家計・ライフプラン

辞めた直後の下落が、いちばん効く理由

積み立てている時期の下落は、安く買える機会になります。取り崩している時期の下落は、減った資産から同じ額を引くことになり、戻る力が落ちます。同じ下落でも意味が正反対です。

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この記事の要点

  • 同じ平均利回りでも、値動きが来る順番で結果が変わります。これを収益率配列のリスクと呼びます。
  • 積立中の下落は安く買える機会、取り崩し中の下落は元本が削られる出来事。意味が正反対です。
  • 下がった年も同じ額を引くので、資産に対する取り崩しの割合が上がります。回復しても削られた分は戻りません。
  • 備えは4つ。現金を数年ぶん持つ、下がった年は生活費を抑える、少しでも働く、辞める年をずらす。
  • 平均で計算した年数は、順番の違いを写せていません。悪い順番でも成り立つかを別に確かめてください。

順番が結果を変える

資産を取り崩しながら暮らしていると、同じ平均利回りでも、値動きが来る順番によって結果が変わります。 最初の数年に大きく下がるか、後半に下がるかで、資産が続く年数が変わります。

この、順番によって結果が変わる性質を、 収益率配列のリスク(sequence of returns risk)と呼びます。 FIREの計画でいちばん効いてくるのが、この辞めた直後の下落です。

積立をしている時期の下落は、安く買える機会になります。 取り崩している時期の下落は、減った資産から同じ額を引くことになり、 戻る力が落ちます。同じ下落でも、意味が正反対です。
同じ下落でも、積立中と取り崩し中では意味が逆積み立てている時期同じ金額で多く買える。戻れば利益になる取り崩している時期減った資産から同じ額を引く。元本が削られるだから、辞めた直後の数年がいちばん効きます
積み立てている時期の下落は、同じ金額でより多く買える機会になります。取り崩している時期の下落は、減った資産から同じ額を引くことになり、戻る力が落ちます。
マネック案内役):「平均で年5%」って言われると、毎年5%ずつ増える絵を思い浮かべちゃうけど、 実際は上がったり下がったりして平均が5%。 取り崩してる人には、その順番が効くんだ。

なぜ取り崩し中だけ効くのか

積み立てている時期は、資産に入れる額が決まっていて、出ていく額はありません。 値段が下がった年は、同じ金額でより多く買えます。 あとで戻れば、安く買った分がそのまま利益になります。

取り崩している時期は逆です。出ていく額(生活費)が決まっていて、 入ってくるのは運用益だけ。下がった年も同じ金額を引くので、資産に対する取り崩しの割合が大きくなります。 3,000万円から300万円を引けば10%ですが、 2,000万円まで下がったあとの300万円は15%です。

その結果、元本が削られた状態で相場の回復を待つことになります。 回復しても、削られた分が戻るわけではありません。

資産を減らさずに済む条件は単純です。取り崩す率が実質の利回りを下回っていること。下がった年は、この条件が崩れます。

同じ平均でも、結果が違う

3,000万円から毎年150万円(5%)を取り崩す場合で、 値動きの順番だけを入れ替えて比べます。 どちらも3年間の平均は同じです。

値動きの順番だけを入れ替えた場合先に下がる−30%+10%+20%約2,020万円後で下がる+20%+10%−30%約2,300万円3年間の値動きは同じ。順番が違うだけで、残る額が変わります
3,000万円から毎年150万円を取り崩した場合の例です。3年間に起きたことは同じで、順番だけが違います。それでも約280万円の差がつきます。金額は形を見せるための仮の値です。
1年目2年目3年目3年後の資産
先に下がる−30%+10%+20%約2,020万円
後で下がる+20%+10%−30%約2,300万円

値動きの順番を入れ替えた場合(3,000万円から年150万円を取り崩す)

3年間に起きたことは同じで、順番が違うだけです。 それでも約280万円の差がつきます。取り崩す年数が長くなるほど、 この差は開いていきます。

「平均で年5%」という前提で計算した結果は、毎年きっちり5%ずつ増える場合の答えです。 実際にはこの順番の違いがあるので、平均どおりの結果にはなりません。

できること

相場の順番は選べません。選べるのは、下がった年に何をするかです。

1. 現金を数年ぶん持っておく

下がった年に値動きのある資産を売らずに済むよう、 生活費の2〜3年ぶんを現金や短期の債券で持っておく方法です。 回復を待てるぶん、削られる額が減ります。 そのかわり、待機している分は物価に追いつきません。

2. 下がった年は生活費を抑える

取り崩す額そのものを減らせれば、資産に対する割合が上がりません。 毎年同じ額を引く前提の計算より、実際にはもつことになります。生活費のうち、削れる部分がどれだけあるかを先に知っておくと、 この手が使えます。

3. 少しでも働く

下がった年だけでも収入があれば、その分は取り崩さずに済みます。 働き方を変えられる状態を残しておくこと自体が、この risk への備えになります。

4. 辞める年をずらす

必要額ぎりぎりで辞めると、直後の下落に耐える余地がありません。 1年分でも余裕を持って辞めると、最初の数年の下落を吸収できます。

  • 下落30%を想定して、それでも足りるかを確かめる。
  • 足りないなら、辞める時期・生活費・働き方のどれかを動かす。
  • 利回りの前提を上げて帳尻を合わせない。それは何も解決しません。

どこから取り崩すかを、先に決めておく

持っている資産は1種類ではありません。預金・債券・投資信託・株式が 混ざっているのが普通です。どこから引き出すかを決めておくと、 下がった年に慌てずに済みます。

よくある置き方

  • まず預金から。値動きしないので、いつ引き出しても額が変わりません。
  • 次に債券。株式より値動きが小さいので、下がっていても傷が浅く済みます。
  • 最後に株式。下がっている年はできるだけ売らずに、回復を待ちます。

この順番にしておくと、下落の年に値動きの大きい資産を売らずに済みます。 そのかわり、預金と債券の割合が高いほど、 全体として増える力は落ちます。もつことと増やすことは、両立しません

どれくらい現金で持つか

決まった正解はありませんが、生活費の2〜3年ぶんを目安にする 考え方があります。下落から回復するまでの期間を、 売らずにしのぐための待機資金という位置づけです。

多く持てば安心ですが、その分は物価に追いつきません。 年360万円の生活費で3年ぶんなら1,080万円。物価が年2%なら、 この待機資金は1年で20万円ぶんの購買力を失っていることになります。 それは売らずに済ませるための費用です。

手元に残す生活防衛資金とは別に考えてください。あちらは収入が止まったときの備えで、 こちらは下落の年に売らないための待機資金です。 目的が違うので、金額も別に決めます。

辞める時期そのものを、条件にする

いちばん効く備えは、辞める時期を固定しないことです。 「◯歳になったら辞める」と決めてしまうと、 その年がたまたま下落の直後でも、辞めることになります。

条件で決める

年齢ではなく、資産の額で決める形にしておくと、 下落の直後に辞めることを避けられます。 「必要額の1.1倍に届いたら」といった置き方です。

1割の余裕があれば、辞めた直後に1割下がっても 必要額を割りません。余裕をどれだけ見るかは、その後に働ける余地がどれだけあるかで決まります。 いつでも働ける状態なら余裕は小さくてよく、 そうでないなら大きく見ておく必要があります。

1年ずらすと、二重に効く

辞める年を1年遅らせると、積立が1年ぶん増え、 取り崩す年数が1年減ります。増える側と減る側の両方が動くので、 1年の差は思ったより大きく効きます。

逆に言えば、必要額ぎりぎりで辞めた場合の余裕はほとんどありません。 計算のうえで「ちょうど届いた」状態は、悪い順番が来たら足りない状態と同じです。

平均で計算する限界

FIREの必要額を出す計算は、たいてい「毎年同じ利回り」を前提にしています。 ToMiの試算も同じです。単純だから比べやすく、前提を動かしたときの 効き方が分かるという利点があります。

ただし、その答えは順番の違いを写せていません。 だから、出た年数をそのまま予定として使わないでください。 確かめるべきなのは、平均どおりに行った場合ではなく、悪い順番で来た場合でも成り立つかのほうです。

「辞めた直後に30%下がったら、何年もつか」を一度出しておくと、 必要額に対してどれだけ余裕を持つべきかが決まります。 余裕がないと分かったなら、それは計画を直す材料です。

もうひとつ、順番のリスクを小さくする方法があります。取り崩し始める時期を分けるという考え方です。

辞めてすぐに全額の取り崩しを始めるのではなく、 最初の数年は退職金や現金でしのぎ、 値動きのある資産に手を付けるのを遅らせる。 こうすると、いちばん危ない最初の数年を、 売らずにやり過ごせる可能性が上がります。

年金の繰下げも、似た効き方をします。 65歳から受け取るところを70歳まで待つと、受け取る額は増えます。 そのかわり、待っている5年間は資産から出すことになるので、その期間の取り崩しは増えます。 どちらが有利かは、資産の額と、どれだけ長生きするかで変わります。

共通しているのは、順番のリスクに対して打てる手が相場の予想ではないということです。 いつ下がるかは選べませんが、 下がったときにどう振る舞うかは、先に決めておけます。

この話が効くのは、FIREだけではない

取り崩しながら暮らすという点では、 定年後の生活も同じです。65歳で退職して年金と貯蓄で暮らす場合も、 辞めた直後に大きく下がれば同じことが起きます。

違うのは期間です。65歳から取り崩すなら25年ほど、 50歳から取り崩すなら45年ほど。期間が長いほど、悪い順番に当たる可能性は上がります。 早く辞めるほどこの話が重くなるのは、そのためです。

逆に言えば、年金の受け取りが始まったあとは効き方が弱まります。 取り崩す額そのものが減るので、下落の影響も小さくなるからです。 いちばん危ないのは、辞めてから年金が始まるまでの期間ということになります。

マネック案内役):ToMiのFIREの画面には、辞めた直後に0/20/30/40%下がった場合を並べる表があるよ。必要額の診断で桁を掴んでから、FIREシミュレーションで確かめてみて。

よくある質問

下落に備えるには、現金をいくら持てばいいですか?
決まった正解はありませんが、生活費の2〜3年ぶんを目安にする考え方があります。下がった年に値動きのある資産を売らずに済むための待機資金です。そのかわり、待機している分は物価に追いつきません。多く持つほど安心ですが、増える力も落ちます。
取り崩す順番を工夫すれば避けられますか?
完全には避けられませんが、和らげることはできます。下がった年は現金や債券から取り崩し、値動きのある資産を売らないという方法です。ただし現金が尽きれば同じ問題に戻るので、下落が長引く場合に備えて、生活費を抑える余地も持っておくほうが確実です。
積立中なら下落は気にしなくていいのですか?
取り崩し中ほどは効きません。同じ金額でより多く買えるためです。ただし、辞める直前の下落は取り崩し中と同じ影響になります。目標額に近づくほど、値動きの大きい資産の割合を見直す意味が出てきます。

参照した一次情報

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