名目金利とは
通帳や商品説明に書いてある「年0.2%」のような数字が、名目金利です。 100万円を1年預ければ2,000円の利息がつく、という意味の数字で、金額がいくら増えるかを表しています。
名目金利は、目に見えて確かめられる数字です。契約時に決まり、 明細に載り、増えた金額がそのまま残高に足されます。 だから比べやすく、金融機関も広告に使います。
ただ、この数字だけでは分からないことがあります。 増えた2,000円で、去年と同じものが買えるかどうかです。
実質金利とは
名目金利から物価の上昇分を差し引いて、買えるものが増えたか減ったかを年率で表したものが実質金利です。
金利が年0.2%で、物価が年3%上がった年を考えます。 残高は0.2%増えていますが、同じものの値段は3%上がっています。 金額としては増え、買えるものとしては減っています。 このとき実質金利はマイナスです。
逆もあります。金利が0.02%と低くても、物価が下がっている年なら、 同じ金額でより多く買えます。実質金利はプラスです。金利が高いか低いかではなく、物価との差で決まるのがこの数字の性質です。
日本では長いあいだ、物価がほとんど動かない時期が続きました。 その時期は名目金利と実質金利の差が小さく、名目だけを見ていても 大きくは外れませんでした。物価が動く局面では、この前提が崩れます。
「金利−物価」は近似
実質金利の説明としてよく見るのは、次の引き算です。
これは近似で、厳密には割り算になります。 買えるものの量を出す計算だからです。 金額が(1+金利)倍になり、値段が(1+物価)倍になるので、 買える量は割り算で出ます。
どれくらい違うのかを見ます。名目金利1%、物価2%のとき、 引き算なら−1.00%です。割り算では(1.01)÷(1.02)−1で、−0.98%になります。差は0.02ポイントしかありません。
| 名目金利 | 物価上昇率 | 引き算 | 割り算(正しい) |
|---|---|---|---|
| 1% | 2% | −1.00% | −0.98% |
| 1% | 5% | −4.00% | −3.81% |
| 5% | 10% | −5.00% | −4.55% |
| 2% | 20% | −18.00% | −15.00% |
率が小さいうちは、引き算で十分です。桁を知りたいだけなら、 頭の中でできる引き算のほうが実用的です。 率が大きくなるほど差が開き、引き算は必ず実際より不利な数字を出します。
金利が上がっても、実質では増えないことがある
「金利が上がったので預金に戻す」という判断は、名目だけを見ています。 金利が上がる局面は、物価も上がっていることが多い局面です。両方が上がったとき、差がどうなったかが問題になります。
金利が0.02%から0.5%に上がったとします。25倍です。 同じ時期に物価が0%から2%になっていれば、実質金利は プラス0.02%からマイナス1.47%に変わっています。 名目では大きく改善し、実質では悪化しています。
ここで言いたいのは「金利上昇に意味がない」ということではありません。 同じ物価のもとでは、金利が高いほうが有利です。比べるときに片方だけを動かして考えない、というだけのことです。
借りている側では、向きが逆になる
預けている側の話をしてきましたが、 借りている側では同じことが逆に働きます。 返す金額は契約で決まっているので、物価が上がっても増えません。 一方で、収入や物の値段は上がっていきます。 つまり返済の負担は、実質では軽くなります。
固定金利で借りている住宅ローンが分かりやすい例です。 毎月の返済額は最後まで変わりません。 物価と収入が上がっていけば、同じ返済額でも家計に占める割合は下がります。 借入の実質金利は、名目の金利から物価上昇率を引いたものになります。
預金と借入の両方がある人は、 この向きの違いを踏まえて考えることになります。 手元の預金が目減りしているなら、 その預金で借入を減らすほうが効くこともあります。 借入の年率のほうが預金の金利よりはるかに高いのが普通だからです。
それでも預金を持つ理由はある
実質金利がマイナスでも、預金を持つ理由はあります。 必要なときにその日引き出せること、金額が動かないことです。生活防衛資金や近く使うお金は、 この性質のために預金に置きます。目減りは、その性質の対価です。
問題になるのは、その性質が要らないお金まで預金に置いているときです。 10年使わないお金に、その日引き出せる性質は要りません。
税金を引いてから比べる
もうひとつ、名目金利のまま比べると外れる理由があります。 利息には税金がかかることです。
国内の預貯金の利子には、所得税・復興特別所得税と住民税を合わせた 税率で源泉徴収されます。通帳に記帳される利息は、 すでに引かれたあとの金額です。 税率と計算の詳しい話は預金利息にかかる税金にあります。
実質金利を出すときは、この税引後の金利を使います。 表示金利のまま計算すると、実際より有利な数字が出ます。 率が小さいので影響も小さく見えますが、もともとマイナス寄りの数字なので、方向としては不利側に効きます。
実質金利で決められること、決められないこと
実質金利で決められるのは、いまの置き場所を続けてよいかどうかの目安までです。 決められないことのほうが多いので、そこを分けておきます。
- 決められる:預金に置いたままだと、買えるものが増える方向か減る方向か
- 決められる:同じ元本の変わらない預け先どうしで、どれが物価に対して強いか
- 決められない:実質金利がマイナスだから何に移すべきか
- 決められない:来年の実質金利がいくらになるか
実質金利がマイナスだと分かっても、その先は別の判断です。 物価に追いつく可能性のある資産は、値段が動くものが中心で、目減りを避けるかわりに別のリスクを引き受けるという取引になります。 どちらを選ぶかは、そのお金をいつ使うかで変わります。
もうひとつ、実質金利は過去の物価から出す数字だという点があります。 将来の物価は分からないので、将来の実質金利も分かりません。 いま計算できるのは「この率が続いたら」という仮定つきの数字だけです。
自分の預金でいくらになるかは、 預金の価値、インフレで何年後にどれだけ減る? で計算できます。預金金利を入れると、税引後の金利で実質利回りまで出ます。 そのうえで、そのお金をいつ使うのかを3問で確かめて、 置き場所の候補まで出します。
元本の変わらない預け先どうしで比べたいなら、 預金を国債にしたら、利息はいくら増える? が使えます。どちらも元本は割れませんが、受け取る利息は違います。 物価に全部は追いつかなくても、負ける幅は小さくできます。
最後に、実質金利がマイナスだからといって急いで動かす理由にはならないことを書いておきます。 年1%のマイナスは、1年では1%です。 数か月で判断を誤るより、使う時期を整理してから決めるほうが、 結果として効きます。

