同じ年なら、控除は1回だけ
会社の退職金と、iDeCo・企業型DCの一時金。 どちらにも退職所得控除が使えると聞いて、2回使えると思っている人が多くいます。使えません。
同じ年に受け取る退職手当等は、合算して1つの退職所得として計算します。 退職金2,000万円とiDeCo800万円を同じ年に受け取ったら、 2,800万円に対して控除を1回だけ使います。
なぜこうなっているのか。退職所得控除は「長年の勤労に対する対価をならす」ための枠なので、 同じ勤労期間に対して二重に使えては筋が通りません。 会社に勤めた期間とiDeCoに加入していた期間は多くの場合重なっているので、 そこを1回分として扱う、という考え方です。
ずらしても、さかのぼって調整される
では年をずらせば分かれるのか。1年ずらせば済む、という話ではありません。
前に受け取った退職手当等がある場合、一定の期間内なら勤続期間が重なっている分だけ控除が減らされます。 会社に34年勤め、そのうち20年はiDeCoにも入っていた、という場合、 その20年ぶんが重なりとして扱われます。
重なりの調整は、期間の重なりで決まります。 期間がまったく重なっていなければ、さかのぼる年数の中で受け取っても調整はありません。「同じ年かどうか」ではなく「期間が重なっているか」で決まる、 というところが分かりにくいポイントです。
調整のされ方は、重なった年数ぶんの控除額を引く形です。 20年重なっているなら、20年ぶんの控除額(800万円)が差し引かれます。 勤続34年で控除が1,780万円あっても、 そこから800万円引かれて980万円しか使えない、ということになります。
この計算は年数ではなく期間そのもので行うので、 「いつからいつまで会社にいたか」「いつからいつまでiDeCoに入っていたか」を 年単位で押さえておく必要があります。 年数だけをメモしていると、重なりが何年なのか出せません。
順番で、さかのぼる年数が違う
さかのぼる期間は、どちらを先に受け取るかで違います。 ここが制度の中でいちばん間違えやすいところです。
| 先に受け取るもの | あとで受け取るもの | さかのぼる期間 |
|---|---|---|
| 会社の退職金 | DC一時金 | 長い(19年) |
| DC一時金 | 会社の退職金 | 短い |
さかのぼって調整される期間
つまり、DC一時金を先に受け取ってから退職金を受け取るほうが、 調整を受けずに済む可能性が高いということです。 逆の順番だと、かなり長い期間さかのぼって調整されます。
この非対称さが、制度の分かりにくさの中心にあります。 「◯年空ければよい」という覚え方ができず、 どちらを先に受け取るかを決めてから年数を調べることになります。 しかも会社の退職金は退職日で決まるので、 実際に動かせるのはDC側の受取時期だけ、ということが多くあります。
年金にすると、控除枠がDCに残る
もう1つ、あまり知られていない効き方があります。会社の退職金を年金で受け取ると、退職所得控除を使いません。 年金は雑所得なので、退職所得の枠に入らないためです。
その結果、退職所得控除はiDeCo・企業型DCの一時金がまるごと使えます。 勤続34年ぶんの控除1,780万円を、800万円のDC一時金だけで使うことになるので、 DC側の税はゼロになります。
受け取り方の選択が、DC側の税額まで動かすということです。 会社の退職金だけを見て一時金と年金を比べていると、この効果が抜けます。 比較するときはDC一時金も含めた合計の手取りで見てください。
ただし、これで年金受取が有利になると決まるわけではありません。 会社の退職金を年金にすると、そちらには毎年の税と社会保険料がかかります。 DC側で浮いた税額より、年金側で増える負担のほうが大きければ、合計では一時金が残ります。 片方だけを見て判断せず、両方を足した手取りで比べる必要があります。
言い換えると、この論点は「年金受取の隠れた利点」であって、 「年金受取を選ぶ理由」ではありません。 比較の材料が1つ増える、という位置づけで扱ってください。
どれくらい変わるのか
金額の感覚をつかむために、条件を固定して比べます。 勤続34年、退職金2,000万円、iDeCo800万円、iDeCoの加入期間は20年とします。
| 受け取り方 | 税額 | 手取り |
|---|---|---|
| 両方を同じ年に一時金 | 111.5万円 | 2,688.5万円 |
| 一時金だが、DCを12年ずらす | 94.6万円 | 2,705.4万円 |
受け取り方と受け取る年による税額(例)
受け取り方はどちらも一時金のままで、DCを受け取る年をずらしただけで約17万円変わります。 手続きとしては受け取る時期を選ぶだけなので、負担のわりに効きます。
内訳を見ると、同じ年に受け取った場合は2,800万円に対して控除1,780万円、 残り1,020万円の半分の510万円が課税されています。 12年ずらした場合は、勤続期間の重なりぶんだけ控除が減らされたうえで、 それぞれ別の退職所得として計算されます。 完全に分かれるわけではありませんが、それでも税額は下がります。
この例で差がこの程度に収まっているのは、 勤続34年ぶんの控除が1,780万円あり、 同じ年にまとめても課税される額がそれほど大きくならないためです。 勤続が短い人や、DCの額が大きい人では、差はもっと開きます。 逆に、退職金とDCを合わせても控除に収まる人なら、ずらしてもずらさなくても税はゼロで、考える必要がありません。
自分がどちらなのかは、控除額と合計額を並べればすぐ分かります。 勤続年数から控除額を出し、退職金とDCの合計と比べる。 合計が控除に収まっていれば、この論点は関係ありません。 超えているなら、ずらす価値を金額で確かめる意味があります。
確かめること
受け取る年をずらす余地があるかは、次を確かめると分かります。
- iDeCo・企業型DCの受取可能な期間。いつからいつまで選べるのか。運営管理機関に聞きます。
- 会社の退職金の支給時期。退職日と支給日は同じとは限りません。
- それぞれの加入期間・勤続期間。重なりの判定に使います。年数ではなく「いつからいつまで」が要ります。
- 受け取る順番。どちらを先にするかで、さかのぼる年数が変わります。
このうち3つ目が抜けやすいところです。 「勤続34年」「iDeCo20年」という年数だけをメモしていても、 重なりが何年なのかは出せません。いつからいつまでかという期間で押さえる必要があります。 源泉徴収票や年金の記録を見れば分かるので、先に控えておいてください。
4つ目の順番も、自分で選べる場合があります。 iDeCoは受け取れる年齢の範囲内なら時期を選べるのが一般的なので、 退職金より先に受け取るか、あとにするかを決められることがあります。 さかのぼる期間が順番で違う以上、ここは金額に直結します。
この4つがそろえば、ずらす価値があるかどうかを金額で判断できます。退職金、一時金と年金どちらで受け取ると手取りが多い?では、iDeCo・DCの一時金を含めた手取りを、受け取る年を変えて比べられます。
控除そのものの仕組みは退職所得控除とは?に書いています。先にそちらを読むと、この記事の調整の話が追いやすくなります。
