手元資金が少なくなる場合
いちばん多い失敗がこれです。住宅ローンに返したお金は、 必要になっても取り戻せません。 預金なら急な出費に使えますが、返済に回した資金には手が届きません。
手元が薄い状態で急な出費が来ると、使える手段は新しい借入だけになります。 そしてその借入は、住宅ローンより金利が高いものになります。
年1.0%の住宅ローンを100万円返して、その後カードローンで100万円借りれば、 年15%の利息がかかります。減らした利息より、新しく払う利息のほうがはるかに大きいという結果になります。
住宅ローンにはもうひとつ、他の借入にはない性質があります。 団体信用生命保険です。契約者に万一のことがあれば、残っている住宅ローンは保険で完済されます。繰上げ返済で残高を減らすと、この保障の対象も同じだけ小さくなることになります。
これは「返さないほうがよい」と言い切れる話ではありませんが、 生命保険の一部を解約するのと似た面があることは知っておいてください。 手元の現金として持っていれば、万一のときにも遺族が使えます。
どのくらい残すかの目安として、生活費の3〜6か月分がよく挙げられます。 収入の安定度、家族構成、勤務先の状況によって変わるため一律には決まりませんが、1か月分を切る水準まで削って返すのは、どんな条件でも避けたほうが安全です。
教育費など大型支出が近い場合
今後3〜5年で予定している大きな支出があるなら、その分は繰上げ返済に回しません。
- 教育費:進学、受験、留学。時期がほぼ決まっているぶん、計画に組み込みやすい
- 車:買い替え、車検。数年おきに必ず来る
- リフォーム:外壁、給湯器、水回り。築年数で時期の見当がつく
- 住み替え:転勤、家族構成の変化
これらに使うお金を返済に回すと、必要な時期に手元が足りず、結局借りて払うことになります。 教育ローンやマイカーローンの金利は住宅ローンより高いため、返さずに持っておいたほうが負担は小さくなる関係です。
時期の見当をつけるには、いちばん近い支出から逆算するのが簡単です。 子どもが中学生なら、高校・大学の入学時期は数年以内に来ます。 車が10年目なら、買い替えか大きな修理はそう遠くありません。「まだ先」と思っているものほど、実際には3〜5年以内に来ることがよくあります。
住宅ローン控除への影響がある場合
住宅ローン控除を利用中は、繰上げ返済によって2つの影響が出ます。
控除額が小さくなる
控除額はその年の12月31日時点の残高で決まります。 繰上げ返済で残高が減れば、控除の上限も下がります。 年末が近い時期なら、実行を年明けにずらすだけで1年分の控除を保てることがあります。
期間短縮型では、控除そのものを失うことがある
住宅ローン控除には償還期間10年以上という要件があります。 期間短縮型で繰上げ返済した結果、 最初の返済月から最終返済月までが10年未満になると、その年以後は控除を受けられません。
返済額軽減型なら償還期間は変わらないので、この要件には触れません。 控除を利用中でどうしても返したい場合の選択肢になります。
高金利の別の借入がある場合
カードローン、リボ払い、自動車ローンなどの残高があるなら、 そちらを先に返すほうが減らせる利息は大きくなります。
| 借入の種類 | 金利の目安 | 100万円を1年借りた場合の利息 |
|---|---|---|
| 住宅ローン | 年0.5〜1.5%程度 | 5,000〜15,000円 |
| 自動車ローン | 年2〜5%程度 | 20,000〜50,000円 |
| カードローン | 年15%前後 | 150,000円前後 |
| ショッピングリボ | 年15〜18%程度 | 150,000〜180,000円 |
同じ100万円を返すなら、金利が高い借入に充てたほうが減る利息は大きくなります。返す順番は金利の高いものからというのは、この差から出てくる原則です。
住宅ローンの金利がどのくらいの水準にあるかは 住宅ローン金利の実勢 で確認できます。自分の金利が高めなら、順番の判断も変わってきます。
カードローンやリボの残高がある場合は、余裕資金でリボ・カードローンを返したら、支払いはいくら減る?で先に確認してください。
自動車ローンや教育ローンも、住宅ローンより金利が高いのが一般的です。 複数の借入がある場合は、金額の大きさではなく金利の高さで順番を決めるのが基本になります。 住宅ローンは残高がいちばん大きいぶん気になりますが、 減らせる利息で比べると優先度は下がります。
全額返済ではなく一部返済という選択
ここまでの条件に当てはまるからといって、 繰上げ返済を諦める必要はありません。金額を減らせばよいだけです。
効果は返す金額に比例しますが、残高に対して返す額が大きくなるほど、 比例以上に効いてきます。逆に言えば、金額を半分にしても効果が半分より大きく残ることがあります。
手元を厚くしたまま効果の一部を取る、という進め方は現実的です。 今回は少なめにして、支出の予定がはっきりしてから追加で返す。 繰上げ返済は何度でもできるので、1回で決める必要はありません。
金額の決め方としては、次の引き算が分かりやすいはずです。 いまの預金から、生活費の3〜6か月分と、3〜5年で使う予定の金額を引く。 残った額が、繰上げ返済に回せる上限です。 そこからさらに余裕を見て決めれば、返したあとで困るという結果になりにくくなります。
自分の条件だと削減額がいくらになるかは、住宅ローン、繰上げ返済したらいくら利息が減る?で計算できます。金額を変えながら比べられるので、 「いくらまでなら返してよいか」を決める材料になります。
確認する順番
繰上げ返済を検討するとき、次の順に確認すると迷いにくくなります。
- もっと金利の高い借入はないか。あるなら、そちらが先
- 返した後、生活費の何か月分が残るか。1か月分を切るなら金額を減らす
- 3〜5年で使う予定の金額はいくらか。その分を差し引いてから返す額を決める
- 住宅ローン控除を利用中か。利用中なら、控除額の減少と償還期間の要件を確認する
4つとも問題がなければ、繰上げ返済は確実に利息を減らす行動です。 迷っている間も利息はかかり続けるので、条件が整っているなら先延ばしする理由はありません。
どれかに引っかかる場合は、金額を減らすか、時期を後ろにずらすか、 返し方を変えるかで対応できます。やめる以外の選択肢があることは、覚えておいてください。
返さないと決めた場合にすること
条件に引っかかって今回は返さないと決めたなら、 そのお金を使ってしまわないように分けておくことが大事です。 繰上げ返済用として別の口座に置いておけば、 条件が整ったときにすぐ返せます。
あわせて、次に見直す時期を決めておくと確実です。 住宅ローン控除が終わる年、教育費が一段落する年、 といった節目を目印にすると忘れません。 そのときにもう一度、同じ4つを確認すれば済みます。
ここまで挙げた4つは、どれも繰上げ返済そのものを否定するものではありません。 住宅ローンを返せば利息は確実に減ります。 問題になるのは、返した結果として別のところで金利を払うことになったり、 受けられたはずの控除を失ったりする場合です。
言い換えれば、この4つに引っかからない範囲の金額であれば、 繰上げ返済は迷わず進めてよい行動です。いくらまでなら大丈夫かを先に決めておけば、 あとは実行するだけになります。
最後に、判断を1年後に持ち越すこと自体は失敗ではありません。 住宅ローンの金利は他の借入に比べて低いため、1年待ったことで生じる差は限られます。 手元の備えができていない状態で返してしまうより、はるかに安全です。
住宅ローンは、返し終えるまでに何度も見直す機会があります。 今回の判断が最後ではありません。収入が変わったとき、家族構成が変わったとき、 住宅ローン控除が終わったとき。そのたびに同じ4つを確認すれば、そのときの状況に合った金額を選び直せます。
