計算の4ステップ
FIREに必要な額は、次の順番で出します。 どれか1つでも飛ばすと、出てくる数字の意味が変わります。
- 1辞めたあとの年間生活費を出す。いまの支出とは違います。
- 2それを取り崩し率で割って、必要な資産額を出す。
- 3いまの資産と積立額から、何年で届くかを出す。
- 4物価の分を引いて、今のお金の価値にそろえる。
1. 辞めたあとの生活費を出す
いまの家計の支出をそのまま使ってはいけません。 辞めたあとには、無くなるものと増えるものがあります。
| 項目 | どうなるか | 理由 |
|---|---|---|
| 通勤費・仕事用の被服費 | 無くなる | 通勤しなくなる |
| 教育費 | 終わっていれば無くなる | 子どもの卒業で終わる |
| 住宅ローンの返済 | 完済していれば無くなる | 返済が終わる |
| 健康保険料 | 増える | 会社が半分払っていた分がなくなる |
| 国民年金保険料 | 増える | 60歳まで自分で払う |
| 光熱費 | やや増える | 家にいる時間が増える |
| 食費・住居費・通信費 | 変わらない | 暮らし方が変わらなければ同じ |
辞めたあとに変わるもの
この増減を足し合わせたものが、FIRE後の生活費です。 教育費と住宅ローンが終わっているなら大きく下がりますし、 どちらも残っているなら、それも含めて計算します。
2. 必要額を出す
年300万円の生活費を年4%で取り崩すなら、300万円 ÷ 0.04 で7,500万円。 生活費の25年分にあたります。
働きながらの形にするなら、稼ぐ分を先に引きます。 月5万円(年60万円)を稼ぐなら、資産でまかなうのは年240万円。 240万円 ÷ 0.04 で6,000万円まで下がります。月5万円で、必要額が1,500万円変わります。
| 働いて稼ぐ額 | 資産でまかなう額 | 必要な資産額 |
|---|---|---|
| 0円 | 年300万円 | 7,500万円 |
| 月5万円(年60万円) | 年240万円 | 6,000万円 |
| 月10万円(年120万円) | 年180万円 | 4,500万円 |
| 月20万円(年240万円) | 年60万円 | 1,500万円 |
働いて稼ぐ額と、必要な資産額(生活費300万円・年4%)
3. 何年かかるかを出す
いまの資産に毎年の積立を足しながら、運用で伸ばしていったときに 必要額へ届く年を探します。式にすると次の形です。
後半が積立の合計です。積立をいつ入れるかで結果が変わるので、年末にまとめて入る形で計算するのが控えめな置き方になります。 年の初めに入れる前提にすると、初年度から丸1年ぶんの利回りが付いて、実際より早く届きます。
逆算する
「何歳で届くか」が出たあとに知りたくなるのは、 「もっと早く辞めるには何をいくら変えればよいか」です。 動かせるのは2つだけです。
- 積立額を増やす。目標の年数から必要な積立額を逆算できます。
- 辞めたあとの生活費を下げる。必要額そのものが下がります。
4. 今のお金の価値にそろえる
名目のまま伸ばすと「20年後に1億円」という数字が出ますが、 そのころの1億円で買えるものは今より少なくなっています。 物価上昇分を引いた実質の利回りで伸ばし、生活費は今の金額のまま置くと、 出てくる年数がそのまま「今の暮らしを続けられるまで何年か」になります。
名目5%・物価2%なら、5 − 2 = 3% ではなく 2.94% です。 引き算は近似で、率が大きいほどずれが積み上がります。
ひとつ通してみる
46歳・いまの金融資産500万円・年120万円を積み立てている場合で、 最初から最後まで通します。
1. 辞めたあとの生活費
いまの生活支出が年420万円だとします。ここから、 通勤費と仕事関係で年30万円が無くなり、教育費が年60万円終わる。 一方で健康保険料と国民年金保険料で年30万円増える。 差し引きで年360万円が、辞めたあとの生活費になります。
2. 必要額
360万円 ÷ 0.04 で9,000万円。生活費の25年分です。 率を3%にすれば1億2,000万円、5%にすれば7,200万円。率の置き方だけで、5,000万円近く動きます。
3. 届くまでの年数
いまの500万円に年120万円を足しながら、実質の利回り年2.94%で伸ばします。 この条件だと、9,000万円に届くのは30年以上先です。 「46歳+30年で76歳」となると、 目標として現実的かどうかを考え直す段階に入ります。
4. どこを動かすか
- 積立を年120万円から年300万円に増やす。届く年が大きく前倒しになります。
- 生活費を年360万円から年240万円に下げる。必要額が6,000万円になります。
- 月10万円を働いて稼ぐ形にする。資産でまかなうのは年240万円になり、必要額は6,000万円です。
3つ目がいちばん現実的なことが多い、というのがこの計算をやってみて分かることです。 月10万円の収入は、辞めたあとでも作れる幅があります。 それだけで必要額が3,000万円下がります。
出た数字の確かめ方
必要額と年数が出たら、そのまま予定にせず、 次の3つを確かめてください。どれも、計算では見えないところです。
辞めた直後に下がっても成り立つか
必要額ぎりぎりで辞めた直後に3割下がると、 取り崩しながら回復を待つことになり、元本が削られます。下落を想定しても足りるかを別に見ておくと、 どれだけ余裕を持つべきかが決まります。
年金が始まるまでのつなぎがあるか
50歳で辞めて65歳から年金を受け取るなら、15年ぶんの生活費を 別に用意しておく必要があります。「年金があるから」で必要額だけ下げると、 いちばん資産が要る期間が抜け落ちます。
生活費のうち、削れる部分がどれだけあるか
下がった年に取り崩す額を減らせれば、資産はもちます。 固定費と変動費を分けておいて、いざというとき何万円まで減らせるかを知っておくと、 計算より実際には強くなります。
この計算に入っていないもの
「生活費 ÷ 率」で出す必要額は、簡易な見積もりです。 次のものは入っていません。どれも金額を大きく動かします。
- 年金。受け取りが始まれば取り崩す額は減ります。ただし始まるまでは全額を資産から出します。
- 退職金。辞める年に一度だけ入るので、必要額に届く時期が早まります。
- 教育費や住宅ローンの終わり。年ごとに支出が変わるので、一律の生活費では表せません。
- 資産が生むインカム。家賃や配当が入るなら、その分は取り崩さずに済みます。
- 取り崩し時の税金。値上がり益にあたる部分に約20.315%かかります。
- 下がる年があること。毎年きっちり同じ利回りで増える前提の計算です。
年ごとの家計に乗せて計算すると、これらが全部入ります。 必要額という一つの数字ではなく、何歳で辞めても最後まで資産が尽きないかという形で答えが出ます。
もう一点、計算の前に確かめておくことがあります。いまの資産のうち、実際に取り崩せるのはどれかです。
住んでいる家は、売らないと使えません。売れば住むところが要ります。 取り崩しの元手にはならないので、必要額の計算から外します。 同じ理由で、車や貴金属といった現物資産も外して考えます。
手元に残す生活防衛資金も、元手には数えません。 収入が止まったときに使う分なので、 運用して減っては困るお金です。ここを元手に数えてしまうと、必要額に届いたつもりで、手元の現金ごと取り崩す計画になります。
総資産が5,000万円あっても、家が3,000万円で生活防衛資金が300万円なら、 FIREの元手になるのは1,700万円です。 この切り分けをしないまま必要額と比べると、 達成率が実際より高く出ます。
簡易な計算でも、やる意味はある
年金もイベントも入っていない計算に意味があるのか、 と思うかもしれません。あります。桁が分かることと、何を動かせば効くかが分かることの2つです。
必要額が3,000万円なのか1億円なのかで、話がまったく変わります。 そして生活費を1割下げたら必要額がどれだけ動くか、 月5万円稼いだら何年早まるか、といった効き方は、 簡易な計算でも正しく出ます。細かい前提を積む前に、 この2つを掴んでおくほうが順番として早いです。
そのうえで、年金・退職金・教育費の終わり・ローンの完済まで入れた計算に進みます。 年ごとの家計に乗せると、必要額という1つの数字ではなく、何歳で辞めても最後まで資産が尽きないかという形で答えが出ます。 簡易な計算と大きく違う答えが出ることもありますが、 それは数えているものが違うからで、どちらかが間違っているわけではありません。

