奨学金の返還が難しくなったとき、機構には願い出て使える制度があります。知らないまま延滞してしまうと、延滞金が加わり、信用情報の登録対象にもなります。返せなくなってからではなく、返せそうにないと分かった時点で動くほうが、選べるものが多く残ります。この記事は、その2つの制度と、延滞したときに何が起きるかを整理します。
返せないときの制度は2つある
機構が案内しているのは、月々の返還額を少なくする減額返還制度と、返還を待ってもらう返還期限猶予です。目的が違うので、自分がどちらの状態にあるかで選ぶものが変わります。
おおまかには、金額を下げれば返し続けられるなら減額返還、いまはどうしても返せないなら返還期限猶予という分かれ方になります。どちらも願い出と審査が必要で、申し込めば自動的に通るものではありません。承認された期間についてだけ適用されます。
選ぶ前に、自分の返還がいくらなら続けられるのかを出しておくと話が早くなります。毎月の必須生活費を書き出して、手取りから引いた残りがいくらかを見ます。その残りが返還月額を下回っているなら、下げれば続けられるのか、いったん止める必要があるのかが、その時点で決まります。感覚で「苦しい」と判断するより、金額で見たほうが制度を選びやすくなります。
もうひとつ、在学中の猶予(在学猶予)があります。これは在学している間の返還を止める別の制度で、卒業予定年月まで猶予されます。社会人になってから返還が苦しくなった場合の制度とは分けて考えてください。
減額返還は、毎月の額を下げて期間を延ばす
減額返還は、1回あたりの返還月額を3分の2、2分の1、3分の1または4分の1に減額して返還できる制度です。返還期間を延長する形をとるので、毎月の負担は軽くなりますが、返し終わるまでの年数は延びます。
適用期間の上限は通算15年(180か月)です。1回の願い出につき適用されるのは12か月で、続けて使いたい場合は改めて願い出ることになります。「一度申し込めば完済まで続く」制度ではない点に注意してください。
| 選べる減額の割合 | 毎月の返還額 | 返還期間 |
|---|---|---|
| 3分の2に減額 | 元の3分の2 | 延びる |
| 2分の1に減額 | 元の半分 | 延びる |
| 3分の1に減額 | 元の3分の1 | 延びる |
| 4分の1に減額 | 元の4分の1 | 延びる |
適用期間の上限は通算15年(180か月)、1回の願い出につき12か月です。どの割合を選べるかは審査によります。
減額返還を使うと、返し終わる時期は後ろへずれます。毎月の額を半分にすれば、単純に見れば倍の期間がかかります。いま負担を軽くする代わりに、返還が生活に乗っている期間が長くなるということです。住宅ローンを組む予定があるなど、将来の計画に関わる場合は、延びたあとの完済時期も確かめてから決めてください。
毎月の返還額を下げたいという目的で繰上返還を考える人がいますが、それは向きが逆です。一部繰上返還は返還期間を短くする手続きで、毎月の返還額は変わりません。月々を軽くしたいなら、使うのはこちらの制度です。
繰上返還で何が変わるかは奨学金を繰上返還すると、何が変わるかで整理しています。
返還期限猶予は、いったん返還を止める
返還期限猶予は、一定の期間、返還期限を先送りする制度です。承認された期間は返還しなくてよくなり、そのぶん返還が終わる年月も後ろへずれます。
適用期間の上限は通算10年(120か月)が原則です。ただし機構は、災害、傷病、生活保護受給中、産前・産後休業および育児休業、一部の大学校在学、海外派遣の場合には10年の制限がないとしています。同一原因の災害による場合は原則5年が限度です。給付奨学金の返還については、10年の上限がありません。
- 災害にあった
- 傷病で働けない
- 経済的に困難な状況にある
- 失業している
- 生活保護を受けている
- 産前・産後休業や育児休業に入っている
上限が通算10年と決まっているのは、この制度が一時的な立て直しのためのものだからです。10年を使い切ったあとも返還が難しい状況が続く場合は、減額返還など別の制度に切り替えられないかを含めて、機構に相談することになります。制限のない事由に当たるかどうかでも、使える長さが変わります。
機構は、返還が困難な事情が生じた場合に返還期限の猶予を願い出ることができるとしています。承認されるかどうかは審査によるので、願い出れば必ず止まるわけではありません。承認されなかった場合は、返還を続ける必要があります。
機構は延滞する前に手続きするよう案内しています。引き落としが止まってから考えるのではなく、返せそうにないと分かった時点で願い出るのが、この制度の使い方です。
どちらも、返す総額は減らない
ここは誤解されやすいところです。機構は返還期限猶予について、返還すべき元金や利子が免除されるものではないと明記しています。減額返還も、毎月の額を下げる代わりに返還期間を延ばす制度です。
つまり、どちらも返す時期を動かす制度であって、返す額を減らす制度ではありません。負担が軽くなるのは一時的で、返還そのものは続きます。生活を立て直すための時間を作る制度だと捉えるほうが、使ったあとの見通しを間違えません。
もうひとつ、どちらの制度も適用期間中は繰上返還ができません。手元にお金ができたから先に返そうとしても、適用が終わるまで申し込めません。制度を使っている間は、その選択肢が止まると考えてください。
利子についても注意が要ります。第二種は有利子なので、返還が先へ延びれば、その期間にかかる利子も含めて返すことになります。猶予や減額で楽になるのは毎月の現金の出方で、契約そのものが軽くなるわけではありません。第一種は無利子なので、この点は関係しません。
返還免除は、これらとはまったく別の制度です。本人が死亡や精神・身体の障害により返還できなくなった場合の免除や、大学院で特に優れた業績をあげた場合の免除など、限られた条件のものです。返還が苦しいという理由だけで免除されるわけではありません。
減額返還も返還期限猶予も、返す総額は減りません。返す時期を動かして、立て直す時間を作るための制度です。どちらも適用期間中は繰上返還ができません。
延滞すると、手当てできることが減っていく
願い出をせずに引き落としが止まると、延滞になります。延滞すると何が起きるかを、順に見ていきます。
まず督促があります。機構は、返還金を延滞すると、本人、連帯保証人、保証人に対して、文書と同時に電話による督促を行うとしています。人的保証を選んでいる場合、連絡は自分だけでは済みません。
次に延滞金が加わります。延滞金は延滞している割賦金の額に対してかかり、第二種の場合は利子を除いた割賦金が対象です。率は採用した時期や貸与が終了した時期によって区分が分かれており、令和2年3月28日以降の区分では年3%とされています。自分がどの区分かは、機構の延滞金の案内で確認してください。
そして、延滞が3か月以上になると個人信用情報機関への登録対象になります。機構は、登録されると金融機関などが本人の経済的信用が低いと判断することがあり、スマートフォンの分割払いやクレジットカードの利用ができなくなるほか、住宅ローンなどの各種ローンを組めなくなる場合があるとしています。登録された情報は、返還完了から5年後に削除されます。
延滞している状態でも、返還期限猶予や減額返還を願い出ることはできます。もう手遅れだと考えて放置するのが、いちばん状況を悪くします。機構には、延滞している場合の返還期限猶予の申請手続きの案内もあります。
何から手をつけるか
返還が苦しいと感じたときの順番を並べておきます。繰上返還の損得を計算するより先に、ここを片づけることになります。
- 1スカラネット・パーソナルで、返還残額・返還月額・いまの返還状況を確認する
- 2毎月いくらなら返せるかを、必須の生活費から逆算する
- 3減らせば返せるなら減額返還、いまは返せないなら返還期限猶予を検討する
- 4機構の案内で、自分が対象になる事由と必要な書類を確認する
- 5延滞する前に願い出る(すでに延滞していても願い出はできる)
- 6承認されたら、適用期間が終わったあとの返還計画を立て直す
2番目が決まらないと、減額返還と返還期限猶予のどちらを選ぶかも決まりません。手元の現金と毎月の必須生活費を書き出すところからになります。
状況が落ち着いて、返還に回せるお金ができたときには、繰上返還という選択肢が戻ってきます。そのときは自分の残額と手元の現金で、返してよい額を試算すると、減る利子と返還後に残る現金を並べて確認できます。ただし、適用期間中は繰上返還ができないので、使える状態に戻ってからの話です。
奨学金の返還は、長い人で20年ほど続きます。その間には収入が落ちる時期も、支出が増える時期もあります。制度があることを知っているかどうかで、同じ状況でも結果が変わります。
延滞する前に願い出るのが基本です。延滞してからでも願い出はできますが、延滞金と信用情報の登録という、避けられたはずの負担が先に乗ります。
