奨学金の繰上返還は、返還の予定より先に、残りの全部または一部を返すことです。利子が減るという説明はよく見かけますが、何がどれだけ減って、代わりに何を手放すのかまで並べた説明は多くありません。この記事は、繰上返還で実際に変わるものと変わらないものを分けて整理します。
繰上返還とは、先に返してしまうこと
機構は、返還額の全額または一部を繰り上げて返還できるとしています。全額を繰り上げれば返還は完了し、以後の返還も利子もなくなります。一部を繰り上げた場合は、繰り上げた分の返還期間が短縮され、翌月からの返還は通常どおり続きます。
手続きそのものに費用はかかりません。機構は、口座振替による繰上返還では手数料がかからないとしています。払込取扱票で返還する場合は、別途払込手数料がかかります。繰上返還のために手数料を取られる、という心配は基本的に不要です。
何回に分けて申し込んでもかまいません。今回で全部を決める必要はなく、手元の状況に合わせて少しずつ返すこともできます。ここは住宅ローンなどと同じで、一度にまとめて返すことだけが繰上返還ではありません。
繰上返還は、全額でも一部でもでき、口座振替なら手数料もかかりません。分けて何度も申し込めるので、一度に決めきる必要はありません。
得になるのは、払わずに済んだ利子だけ
繰上返還の効果を考えるときに、いちばん間違えやすいのがここです。返した元金は得になった額ではありません。元金は、もともと返す約束だったお金を先に返しただけで、支出が増えたわけでも減ったわけでもありません。
第二種の場合、機構は繰上にあたる期間の利子はかからないとしています。つまり、繰り上げたことで実際に減るのは、その期間にかかるはずだった利子です。
残額に利率をかけた1年分の利子が、そのまま得になる額というわけでもありません。返還が進めば残額は毎月減っていくので、繰り上げなかった場合の利子も年々小さくなります。正しく比べるには、完済までの利子の合計どうしを引き算します。
同じ金額を返しても、返す時期が早いほど減る利子は大きくなります。利子は残っている元金に対してかかるので、元金が大きいうちに減らしたほうが、その後ずっと効き続けるためです。逆に、返還の終盤では残額そのものが小さく、残りの期間も短いので、同じ額を繰り上げても減る利子は小さくなります。
据置期間中に繰上返還する場合は、扱いが少し違います。機構は、繰上にあたる期間の利子はかからないとする一方で、据置期間の利子はかかるとしています。初回の返還より前に繰り上げるケースは、通常の返還中とは処理が分かれるため、金額は機構の案内で確かめてください。
短くなるのは期間で、毎月の返還額ではない
一部繰上返還について、機構は「繰り上げた分の返還期間が短縮されます。翌月からの返還は通常通りです」としています。毎月の返還額は下がりません。
ここを取り違えると、期待した効果が出ません。毎月の返還が苦しくて負担を軽くしたい、という目的で繰上返還をしても、翌月からの引き落とし額は変わらないためです。手元の現金だけが減って、月々の家計は同じままになります。
月々の負担を軽くしたい場合は、別の制度があります。減額返還は、1回あたりの返還月額を3分の2、2分の1、3分の1または4分の1に減額して返還できる制度で、返還期間を延長する形をとります。適用期間の上限は通算15年(180か月)で、1回の願い出につき12か月です。繰上返還とは目的も向きも逆の制度です。
| やりたいこと | 使う制度 | 起きること |
|---|---|---|
| 将来の利子を減らしたい | 繰上返還 | 返還期間が短くなる。月額は変わらない |
| 早く返し終わりたい | 繰上返還 | 完済の時期が前になる |
| 毎月の負担を軽くしたい | 減額返還 | 月額が下がる。返還期間は延びる |
| いまは返すのが難しい | 返還期限猶予 | 返還を待ってもらう |
減額返還・返還期限猶予には、願い出と審査が必要です。条件は機構の案内で確認してください。
減額返還と返還期限猶予は、適用期間中に繰上返還ができません。いまどちらかを使っているなら、繰上返還の損得を計算する前に、そもそも申し込めるかどうかを確かめる順番になります。
第一種では、金額の面での得は出ない
第一種奨学金は無利子です。利子が付いていないので、早く返しても減る利子がありません。繰上返還で変わるのは、完済する時期だけです。
これは「第一種を繰上返還しても意味がない」という意味ではありません。返し終わるまでの年数が縮むこと自体に価値を感じる人はいますし、住宅ローンなどの借入を予定していて、残っている借入を減らしておきたいという理由もありえます。ただし、そこに金額としての得は乗りません。無利子なので、返さずに置いておくことによる損もありません。
第一種と第二種を併用しているなら、同じ金額を返すとしても、第二種に充てたほうが利子は減ります。どちらに充てるかを選べる場合は、利率が付いているほうを先に減らすのが金額の面では効きます。ただし契約ごとの条件や返還支援の有無で結論が変わることがあるので、機構に確認してから決めてください。
第一種と第二種の違いは第一種奨学金と第二種奨学金の違いで整理しています。
返した現金は、必要になっても戻らない
繰上返還のいちばん大きな代償は、手元の現金が減ることです。奨学金に返したお金は、あとで必要になっても引き出せません。
問題になるのは、返した直後に急な出費が来た場合です。手元に現金が残っていないと、カードローンのように奨学金より高い利率の借入で払うことになります。そうなると、繰上返還で減らした利子より大きい利子を払うことになり、差し引きで損をします。
- 返したあとに、生活費の何か月分が手元に残るか
- 近い将来に予定している大きな支出(住宅、結婚・出産、転職、自動車)の金額と時期
- 奨学金より利率の高い借入が他にないか
- 収入が途切れたときに、頼れる先があるか
3番目は特に効きます。奨学金より利率の高い借入があるなら、同じお金でそちらを先に返すほうが、減る利子は大きくなります。カードローンやリボ払いの利率は、第二種の利率より高いことがほとんどです。返す順番を変えるだけで結果が変わるので、借入が複数あるなら全部を並べてから決めてください。
この4つを確かめてから金額を決めると、返しすぎを避けられます。全額を返すか返さないかの二択ではなく、生活費を確保したうえで回せる額はいくらかという形で考えるほうが、現実的な答えになります。
自分の残額と手元の現金で、返してよい額を試算すると、減る利子と返還後に残る現金を並べて確認できます。
返還支援を受けているなら、先に条件を確かめる
勤務先が機構へ直接返還する代理返還の制度があります。自治体が返還を支援している場合もあります。こうした支援を受けている人は、繰上返還の前に支援の条件を確認する必要があります。
繰上返還で完済してしまうと、そのあと受けられたはずの支援が無くなることがあるためです。自己負担の額だけで損得を計算すると、支援として受け取れたはずの額が抜け落ちます。支援の金額、支援が続く期限、完済したときの取扱いの3つを、勤務先か自治体に確かめてください。
「特に優れた業績による返還免除」を申請している場合、機構は認定結果が判明する前に繰上返還をしないよう案内しています。免除されるはずだった額を先に返してしまう形になりかねません。
支援を受けながら繰上返還する場合でも、支援の対象になっている部分と自分で返す部分を分けて考えられることがあります。制度の設計は勤務先や自治体によって違うので、ここで一般化はできません。問い合わせるときは「繰上返還して完済した場合、残りの支援はどうなるか」と具体的に聞くと答えが得られます。
機関保証を選んでいる場合は、逆に戻ってくる可能性があります。機構は、繰上返還により返還期間を短縮して返還が完了した際に、保証料の一部を返還する場合があるとしています。返戻される保証料は保証機関から振り込まれます。金額は事前に確定できないため、繰上返還の効果を見積もるときには入れず、戻ってきたら別に数えるのが安全です。
繰上返還で減るのは利子だけで、返した元金は得ではありません。手元の現金と、受けている返還支援の条件。この2つを確かめてから金額を決めます。
