定年で会社の退職金を受け取る年に、iDeCoも一時金で受け取る。 いちばん自然に見える形ですが、税の計算では2つをまとめて1件として扱います。 別々に受け取った場合と比べて、税額が増えることがあります。
同じ年に受け取ると、合算して1件になる
退職所得は、その年に受け取った退職手当等をまとめて計算します。 会社の退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取れば、2つを足した額が収入になります。 それぞれに控除を当てて別々に計算する、ということはしません。
退職所得の計算そのものは、合算しても形は同じです。
問題は、控除が1つ分しかないことです。収入だけが足し算になり、 引けるものは増えません。その結果、控除を超える部分が大きくなり、 税率の高い段に届くこともあります。
ここでいう「同じ年」は、実際にお金が支払われた年で数えます。 退職した日ではありません。3月に退職して、iDeCoの請求を年末に出した場合も、 支払われたのが同じ年であれば合算されます。 逆に、退職が12月で支払いが翌年1月になれば、別の年の退職所得になります。 年をまたぐかどうかは、支払われる日で決まる、ということです。
控除は、長いほうの期間で1つだけ
同じ年に受け取る場合の退職所得控除は、勤続期間とiDeCoの加入者等期間のうち、いちばん長い期間をもとに計算します。両方を足すわけではありません。
たとえば、勤続36年の会社の退職金と、加入21年のiDeCoを同じ年に受け取る場合、 控除の計算に使うのは36年です。21年分が上乗せされることはありません。 iDeCoに21年入っていたことは、この場合、控除額を1円も増やしません。
期間が重なっていない場合の扱いは別です。 勤続期間とiDeCoの加入期間がまったく重ならないときは、その分が加算されます。 とはいえ、会社に勤めながらiDeCoに入っていた人は、ほぼ全部が重なります。 重なっている年数は控除に反映されない、と考えておくほうが実態に合います。
会社を辞めてからiDeCoに入った人や、自営業になってから加入した人は事情が変わります。 勤務先を辞めたあとの加入期間は勤続期間と重ならないので、その分は控除に足されます。 自分の期間がどこまで重なっているかは、勤務先の退職金規程に書かれた勤続期間と、 運営管理機関から届く通知の加入者等期間を並べると分かります。
数字で見ると、どれだけ違うか
勤続36年で退職金2,000万円、iDeCoの残高800万円という人を考えます。 勤続36年の退職所得控除は1,920万円です。
| 受け取り方 | 収入 | 控除 | 課税される退職所得 |
|---|---|---|---|
| 同じ年に両方を一時金 | 2,800万円 | 1,920万円 | 440万円 |
| 退職金だけを一時金 | 2,000万円 | 1,920万円 | 40万円 |
同じ年にまとめると、課税される退職所得が440万円になります。 退職金だけなら40万円です。差は400万円で、ここに所得税と住民税がかかります。 iDeCoの800万円に、まるごと近い形で課税されたことになります。
この例で効いているのは、退職金2,000万円がすでに控除1,920万円を超えていることです。 控除に余地がない人ほど、同じ年に足す影響が大きく出ます。 逆に、退職金が控除に収まっている人は、余った分にiDeCoを乗せられるので、 同じ年に受け取っても税がかからないこともあります。
自分の勤続年数と金額でどうなるかは、受け取る年と受け取り方を変えて、税引後の手取りを比べると、5通りの形で並べて確かめられます。
年をずらすと何が変わるか
受け取る年を分けると、それぞれが別の年の退職所得になります。 収入が足し算にならないので、税率の段も別々に当たります。 これが、年をずらすと税額が下がることがある理由です。
ただし、ずらせば必ず控除が2つ分使えるわけではありません。 前に受け取った退職手当等がさかのぼる期間の中にあると、 重なっている年数の分が控除から差し引かれます。 さかのぼる年数は、どちらを先に受け取るかで違います。
| 受け取る順番 | さかのぼって確認される期間 |
|---|---|
| iDeCoの一時金が先、会社の退職金が後 | 会社の退職金を受け取る年の前年以前9年内 |
| 会社の退職金が先、iDeCoの一時金が後 | iDeCoを受け取る年の前年以前19年内 |
「10年ルール」「20年ルール」と呼ばれるのは、この前年以前9年・19年のことです。 9年内・19年内に別の退職手当等がなければ、重複の調整は入りません。 なお、iDeCoを先に受け取ったあとの期間は、以前は4年でした。 2026年1月1日以後に支払われる退職手当等から9年になっています。
ずらせる幅には限りがある
年をずらす話には、制度の上限があります。iDeCoの老齢給付金を受け取れるのは、 原則60歳から75歳になるまでです。75歳までに請求しないと、年金資産は法務局に供託されます。
会社の退職金を60歳で受け取る人が、19年を超える間隔を空けようとすると、 iDeCoを受け取るのは80歳です。これは制度の外なので選べません。 つまり、退職金を先に受け取る形では、重複の調整を完全に避けるのは難しいということです。
逆に、iDeCoを先に受け取る形なら、9年を超える間隔は現実的に作れます。 60歳でiDeCoを受け取り、70歳まで働いて退職金を受け取る、という形です。 ただしこれは、70歳まで働き続けることが前提になります。
もうひとつの上限は、勤務先の側にあります。退職金をいつ受け取るかは会社の規程で決まっていて、 自分の都合で何年も先に延ばせる制度は多くありません。 動かせるのはiDeCoの側だけ、という前提で考えるほうが現実に近くなります。
税だけで年を決めない
手取りがいちばん多くなるのは、多くの場合、受け取る年をいちばん離した形です。 しかしそれは、退職してから何年も、そのお金が手元に入らないということでもあります。 その間の生活費は、別に用意しておく必要があります。
- 退職の直後に住宅ローンの返済や住み替えの予定があるか
- 公的年金が始まるまでの間、生活費を何で埋めるか
- 受け取る年までに働き続ける前提になっていないか
税で数十万円の差を追った結果、生活費が足りずに借りることになれば、 利息のほうが大きくなることもあります。順番としては、 必要な時期に必要な額があるかを先に決めてから、税の差を見るほうが安全です。
もうひとつ見ておきたいのが、受け取る年の他の収入です。 退職した年は、その年の給与と退職金が同じ年に入ります。 退職所得は他の所得と分けて計算するので、給与が多くても退職金の税率は上がりませんが、 住民税や社会保険料の計算では、その年の所得が効いてきます。 退職の翌年に住民税の納付書が届いて驚く、というのはこのためです。
確かめること
同じ年に受け取るかどうかを決める前に、次の点を確かめてください。
- 勤務先の退職金規程で、退職金の額と勤続期間の数え方
- 過去に受け取った退職金があるか。あると、控除の計算が変わります
- 企業型DCからiDeCoへ移換しているか。加入者等期間の数え方に関わります
- 運営管理機関で、受け取り始められる年齢と受け取り方
過去の退職金や役員としての勤続がある場合、ここで扱った計算では足りません。 額の桁が変わることがあるので、税務署の相談窓口か税理士に確かめてから決めてください。
手続きの面では、「退職所得の受給に関する申告書」を出す先が2か所になります。 会社の退職金は勤務先へ、iDeCoの一時金は運営管理機関へ、それぞれ提出します。 片方を出し忘れると、そちらは控除を使わないまま一律の税率で源泉徴収されます。 あとから確定申告で取り戻せますが、手間は増えます。
