FIREとは
FIRE は Financial Independence, Retire Early の頭文字です。 日本語では「経済的自立と早期退職」と訳されます。働いて得る収入がなくても暮らしが成り立つ状態を作り、 そのうえで働くかどうかを選べるようにする、という考え方です。
仕組みそのものは単純です。生活費を資産の取り崩しでまかなえるだけの 元手を用意する。それだけです。難しいのは金額の決め方と、 その金額が本当に足りるのかという検証のほうです。
4つの型
ひと口にFIREと言っても、生活費をどこまで資産でまかなうかで形が変わります。 よく使われる呼び分けは次の4つです。呼び名に公的な定義はなく、 海外の個人が使い始めた言葉が広まったものです。
| 型 | 働き方 | 必要な資産 |
|---|---|---|
| Fat FIRE | 働かない。ゆとりのある生活費を全額まかなう | いちばん大きい |
| Lean FIRE | 働かない。生活費を絞って全額まかなう | 生活費を絞ったぶん小さい |
| Barista FIRE(サイドFIRE) | 生活費の一部を働いて稼ぐ | 稼ぐ分だけ小さくなる |
| Coast FIRE | 積立をやめ、生活費は働いて稼ぐ。元手は運用で育てる | 目標年齢までの伸びを見込むぶん小さい |
FIREの型と、必要な資産額の関係
この中で金額がいちばん動くのは、働くかどうかです。 年間の生活費が300万円で取り崩し率を4%とすると、全額を資産でまかなうには7,500万円。 月5万円(年60万円)を働いて稼ぐだけで、必要額は6,000万円まで下がります。1,500万円の差が、月5万円で決まります。
Coast FIREは少し性質が違います。これ以上積み立てなくても、 目標の年齢までに必要額へ届く元手がある状態を指します。 そこから先の積立は「もっと早く辞めるため」のものになるので、 貯めること自体が目的になっている人にとっては、いちど区切りになります。
日本で考えるときに違うところ
FIREの計算は米国で広まったものです。日本で当てはめるときには、 前提が3つ違います。
1. 年金がある
日本で会社員として働いた期間があれば、辞めたあとも加入歴のぶんの年金を受け取れます。 受け取りが始まれば、資産から出す額はその分だけ減ります。 ただし始まるまでは生活費の全額を資産から出します。 50歳で辞めて65歳から受け取るなら、15年ぶんのつなぎを別に用意することになります。
2. 社会保険料を自分で払う
会社を辞めると、健康保険は国民健康保険(または任意継続)に、 年金は国民年金に切り替わります。会社が半分払っていた分がなくなるので、 手取りベースでは負担が増えます。辞めたあとの生活費を、 いまの生活費と同じにしてはいけない理由のひとつです。
3. 運用益に約20.315%の税金がかかる
取り崩すとき、値上がり益にあたる部分には所得税・住民税があわせて約20.315%かかります。 年300万円を使うつもりなら、税引前ではそれより多く取り崩すことになります。NISAの枠内であればこの税はかかりません。
辞める前に決まっていること
必要額は「辞めたあとの年間生活費 ÷ 取り崩し率」で決まります。 つまり先に決まっていなければならないのは生活費のほうです。 ここが1割違えば、必要額も1割違います。
- いまの支出のうち、辞めたあとに無くなるもの。通勤費、仕事用の被服費、教育費や住宅ローンが終わっていればその分。
- 辞めたあとに増えるもの。健康保険料と国民年金保険料、家にいる時間が増えることによる光熱費。
- 変わらないもの。食費、住居費、通信費など。
この3つを書き出して足したものが、FIRE後の生活費です。 いまの支出をそのまま使うと、必要額が実態からずれます。
手元に残す生活防衛資金も、取り崩しの元手とは別に確保します。ここを元手に数えると、 必要額に届いたつもりで、いざというときの現金ごと取り崩す計画になります。
必要額の目安を、生活費から出してみる
具体的な数字で通してみます。年間の生活費が300万円、 取り崩し率を年4%とすると、必要額は7,500万円です。 300万円 ÷ 0.04 の割り算で、生活費の25年分にあたります。
この7,500万円という数字は、大きく見えるかもしれません。 ただ、これは生活費の全額を資産だけでまかなう形の金額です。 働く前提を少し入れるだけで、必要額は大きく下がります。
月5万円を稼ぐなら6,000万円、月10万円なら4,500万円。 月20万円まで働くなら1,500万円です。 金額の大きさに圧倒される前に、自分がどの形を目指しているのかを先に決めるほうが早い、 というのはこのためです。
生活費を下げると、二重に効く
生活費を下げると、必要額が下がるだけではありません。 いま使う額が減るぶん、積み立てに回せる額が増えます。 必要額が下がり、貯まる速さが上がる。この二つが同時に起きるので、 届く時期は大きく前倒しになります。
逆に言えば、生活費を上げたときも二重に効きます。 月3万円の固定費を増やすと、年36万円。取り崩し率4%なら 必要額は900万円増え、そのうえ積立に回せる額も年36万円減ります。
よくある読み違い
「4%ルールで元本は減らない」
減ります。元本が減らないのは、取り崩す率が 物価上昇分を引いた実質の利回りより低いときだけです。 名目5%・物価2%なら実質は2.94%なので、4%で取り崩せば 足りない分は元本から出ていきます。4%はもともと、 30年ほどかけて使い切ることを織り込んだ目安です。
「利回りを上げれば早く辞められる」
計算のうえではそうなりますが、利回りは自分で決められません。 目標から逆算して必要な利回りを決めると、その率を取りにいく理由になってしまいます。 年10%が必要だと出たときに見直すべきなのは、商品ではなく目標のほうです。
「資産が目標額に届いたら、あとは安心」
届いた直後がいちばん危ない時期です。 積み立てている時期の下落は安く買える機会ですが、 取り崩している時期の下落は、減った資産から同じ額を引くことになります。 目標額ぎりぎりで辞めると、最初の数年の下落に耐える余地がありません。
FIREが向かない場合
FIREは全員が目指すべきものではありません。次のような場合は、 先に片づけることがあります。
- 金利の高い借入がある。年5%以上で借りているなら、運用で上回るより返すほうが確実です。
- 生活防衛資金がない。収入が止まったときの備えがないまま元手を積むのは、順番が逆です。
- 収入が上がる余地が大きい。若いうちは、支出を絞るより稼ぐ力を伸ばすほうが効くことがあります。
- 働くこと自体が嫌ではない。辞めるための我慢が何十年も続くなら、いま暮らしを良くするほうが合理的なこともあります。
順番としては、こう進めます
最初にやることは、資産を増やすことではありません。 いまの生活費を把握して、辞めたあとにいくらになるかを見積もること。 そのうえで必要額を出し、いまとの距離を測る。ここまでが第一段階です。
距離が分かって初めて、動かす先が決まります。 積立を増やすのか、生活費を下げるのか、働き方を変えるのか。 距離を測る前に商品を選び始めると、何のためにその利回りが要るのかが分からないまま、 リスクだけを取ることになります。
そして、届いたあとにも決めることが残ります。 どこから取り崩すか、下がった年にどうするか、 年金が始まるまでをどう埋めるか。 FIREは目標額に届いて終わりではなく、そこから先の運用が続きます。

