | 300万円までの部分はできる。超える部分はできない |
勤続5年以下の場合の扱い
短期間で高額の退職金を受け取る形にして税を軽くすることを防ぐための決まりです。 役員として就任して数年で退職する場合や、 転職を繰り返して各社から退職金を受け取る場合に効いてきます。
役員等以外の場合は、控除を引いた残りのうち300万円までは2分の1にできます。 超える部分だけが半分にならない、という段階的な作りです。 勤続5年以下でも、退職金がそれほど大きくなければ影響はありません。 一方、役員等は金額にかかわらず2分の1にできないので、同じ勤続年数・同じ額でも、立場によって税額が変わります。
他の所得と分けて計算する
退職所得は分離課税です。給与や年金と合算しません。
これは軽視できない利点です。日本の所得税は累進課税なので、 所得が増えるほど税率が上がります。もし退職金がその年の給与と合算されたら、 退職した年だけ税率が跳ね上がることになります。 分離課税なので、そうなりません。
さらに、退職所得は健康保険料や介護保険料の算定にも含まれません。 一時金で受け取っても、翌年の保険料は上がらないということです。 年金で受け取る場合との差が、いちばん大きく出るのがここです。 詳しくは退職金を年金で受け取ると社会保険料が上がるに書いています。
申告書を出さないと、控除が使われない
ここまでの控除は、自動では使われません。「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出す必要があります。
出さなかった場合、退職所得控除も2分の1も使わずに、 収入金額に対して一律20.42%が源泉徴収されます。 勤続38年で退職金2,000万円なら、本来は税額ゼロのところ、 400万円以上が引かれることになります。
出し忘れても取り戻せる
引かれすぎた分は、確定申告をすれば戻ります。 ただし自分から動かないと戻ってこないので、 源泉徴収票を見て、控除が使われているかを確かめてください。
確かめ方は簡単です。退職所得の源泉徴収票に、 支払金額と源泉徴収税額が並んでいます。 支払金額に対して税額が2割前後なら、申告書が処理されていない可能性があります。 勤続が長く、控除の範囲に収まる額なのに税が引かれていたら、そこを疑ってください。
この申告書は、退職金を受け取るまでに勤務先へ出すものです。 複数の会社から同じ年に退職金を受け取る場合は、それぞれに出す必要があります。 転職して短期間で辞めた場合など、忘れやすい場面があります。
自分の場合にいくら引かれるのか、年金で受け取る選択肢があるならどちらが多いのかは、退職金、一時金と年金どちらで受け取ると手取りが多い?で金額として出せます。

