取り崩し率とは
取り崩し率は、引き出す額を決める率ではありません。 引き出すのは生活費そのもので、その額は円で決まっています。 率が決めているのは、その生活費に対していくら貯まっていれば始めてよいかのほうです。
割り算なので、率が低いほど必要額は大きくなります。 言い換えると、生活費の何年分をためるかという決め方です。
| 取り崩し率 | 生活費の | 必要な資産額 |
|---|---|---|
| 年3% | 33年分 | 1億円 |
| 年3.5% | 29年分 | 8,571万円 |
| 年4% | 25年分 | 7,500万円 |
| 年5% | 20年分 | 6,000万円 |
取り崩し率と、必要な資産額(年間生活費300万円の場合)
4%はどこから来たか
広まったきっかけは、1998年に米国トリニティ大学の3人の研究者 (Cooley・Hubbard・Walz)が発表した論文です。 米国株と米国債を組み合わせた資産を、1926年以降の実際の値動きに当てはめて、毎年決まった率を取り崩したときに、30年間で資金が尽きなかった割合を数えたものです。
その結果、株式の比率が高い組み合わせで年4%の取り崩しなら、 30年間もった割合が非常に高かった。ここから「4%ルール」という呼び名が広まりました。
4%ルールが言っていること、言っていないこと
言っていること
- 米国株と米国債を組み合わせた資産で、過去の値動きに当てはめた場合の話。
- 期間は30年。それより長く取り崩す前提の数字ではありません。
- 初年度に資産の4%を取り崩し、以降はその金額を物価に合わせて増やす、という取り崩し方。
言っていないこと
- 元本が減らないとは言っていません。使い切ることを織り込んだ目安です。
- 日本の株式・債券に当てはまるとは言っていません。対象は米国の資産です。
- 税金は引かれていません。日本では運用益に約20.315%かかります。
- 年金や退職金は入っていません。日本の制度は前提に入っていません。
- 今後もそうなるとは言っていません。過去の値動きを当てはめた結果です。
日本で使うときの3つのずれ
1. 元本が減るかどうかは、利回りとの比較で決まる
取り崩し率と実質の利回りを比べると、元本がどうなるかが分かります。
- 取り崩し率 ≦ 実質の利回り … 増える分だけで生活費が出る。元本は減らない。
- 取り崩し率 > 実質の利回り … 足りない分を元本から取り崩す。元本は減っていく。
名目の利回りを年5%、物価を年2%とすると、実質の利回りは年2.94%です。 (1.05 ÷ 1.02 − 1 の計算で、5−2=3%ではありません。) この前提で年4%を取り崩せば、必要額に届いたあとも元本は減り続けます。 それは計算の誤りではなく、4%ルールがもともとそういう目安だからです。
2. 税金の分だけ、多く取り崩すことになる
年300万円を使うには、税引前で300万円より多く取り崩す必要があります。 かかるのは取り崩した額の全部ではなく、値上がり益にあたる部分だけです。 NISAの枠内ならかかりません。
3. 年金が始まると、取り崩す額が減る
年金の受け取りが始まれば、資産から出す額はその分だけ減ります。 必要額を「生活費 ÷ 率」で一律に出すと、この効果が入りません。 ただし受け取りが始まるまでは全額を資産から出すので、 早く辞めるほど、つなぎの期間は長くなります。
定額で取り崩すか、定率で取り崩すか
率を決めたあと、実際にどう引き出すかにも2つのやり方があります。 結果がかなり変わるので、分けて考えてください。
定額(4%ルールの前提)
初年度に資産の4%を取り崩し、以降はその金額を 物価に合わせて増やしていく方法です。トリニティ研究が前提にしたのはこちらです。
- 毎年の生活費が読める。暮らしが安定する。
- 下がった年も同じ額を引くので、資産に対する割合が上がる。尽きる可能性が残る。
定率
毎年、そのときの資産の4%を取り崩す方法です。 資産が減れば取り崩す額も減るので、計算上は尽きません。
- 資産が尽きない。下がった年は自動的に引き出す額が減る。
- 使える額が毎年変わる。3割下がった年は、生活費も3割減らすことになる。
どちらが良いという話ではなく、尽きるリスクを取るか、生活費が変動するリスクを取るかの選択です。 実際には、生活費のうち削れない部分は定額で確保し、 残りを定率にするといった中間の形が現実的です。
率を上げて帳尻を合わせない
必要額が思ったより大きかったとき、いちばん簡単なのは率を上げることです。 4%を5%にすれば、年300万円の生活費に対する必要額は 7,500万円から6,000万円に下がります。1,500万円も縮まります。
ただし、引き出す額は年300万円のまま変わっていません。 変わったのは始めてよいとみなす元手の大きさだけです。 同じ生活費を少ない元手でまかなうので、元本の減りは速くなります。
必要額を下げたいなら、動かす先は率ではなく生活費のほうです。 辞めたあとの生活費を年300万円から240万円にすれば、 4%のままでも必要額は6,000万円になります。 率を上げた場合と同じ金額ですが、こちらは元本の減りが速くなりません。
自分の場合にどれだけ動くかは、FIREまで、いくら必要?で確かめられます。率ごとの必要額と、 働きながらの形にした場合の必要額が、まとめて出ます。
率をどう決めるか
正解の率はありません。決め方の目安を並べます。
| 率 | 位置づけ | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 年3% | 慎重 | 取り崩す期間が30年より長い。元本を残したい |
| 年3.5% | やや慎重 | 40代以下で辞める。期間が読めない |
| 年4% | 参考値 | 取り崩す期間が30年前後。使い切ってもよい |
| 年5% | 高め | 年金や副収入で下支えがある。期間が20年程度 |
率を選ぶときの考え方
考え方としては、まず取り崩す期間を決めます。 30歳で辞めて90歳まで生きるなら60年で、30年を前提にした4%は当てはまりません。 次に、元本を残したいか使い切ってよいか。残したいなら、 率を実質の利回り以下にする必要があり、そのぶん元手は大きくなります。
もうひとつ、率を決めるときに見落とされやすいのが取り崩しの下限です。生活費のうち、 どれだけ減らしても払わなければならない部分があります。 家賃や住宅ローン、保険料、通信費といった固定費です。
資産が減って取り崩す額を絞るとき、 削れるのは食費や娯楽といった変動費の側だけです。 固定費が生活費の8割を占めているなら、 絞れる幅は2割しかありません。この幅が小さいほど、 率は慎重に置く必要があります。
率を決める前に、生活費を固定費と変動費に分けておいてください。いざというとき、月いくらまで下げられるかが分かっていると、 率の選び方が変わります。下げる余地が大きい人は高めの率でも耐えられますし、 余地がない人は低めに置いておくほうが安全です。
なお、この率は資産の中身によっても意味が変わります。 全額を預金で持っているなら、増える分はほとんどないので、 年4%の取り崩しは25年で使い切る計画そのものです。 値動きのある資産の割合が高いほど、増える分に期待できる代わりに、 下がった年の影響も大きくなります。同じ4%でも、何で持っているかで結果が変わります。
率を決めたあとに残る問い
率が決まっても、まだ決まっていないことがあります。取り崩す期間が何年になるかです。これは寿命の話なので、 誰にも分かりません。
分からないものを前提に置くときの考え方は2つあります。 長めに見積もっておく(90歳や95歳まで)か、 途中で調整できる形にしておくか。前者は必要額が大きくなり、 後者は生活費が変動します。どちらを選ぶかは、 働ける余地がどれだけ残っているかで決まります。
もうひとつ残るのが、どこから取り崩すかです。 預金・債券・投資信託が混ざっている場合、 下がった年に値動きの大きい資産を売ると傷が深くなります。 率を決めることと、引き出す順番を決めることは別の作業です。
率は、計画の入口にある数字です。 これで必要額の桁が決まりますが、 決まるのはそこまでで、その額に届いたあとの運用は別に考えることになります。

