そもそも選べるとは限らない
「退職金は一時金と年金のどちらが得か」という記事はたくさんありますが、 その前に確かめることがあります。自分の会社で、そもそも選べるのかです。
退職一時金の制度しかない会社では、一時金でしか受け取れません。 この場合、いくら比較しても選択肢がないので、 知るべきなのは「どちらが得か」ではなく「一時金でいくら手取りになるか」です。
年金で受け取れる制度がある場合
年金で受け取れるのは、勤務先に企業年金の制度があり、 その規約で年金受取が定められている場合です。
| 制度 | 年金で受け取れるか |
|---|---|
| 退職一時金のみ | 受け取れない |
| 確定給付企業年金(DB) | 規約による。年金受取を定めていることが多い |
| 企業型確定拠出年金(DC) | 規約による。一時金・年金・併用から選べることがある |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 一定の要件を満たすと分割払いを選べる |
退職給付の制度と受け取り方
複数の制度に入っている人もいます。 たとえば退職一時金と企業型DCの両方がある場合、制度ごとに受け取り方を選ぶことになります。 どちらか片方だけ年金にする、という選び方ができることもあります。
自分がどの制度に入っているかは、退職金規程か、 年に1回届く企業年金の通知で分かります。 分からなければ人事か総務に聞くのがいちばん早い方法です。
制度によって、受け取り方の自由度はかなり違います。 退職一時金だけの会社では選択の余地がありません。 確定給付企業年金がある会社では、規約で定められた年数の中から選ぶ形が多くあります。 企業型確定拠出年金は、加入者が受け取り方を選べる制度設計になっているのが一般的です。
複数の制度がある場合、それぞれで別の選択ができます。 退職一時金は一時金で受け取り、企業型DCは年金で受け取る、という組み合わせもありえます。 どの制度にいくら積み上がっているのかを先に把握しておくと、 組み合わせを考えられるようになります。
予定利率は自分で選べない
年金で受け取ると、受け取る総額は一時金より多くなります。 受け取るまでのあいだ、制度が運用しながら支払うためです。 このときの利率が予定利率です。
予定利率は規約で決まっています。 加入者が選んだり、交渉したりできるものではありません。 ただし何%なのかは加入者に知らされるものなので、 規約か勤務先の担当部署で確かめられます。
この率で受取総額が変わるので、確かめないまま比較すると金額が出ません。 「一般的には1〜2%くらい」といった目安で計算すると、 実際の規約と違ったときに結論がひっくり返ることがあります。
どれくらい効くのか。退職金2,000万円を10年で受け取る場合、 予定利率が0%なら受取総額は2,000万円のままですが、 1.5%なら2,100万円台、3%なら2,300万円台になります。利率が違うだけで受取総額が300万円以上変わるということです。 これを目安の数字で埋めて比較しても、答えは出ません。
受取年数も同じです。5年で受け取るか20年で受け取るかで、 1年あたりの額が4倍違います。1年あたりが大きいほど税率も社会保険料も上がるので、 年数の選択がそのまま手取りに効きます。 選べる年数が規約で決まっているなら、その中で比べることになります。
一部だけ一時金にできることもある
全部を一時金にするか、全部を年金にするか。 この二択だと思われがちですが、併用を認めている制度もあります。
住宅ローンの完済に必要な分だけ一時金で受け取り、 残りを年金にする、といった選び方です。 まとまった支出の予定がある人には、これがいちばん合うことがあります。
税の面でも、併用には意味があります。 一時金の部分が退職所得控除の範囲に収まるなら、そこには税がかかりません。 控除を超える部分だけを年金に回せば、一時金の非課税枠を使い切りつつ、超過分の課税をならせます。 勤続が長くて控除が大きい人ほど、この組み合わせが効きます。
ただし、年金部分には毎年の社会保険料がかかります。 年金に回す額が小さければ影響も小さいので、 「控除を超えた分だけ年金」という配分は、その意味でも理にかなっています。 規約で割合を選べるなら、この考え方で決めてみてください。
退職直後にまとまったお金が要るかどうかは、 受け取り方を決める前に整理しておくべきことです。 住宅ローンを完済する予定があるなら、その効果は住宅ローン、繰上げ返済したらいくら利息が減る?で金額として出せます。
申し出には期限がある
受け取り方の申し出には期限があります。 退職の何か月前まで、といった形で規約に書かれています。
期限を過ぎると、規約で定められた既定の受け取り方になります。 選べたはずなのに選べなかった、ということが起こります。 しかも一度決まるとあとから変えられません。
この「あとから変えられない」という点が、 退職金の受け取り方を他の判断と分けています。 預金の預け先も、投資信託の乗り換えも、保険の見直しも、 間違えたと気づいたらやり直せます。退職金の受け取り方はやり直せません。
だからこそ、判断そのものより判断する時間を確保することが効きます。 規約を読み、予定利率を聞き、公的年金の見込額を調べる。 この3つがそろうまでに、早くても数週間はかかります。 書類が届いてから始めると、間に合わないことがあります。
申告書を出し忘れない
一時金で受け取る場合、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出す必要があります。
出さないと、退職所得控除も2分の1も使わずに、 収入金額に対して一律20.42%が源泉徴収されます。 本来は税額ゼロの人でも、数百万円が引かれることになります。
引かれすぎた分は確定申告で戻りますが、 自分から動かないと戻ってきません。 源泉徴収票を見て、控除が使われているかを確かめてください。 控除の仕組みは退職所得控除とは?に書いています。
確かめる順番
順番があります。この順で進めると、無駄がありません。
- 受け取り方の選択肢。一時金だけか、年金も選べるか、併用できるか。
- 年金の予定利率と受取年数。規約に書かれています。
- 申し出の期限。いつまでに決めるのか。
- 退職後すぐに使う予定。住宅ローンの完済やリフォームがあるか。
- iDeCo・企業型DCを受け取る年。退職と同じ年にするか、ずらせるか。
1〜3は勤務先に聞けば分かります。4〜5は自分で決めることです。 1〜3がそろって初めて、金額の比較に意味が出ます。
聞き方に迷うなら、人事や総務に 「退職金の受け取り方の選択肢と、年金を選んだ場合の予定利率・受取年数、 申し出の期限を教えてください」と伝えれば足ります。 規約は加入者に開示されるものなので、答えてもらえないことはまずありません。
このとき、公的年金の見込額も一緒に調べておくと効率がよくなります。 ねんきんネットか、毎年の誕生月に届くねんきん定期便で分かります。 企業年金は公的年金と同じ控除枠を使うので、 公的年金がいくらかを知らないと年金受取の税額が出せません。
5について補足すると、iDeCo・企業型DCの一時金を退職金と同じ年に受け取ると、 合算して1件として課税されます。受け取る年をずらすだけで税額が変わることがあるので、退職金とiDeCoを受け取る年をずらすと何が変わる?も合わせて読んでください。
そろった数字で手取りを比べるなら、退職金、一時金と年金どちらで受け取ると手取りが多い?で、税と社会保険料を引いた額が両方出ます。

