退職金・退職後

退職金とiDeCoを同じ年に受け取るとどうなる?

定年の年にiDeCoも一時金で受け取る形は自然に見えますが、税の計算では2つをまとめて1件として扱います。控除は増えないので、別々の年に受け取った場合より税額が増えることがあります。

読了めやす9分更新1回読まれています

この記事の要点

  • 同じ年に受け取ると、退職金とiDeCoの一時金は合算して1件の退職所得として計算します。
  • そのときの退職所得控除は、勤続期間と加入者等期間のうち、いちばん長い期間をもとに1つだけです。
  • 年をずらすと別々の年の退職所得になり、税率の段も別々に当たるため、税額が下がることがあります。
  • ずらしても、iDeCoが先なら前年以前9年内、退職金が先なら前年以前19年内に別の退職手当等があると、重なった年数が控除から差し引かれます。
  • iDeCoを受け取れるのは原則60歳から75歳になるまでです。ずらせる幅には制度の上限があります。

定年で会社の退職金を受け取る年に、iDeCoも一時金で受け取る。 いちばん自然に見える形ですが、税の計算では2つをまとめて1件として扱います。 別々に受け取った場合と比べて、税額が増えることがあります。

同じ年に受け取ると、合算して1件になる

退職所得は、その年に受け取った退職手当等をまとめて計算します。 会社の退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取れば、2つを足した額が収入になります。 それぞれに控除を当てて別々に計算する、ということはしません。

同じ年に受け取ると、合算して1件として課税される同じ年に受け取る退職金 2,000万+iDeCo 800万合わせて2,800万円に、控除は1回だけ年をずらす退職金(2026年)iDeCo(別の年)さかのぼる期間の外なら、それぞれで控除を使える
会社の退職金とiDeCo・企業型DCの一時金を同じ年に受け取ると、2つを足した額に対して退職所得控除を1回だけ使います。別々の年に受け取れば、それぞれで控除を使える場合があります。ただし、さかのぼって調整される期間があるので、1年ずらせば必ず分かれるわけではありません。

退職所得の計算そのものは、合算しても形は同じです。

(退職金 + iDeCoの一時金 - 退職所得控除)× 2分の1 = 課税される退職所得

問題は、控除が1つ分しかないことです。収入だけが足し算になり、 引けるものは増えません。その結果、控除を超える部分が大きくなり、 税率の高い段に届くこともあります。

ここでいう「同じ年」は、実際にお金が支払われた年で数えます。 退職した日ではありません。3月に退職して、iDeCoの請求を年末に出した場合も、 支払われたのが同じ年であれば合算されます。 逆に、退職が12月で支払いが翌年1月になれば、別の年の退職所得になります。 年をまたぐかどうかは、支払われる日で決まる、ということです。

同じ年に受け取ると、収入は合算されますが、退職所得控除は1つ分のままです。 「それぞれに控除が使える」と思って計算すると、税額を小さく見積もります。

控除は、長いほうの期間で1つだけ

同じ年に受け取る場合の退職所得控除は、勤続期間とiDeCoの加入者等期間のうち、いちばん長い期間をもとに計算します。両方を足すわけではありません。

たとえば、勤続36年の会社の退職金と、加入21年のiDeCoを同じ年に受け取る場合、 控除の計算に使うのは36年です。21年分が上乗せされることはありません。 iDeCoに21年入っていたことは、この場合、控除額を1円も増やしません。

退職金とiDeCoは、同じ控除の枠を分け合う退職所得控除の枠勤続年数と加入年数から決まる、1つの枠退職金が小さいとき退職金iDeCo枠に収まる → 課税なし退職金が大きいとき退職金だけで枠が埋まる課税
iDeCoを一時金で受け取ると退職所得になります。会社の退職金と別の枠があるわけではないので、退職金だけで枠が埋まっていると、iDeCoの分にはほぼそのまま課税されます。

期間が重なっていない場合の扱いは別です。 勤続期間とiDeCoの加入期間がまったく重ならないときは、その分が加算されます。 とはいえ、会社に勤めながらiDeCoに入っていた人は、ほぼ全部が重なります。 重なっている年数は控除に反映されない、と考えておくほうが実態に合います。

会社を辞めてからiDeCoに入った人や、自営業になってから加入した人は事情が変わります。 勤務先を辞めたあとの加入期間は勤続期間と重ならないので、その分は控除に足されます。 自分の期間がどこまで重なっているかは、勤務先の退職金規程に書かれた勤続期間と、 運営管理機関から届く通知の加入者等期間を並べると分かります。

マネック(案内役):「iDeCoにも退職所得控除があるから、その分だけ非課税枠が増える」と読むと逆になるよ。 増えるのは受け取る額のほうで、枠は増えないんだ。

数字で見ると、どれだけ違うか

勤続36年で退職金2,000万円、iDeCoの残高800万円という人を考えます。 勤続36年の退職所得控除は1,920万円です。

受け取り方収入控除課税される退職所得
同じ年に両方を一時金2,800万円1,920万円440万円
退職金だけを一時金2,000万円1,920万円40万円

同じ年にまとめると、課税される退職所得が440万円になります。 退職金だけなら40万円です。差は400万円で、ここに所得税と住民税がかかります。 iDeCoの800万円に、まるごと近い形で課税されたことになります。

この例で効いているのは、退職金2,000万円がすでに控除1,920万円を超えていることです。 控除に余地がない人ほど、同じ年に足す影響が大きく出ます。 逆に、退職金が控除に収まっている人は、余った分にiDeCoを乗せられるので、 同じ年に受け取っても税がかからないこともあります。

自分の勤続年数と金額でどうなるかは、受け取る年と受け取り方を変えて、税引後の手取りを比べると、5通りの形で並べて確かめられます。

年をずらすと何が変わるか

受け取る年を分けると、それぞれが別の年の退職所得になります。 収入が足し算にならないので、税率の段も別々に当たります。 これが、年をずらすと税額が下がることがある理由です。

ただし、ずらせば必ず控除が2つ分使えるわけではありません。 前に受け取った退職手当等がさかのぼる期間の中にあると、 重なっている年数の分が控除から差し引かれます。 さかのぼる年数は、どちらを先に受け取るかで違います。

受け取る順番さかのぼって確認される期間
iDeCoの一時金が先、会社の退職金が後会社の退職金を受け取る年の前年以前9年内
会社の退職金が先、iDeCoの一時金が後iDeCoを受け取る年の前年以前19年内

「10年ルール」「20年ルール」と呼ばれるのは、この前年以前9年・19年のことです。 9年内・19年内に別の退職手当等がなければ、重複の調整は入りません。 なお、iDeCoを先に受け取ったあとの期間は、以前は4年でした。 2026年1月1日以後に支払われる退職手当等から9年になっています。

重複の調整が入る場合でも、税額が同じ年にまとめたときより下がることはあります。 収入が別の年に分かれるぶん、税率の段が低く収まるためです。 「調整が入る=ずらす意味がない」ではありません。

ずらせる幅には限りがある

年をずらす話には、制度の上限があります。iDeCoの老齢給付金を受け取れるのは、 原則60歳から75歳になるまでです。75歳までに請求しないと、年金資産は法務局に供託されます。

会社の退職金を60歳で受け取る人が、19年を超える間隔を空けようとすると、 iDeCoを受け取るのは80歳です。これは制度の外なので選べません。 つまり、退職金を先に受け取る形では、重複の調整を完全に避けるのは難しいということです。

逆に、iDeCoを先に受け取る形なら、9年を超える間隔は現実的に作れます。 60歳でiDeCoを受け取り、70歳まで働いて退職金を受け取る、という形です。 ただしこれは、70歳まで働き続けることが前提になります。

受け取り方と受け取る年は、申し出た時点で決まります。あとから戻せません。 先に勤務先の退職金規程と、運営管理機関の受け取り方を確かめてください。

もうひとつの上限は、勤務先の側にあります。退職金をいつ受け取るかは会社の規程で決まっていて、 自分の都合で何年も先に延ばせる制度は多くありません。 動かせるのはiDeCoの側だけ、という前提で考えるほうが現実に近くなります。

税だけで年を決めない

手取りがいちばん多くなるのは、多くの場合、受け取る年をいちばん離した形です。 しかしそれは、退職してから何年も、そのお金が手元に入らないということでもあります。 その間の生活費は、別に用意しておく必要があります。

  • 退職の直後に住宅ローンの返済や住み替えの予定があるか
  • 公的年金が始まるまでの間、生活費を何で埋めるか
  • 受け取る年までに働き続ける前提になっていないか

税で数十万円の差を追った結果、生活費が足りずに借りることになれば、 利息のほうが大きくなることもあります。順番としては、 必要な時期に必要な額があるかを先に決めてから、税の差を見るほうが安全です。

もうひとつ見ておきたいのが、受け取る年の他の収入です。 退職した年は、その年の給与と退職金が同じ年に入ります。 退職所得は他の所得と分けて計算するので、給与が多くても退職金の税率は上がりませんが、 住民税や社会保険料の計算では、その年の所得が効いてきます。 退職の翌年に住民税の納付書が届いて驚く、というのはこのためです。

確かめること

同じ年に受け取るかどうかを決める前に、次の点を確かめてください。

  • 勤務先の退職金規程で、退職金の額と勤続期間の数え方
  • 過去に受け取った退職金があるか。あると、控除の計算が変わります
  • 企業型DCからiDeCoへ移換しているか。加入者等期間の数え方に関わります
  • 運営管理機関で、受け取り始められる年齢と受け取り方

過去の退職金や役員としての勤続がある場合、ここで扱った計算では足りません。 額の桁が変わることがあるので、税務署の相談窓口か税理士に確かめてから決めてください。

手続きの面では、「退職所得の受給に関する申告書」を出す先が2か所になります。 会社の退職金は勤務先へ、iDeCoの一時金は運営管理機関へ、それぞれ提出します。 片方を出し忘れると、そちらは控除を使わないまま一律の税率で源泉徴収されます。 あとから確定申告で取り戻せますが、手間は増えます。

よくある質問

退職金とiDeCoを同じ年に受け取ると、控除は2つ使えますか?
使えません。同じ年に受け取る退職手当等は合算して1件として計算し、退職所得控除は勤続期間と加入者等期間のうちいちばん長い期間をもとに1つだけ計算します。期間が重なっていない部分があれば、その分は加算されます。会社に勤めながらiDeCoに入っていた場合は、ほとんどが重なります。
受け取る年をずらせば、税金は必ず安くなりますか?
必ずではありませんが、下がることが多くなります。別々の年になると収入が足し算にならず、税率の段が低く収まるためです。ただし、iDeCoを先に受け取った場合は前年以前9年内、退職金を先に受け取った場合は前年以前19年内に別の退職手当等があると、重なった年数の分が控除から差し引かれます。
「10年ルール」「20年ルール」とは何ですか?
退職所得控除の重複を調整するときに、さかのぼって確認する期間の通称です。iDeCoなどの一時金を先に受け取ったあとに退職金を受け取る場合は前年以前9年内、退職金を先に受け取ったあとにiDeCoを受け取る場合は前年以前19年内が対象です。前者は以前4年で、2026年1月1日以後に支払われる退職手当等から9年になりました。

参照した一次情報

あわせて読みたい

この記事は商品の仕組みを説明するものであり、 特定の商品の購入を勧めるものではありません。 個別の投資助言でもありません。制度や条件は変わることがあるため、実際のご判断にあたっては国税庁の退職金と税のページや、お取引先の金融機関で最新の条件をご確認ください。