なぜ年金だと保険料が上がるのか
退職金を年金で受け取ると、それは雑所得になります。 雑所得は、健康保険料や介護保険料を計算するときの所得に含まれます。 つまり企業年金を受け取ると、その分だけ所得が増え、保険料も上がります。
一方、一時金で受け取ったときの退職所得は、保険料の算定に含まれません。 2,000万円受け取っても、翌年の健康保険料は上がらないということです。 この差が、受け取り方を比べるときにいちばん大きく効きます。
この扱いの違いは、意図的に設けられたものです。 退職所得は長年の勤労に対する対価という性格が強く、 その年の担税力をそのまま表すものではないと考えられています。 だから所得税でも分離課税にし、社会保険料の算定からも外しています。 年金として毎年受け取る形にすると、その性格が薄れるため、 通常の所得と同じ扱いになります。
保険料は所得割と均等割でできている
国民健康保険料も後期高齢者医療の保険料も、大きく2つの部分でできています。
| 部分 | 何で決まるか | 企業年金の影響 |
|---|---|---|
| 所得割 | 所得に比例する | 受け取ると増える |
| 均等割 | 加入者の人数で決まる定額 | 受け取っても変わらない |
保険料の構成
自治体によっては、世帯ごとにかかる平等割や、 資産に対してかかる資産割を組み合わせているところもあります。 どの方式を採っているかで、同じ所得でも保険料が変わります。
企業年金を受け取って動くのは所得割のほうです。 所得が増えた分に料率を掛けた額が、そのまま保険料の増加になります。 料率は市区町村ごとに違いますが、医療分・後期高齢者支援金分・介護分を 合わせるとそれなりの率になるため、増え方は小さくありません。
所得税との違いを押さえておくと、増え方の感覚がつかめます。 所得税は各種の控除を引いたあとの課税所得に対して、 低い段から順に税率が上がる仕組みです。 対して保険料の所得割は、引ける控除が少なく、率も一定です。 所得が低いからといって率が下がることはありません。
そのため、所得税ではほとんど税がかからない水準でも、 保険料はしっかり増える、ということが起こります。 「課税所得が小さいから税率5%で済む」という計算をしていると、 その隣で保険料がそれ以上の率で増えていることに気づけません。
65歳と75歳で、入る制度が変わる
退職後に入る医療保険は、年齢で変わります。 ここを知らないと、受取年数を決めるときの前提がずれます。
| 年齢 | 制度 | 保険料の決まり方 |
|---|---|---|
| 退職〜64歳 | 国民健康保険(または任意継続) | 市区町村ごとの料率 |
| 65〜74歳 | 国民健康保険 | 市区町村ごとの料率 |
| 75歳〜 | 後期高齢者医療制度 | 都道府県ごとの料率 |
退職後の医療保険
10年の年金受取を65歳から始めると、途中の75歳で制度が変わります。同じ年金額でも、前半と後半で保険料の決まり方が違うということです。 概算では平均的な率で通しますが、実際には切り替わりがあります。
退職直後については、健康保険の任意継続という選択肢もあります。 国民健康保険と任意継続のどちらが安いかは、前年の所得と扶養家族の人数で変わります。 退職の年は特にここが動くので、両方を試算してから決めてください。
もう1つ、退職した翌年に効いてくる話があります。 国民健康保険料も住民税も、前年の所得をもとに計算されます。 働いていた最後の年の所得が高ければ、退職した翌年の負担がその水準で来ます。 収入が止まったあとに、現役時代の所得で計算された請求が届く形です。
年金受取を選ぶと、この負担が毎年続くことになります。 一時金なら、退職の翌年に重い負担が1回来て、そのあとは落ち着きます。負担が一度で終わるか、受取期間ずっと続くかという違いは、 手取りの差以上に生活の実感に効いてきます。
介護保険料は段階で決まる
65歳以上の介護保険料(第1号保険料)は、所得に比例するのではなく段階で決まります。所得がいくらからいくらまでなら第◯段階、という形です。
そのため、企業年金を受け取って所得が増えると、 段階が1つ上がることがあります。段階が上がると保険料も一段上がるので、境目のすぐ上に来ると、少しの所得増で保険料が跳ねます。 逆に段階が変わらない範囲なら、企業年金を受け取っても介護保険料は動きません。
受取年数を変えると、この段階に効くことがあります。 同じ総額でも、10年で受け取れば1年あたりの額は20年で受け取る場合の倍近くになります。 年数を延ばして1年あたりを小さくすれば、 段階が上がらずに済むことがある、ということです。 ただし年数を延ばすと受け取り終わるのが遅くなるので、 そこは生活設計との兼ね合いになります。
税より重くなることがある
どれくらいの負担になるのか。実際に計算すると、社会保険料が税額を上回ることがあります。
上の例では、10年の年金受取で税が161万円、社会保険料が214万円です。 税だけを比べていたら、一時金の17万円に対して年金が161万円で 「差は144万円」と見えます。実際の差は、そこに保険料が加わります。
この差が、受け取り方の比較をひっくり返すことがあります。 年金は受取総額そのものが増えるので、税だけならまだ張り合えるのですが、 保険料まで引くと一時金のほうが残る、という形です。
どちらが勝つかは条件で変わります。効いてくるのは主に3つです。 勤続年数が長いほど退職所得控除が大きく、一時金の税がゼロに近づきます。 予定利率が高いほど年金の受取総額が増えます。 そして公的年金が多いほど、企業年金に使える公的年金等控除が残りません。
つまり「一般にどちらが得か」は決まりません。 勤続が短く、予定利率が高く、公的年金が少ない人なら年金が勝つこともあります。 自分の数字を入れて計算するしかない、というのがこのテーマの結論です。
自分の料率をどこで確かめるか
料率は市区町村ごとに違うので、全国平均での概算と自分の額はずれます。 正確に知りたい場合の確かめ先は決まっています。
- 国民健康保険料の通知書。毎年届きます。所得割率と均等割額が書かれています。
- 市区町村のウェブサイト。「国民健康保険料 料率」で見つかります。
- 後期高齢者医療は都道府県の広域連合。75歳以上はこちらです。
- 介護保険料の段階表。市区町村の介護保険担当が公表しています。
ToMiの試算では全国平均で概算していますが、この概算は目安であって、自分の額ではありません。 差が小さい場合は、自治体の料率で計算し直すと結論が変わることがあります。
料率の違いは小さくありません。同じ所得でも、 住んでいる市区町村によって国民健康保険料は年で数万円変わります。 都市部と地方、財政状況、加入者の年齢構成といった要因で決まるもので、 こちらが選べるものではありません。手取りの差が数十万円以内なら、この地域差だけで順位が入れ替わります。
引っ越しの予定がある人は、さらに注意が要ります。 年金の受取期間が10年なら、その間に転居する可能性は十分あります。 転居先の料率で計算し直されるので、 受取開始時点の試算がそのまま10年間続くとは限りません。
税と社会保険料の両方を引いた手取りで比べるなら、退職金、一時金と年金どちらで受け取ると手取りが多い?で出せます。税の仕組みそのものは一時金と年金の税金の違いに書いています。
