20年後も同じ暮らしをしていたい。 そう思って必要な額を計算するとき、いまの物価で計算すると足りなくなります。 同じ暮らしをするのに要る額が、増えているからです。
長いあいだ物価がほとんど動かなかったので、 前提として置く習慣そのものが無い人が多いところです。 ですが見通しは20年30年を扱うので、 動かない前提のほうがむしろ特殊な置き方になります。
同じ生活でも、必要な額は増える
物価が上がるというのは、同じものを買うのに要るお金が増えることです。 生活の中身を変えていなくても、出ていく額は増えます。
見通しを作るときに、いまの生活費をそのまま将来へ伸ばすと、 この増え方が抜けます。支出の線が実際より低いまま引かれるので、 いつまでも足りているように見えてしまいます。
収入と支出の差を見る計算では、支出の側が低く出ると差が小さく見えます。 必要な額も小さく出る。見通しとしては、いちばん都合のよいほうに外れます。
効き方が項目によって違うのも、扱いを難しくします。 食費や光熱費のように、物価の動きがそのまま出るものがあります。 一方で、住宅ローンの返済額のように、固定金利なら動かないものもあります。 全部を同じ率で伸ばすと、実際とはずれた形になります。
遠い年ほど差が開く
物価の上昇は、毎年その上に積み上がっていきます。 1年目の差はわずかでも、20年30年と続くと大きくなります。
積み上がるというのが要点です。毎年同じ額が足されるのではなく、 前の年に上がったあとの額に、また同じ割合がかかります。 利息が利息を生むのと同じ形なので、後半になるほど増え方が速くなります。前半を見て「たいしたことない」と判断すると、後半で外れます。
だから、近い年の見通しにはほとんど効きません。 来年の生活費が数%変わっても、判断は変わらないでしょう。効いてくるのは、退職後の長い期間のほうです。 65歳から95歳までの30年は、そのまま30年分積み上がります。
しかも退職後は、収入の側が動きにくくなります。 働いているあいだは昇給や転職で収入が増えることがありますが、 年金は自分の努力では増やせません。支出だけが増えて、収入が追いつかない期間になりやすいところです。
上がるのは支出だけではない
支出だけを増やして計算すると、今度は悲観に寄りすぎます。 働いているあいだは、収入の側も動くからです。
| 項目 | 物価が上がったとき |
|---|---|
| 生活費 | 上がる |
| 給与 | 上がることが多い(保証はない) |
| 年金 | 調整の仕組みがある(同じだけとは限らない) |
| ローンの返済額 | 固定金利なら変わらない |
| 預金の額面 | 変わらない |
注目してほしいのが、下の2行です。固定金利のローンは、物価が上がっても返済額が変わりません。収入が上がっていけば、返済の重さは相対的に軽くなります。 一方、預金は額面が変わらないので、買えるものが減ります。
借りている側から見ると、物価が上がることは有利に働きます。 返す額は同じままで、その額の重さが軽くなるからです。 住宅ローンを固定金利で借りている人は、 物価が上がる世界ではその契約の価値が上がっている、とも言えます。
年金は物価と同じだけは上がらない
年金には、物価や賃金の動きに応じて額を改定する仕組みがあります。 だから「年金も上がるから大丈夫」と言われることがあります。 預金と違って、受け取る額そのものが動く点は確かに強みです。
ただし、そのまま同じだけ上がるとは限りません。 給付と負担の均衡を保つために、上げ幅を抑える調整の仕組みが別に入っているためです。 物価が上がった年に、年金がそれより小さく上がる、ということが起こります。
これは制度の欠陥ではなく、設計としてそうなっています。 働く人が減っていく中で給付を維持するために、 上げ幅を抑えて全体の均衡を取る仕組みが入っているためです。 仕組みとして知ったうえで、前提に反映しておく必要があります。
受け取る額そのものより、実際に使える額で見てください。 年金からは介護保険料や健康保険料が引かれ、額によっては税金もかかります。額面が上がっても、手取りが同じだけ上がるとは限りません。見通しに入れるのは、引かれたあとの額です。
預金は減らないが、買えるものは減る
預金は元本が保証されているので、額が減ることはありません。 その意味では安全です。ですが価値が減らないこととは別です。
物価が上がっているあいだ、預金の金利がそれを下回っていれば、 同じ100万円で買えるものは年々少なくなります。 額は変わらないのに、実質的には目減りしている状態です。
預金の金利も、物価が上がれば上がることがあります。 ただし、上がり方が物価に追いつくとは限りません。 追いついているかどうかは、金利から物価の上昇率を引いて見ます。 引いた結果がマイナスなら、預けているあいだ価値は減っています。
何%で置けばよいか
1つの正解はありません。 将来の物価は誰にも分からないので、当てにいく話ではないからです。
置き方の考え方
日本銀行が目標としている水準を基準に置き、 そこから上下に振って確かめるのが実務的です。 0%で引いた線、目標どおりで引いた線、それを上回った線。3本並べて、いちばん悪い線でも成り立つかを見ます。
実際の物価がどう動いてきたかは、総務省が消費者物価指数として公表しています。 過去にどのくらいの幅で動いてきたかを見ておくと、 前提として置く値が現実離れしていないかを確かめられます。 ただし、過去がそのまま続く保証はありません。
同じ物価でも、自分の家計に効く度合いは人によって違います。 食費や光熱費の割合が高い家計ほど、物価の影響を強く受けます。 固定金利の住宅ローンが支出の多くを占めているなら、影響は小さくなります。 公表されている数字は全体の平均なので、自分の家計にそのまま当てはまるとは限りません。
このとき、支出だけでなく収入の側も同時に動かしてください。 支出だけ上げると、実際より厳しい絵になります。 物価が上がる世界では、給与も上がっている可能性が高いためです。
置いた前提は、書き残しておいてください。 1年後に見直すとき、どういう置き方だったかを覚えていないと、 前と比べられません。数字だけでなく、なぜその値にしたのかも一緒に。見直すために作るものなので、前と比べられることが要ります。
自分の見通しで確かめる
物価の前提は、1つ変えるだけで線の形が変わります。 手で計算し直すのは大変ですが、画面の上なら何度でも試せます。
ToMiでは物価上昇率を前提に入れて見通しを引き直すことができます。 昇給率と運用の利回りも一緒に置けるので、 物価だけが上がる場合と、収入も上がる場合を並べて比べられます。
比べてみると、多くの場合いちばん効くのは物価だと分かります。 運用の利回りは投資に回している分にしかかかりませんが、 物価は支出の全部にかかるためです。利回りを動かすより、物価を動かすほうが線が大きく変わります。
登録は要りません。入力したデータはブラウザの中だけに残ります。 前提の置き方そのものはライフプラン表とは?で扱っています。
