平均は「あなたの額」ではない
老後の生活費を調べると、月◯◯万円という数字がすぐ出てきます。 そのほとんどは、総務省統計局の家計調査から来ています。 高齢世帯の1か月あたりの消費支出の平均で、毎年公表されている公的な統計です。
数字そのものは確かなものです。問題は使い方のほうにあります。 平均はいろいろな人をならしたもので、持ち家の人と賃貸の人、 都市部の人と地方の人、健康な人と医療費のかかる人が、 全部ひとまとめになっています。 自分がそのどこに位置するかは、平均の数字からは分かりません。
それでも平均を見る意味はあります。老後の試算は生活費から始まりますが、 多くの人は自分の老後の生活費を知りません。 いまの支出は分かっても、働かなくなったあとにどう変わるかは分からない。空欄で止まってしまうくらいなら、公表値から始めて書き換えるほうがいい。 平均は出発点としては使えます。答えとしては使えません。
もうひとつ知っておきたいのが、この統計が何を数えているかです。 家計調査の消費支出には、税金と社会保険料が入っていません。 これらは非消費支出として別に集計されています。 年金からも所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料が引かれるので、 手取りで考えるときは、収入の側からこれらを引いておく必要があります。 支出の側に足すのではなく、収入の側から引くのが筋です。
住宅ローンの返済も消費支出には入りません。借入の返済はお金の貸し借りであって、 消費ではないという扱いだからです。老後もローンが残っているなら、 統計の額に返済額をそのまま足してください。ここを忘れると、いちばん大きい支出が丸ごと抜け落ちます。
年齢が上がるほど、消費は減る
この統計でいちばん見落とされているのが、年齢によって金額が大きく変わることです。 「老後は月◯◯万円」という1つの数字だけが引かれるので、 老後の30年をずっと同じ額で過ごすように読めてしまいます。
二人以上の世帯で見ると、世帯主が60代前半のときは月34万円ほどですが、 85歳以上では月23.7万円ほどまで下がります。差は月10万円を超えます。 30年ぶんにすれば、どの額を使うかで数千万円の違いになります。
減る理由は想像がつきます。旅行や外食が減り、 車を手放し、服を買う機会も減ります。 統計の内訳を見ると、実際に交通・通信費は60代前半の月5.7万円から 85歳以上では2.0万円まで下がっています。
住居費だけは、平均を使えない
家計調査の消費支出には住居費が含まれていますが、この項目だけはそのまま自分に当てはめられません。 平均では月1.7万円ほどにしかならないからです。
理由は母数にあります。高齢世帯は持ち家の割合が高く、家賃を払っていない世帯が平均に入っているためです。 住宅ローンの返済も消費支出には入りません(借入の返済は消費ではないという扱いです)。 その結果、統計上の住居費は修繕費や共益費が中心の小さな額になります。
賃貸で老後を過ごす予定なら、この平均は使えません。住居費を除いた額に、自分が払う家賃を足すのが正しい組み立てです。 持ち家でも、固定資産税・修繕費・管理費・修繕積立金はかかり続けます。 こちらも平均には十分に反映されていないので、別に足してください。
単身世帯は、二人以上の半分にはならない
一人暮らしなら生活費も半分、とはなりません。 65歳以上の単身世帯の消費支出は月15.6万円ほどで、 二人以上の世帯の27.6万円に対しておよそ56%です。
人数が減っても同じだけかかるものがあるからです。 住居費、光熱・水道、通信費は、一人でも二人でも大きくは変わりません。 食費のように人数に比例するものと、そうでないものが混ざっています。
- 食料は人数に応じて減る(二人以上の8.5万円に対して単身は4.4万円)
- 住居・光熱・通信は人数ほどには減らない
- 結果として、一人あたりで見ると単身世帯のほうが割高になる
この比率は、世帯の人数が変わる場面で効いてきます。 子が独立して夫婦二人になるとき、配偶者と死別して一人になるとき。 人数が半分になっても支出は半分にならないので、 「一人あたりの生活費」で考えると必ず足りなくなります。 世帯の単位でそれぞれの額を持っておくほうが確かです。
配偶者と死別したあとの生活費を考えるときに、ここが効きます。 二人ぶんの生活費が半分になるわけではないのに、 年金は一人ぶんに近づきます。支出の減り方より、収入の減り方のほうが大きいことがあります。
地域別の数字は、この統計には無い
「東京だといくら、地方だといくら」を知りたくなりますが、 家計調査で年齢階級まで分かれているのは全国の値だけです。 地域別の数字は都道府県庁所在市の単位で公表されていますが、 そちらには年齢階級の内訳がありません。
つまり「65〜69歳・東京都」という表は、この統計には存在しません。 ToMiが地域別の生活費を出していないのはそのためです。 無い数字を推定で埋めると、統計の値と見分けがつかなくなります。
もっとも、地域差を気にしすぎる必要もありません。 住む場所によって大きく変わるのは家賃と、物価のうちの一部です。 食料や光熱費にも地域差はありますが、家賃ほどの開きはありません。 結局のところ、住まいの費用を自分の実額に置き換えれば、 残りの費目の地域差は誤差のうちに収まることが多い。
地域の差を見たいなら、差の大部分を占めるのは家賃と物価です。 住居費を除いた額を全国平均から取り、 自分が住む場所の住居費を足すほうが、推定よりも確かです。
自分の額を決める順番
ここまでを踏まえると、順番は次のようになります。
- 年齢と世帯(二人以上か単身か)で、統計の額を引く
- 住居費を除いた額を取る
- 自分の住まいにかかる額を足す(家賃、または税と修繕費)
- 介護や医療に上乗せする額を決める
- いまの支出と見比べて、違和感があれば調整する
1つめで年齢を選ぶとき、迷うのは「いま何歳か」なのか 「取り崩しを始める年齢」なのかという点です。使うのは後者です。 60歳で辞めて取り崩しを始めるなら60代前半の額、 65歳まで働いてから始めるなら60代後半の額を出発点にします。 いま50代でも、老後の生活費として使うのは老後の年齢の額です。
4つめの上乗せ額は、置き方がむずかしいところです。 介護がどれだけ必要になるかは誰にも分かりませんし、 分からないものに大きな額を置くと、今度は必要以上に厳しい計算になります。 先に公的な制度の上限を確かめてから、そのうえでいくら上乗せするかを決めてください。 医療は高額療養費、介護は高額介護サービス費で、 1か月あたりの自己負担に区分ごとの上限が決まっています。
5つめが意外と大事です。統計は他人の平均なので、 自分のいまの支出と桁が違えば、どこかで前提を取り違えています。 働かなくなると減るもの(通勤費・昼食代・仕事着)と、 増えるもの(在宅時間が延びるぶんの光熱費)を思い出しながら見てください。
額が決まったら、年金などの収入と比べて毎月いくら足りないか、 その不足を資産から取り崩すと何歳まで持つかまで出せます。老後、毎月いくら足りない?資産は何歳まで持つ?では、ここで書いた統計の額を初期値として置けるようにしています。 置くだけなので、自分の額に書き換えてください。
