資産寿命とは、資産が尽きる年齢
資産寿命は、持っている金融資産が尽きる年齢のことです。 老後は年金などの収入だけでは生活費に届かないことが多く、 その差を資産から取り崩して埋めます。 取り崩しを続けていくと、いつか残高が0になります。その年齢を指します。
決める材料は3つだけです。取り崩しを始める時点の資産、毎月の生活費、 年金などの毎月の収入。生活費から収入を引いた差が毎月の不足額で、 資産をその不足額で割れば、おおまかな年数が出ます。
「使える資産」と書いたのには理由があります。持っている金融資産を 全部取り崩す前提にしない人が多いからです。葬儀の費用を残したい、 家族に少し残したい、という額があるなら、それは取り崩しから外します。 資産寿命はその残したい額まで減った時点の年齢になり、 全額を使い切る前提より短く出ます。「0円になる年齢」だけが資産寿命ではありません。
資産の中身も効きます。ここでいう資産は、生活費に回せるお金です。 自宅の評価額は資産ではありますが、住んでいる限り生活費には使えません。 売って住み替える予定があるなら別ですが、そうでなければ 資産寿命の計算からは外しておくほうが実態に近くなります。
人の寿命の話ではない
名前に「寿命」と付くので取り違えられますが、人が何歳まで生きるかとはまったく関係がありません。 「資産寿命は89歳です」は、89歳まで生きる想定という意味でも、 89歳まで安心という意味でもありません。
言葉としては「資産の寿命」で、主語は資産です。 人の寿命を当てにいく数字ではないので、 長生きしたら足りない、という読み方もできません。 できるのは、決めた年齢に届いているかどうかの確認だけです。 そこが分かれば、届かせるために何を動かすかの話に進めます。
むしろ逆の使い方をします。自分が何歳まで生きるかは誰にも分かりませんが、何歳まで持たせたいかは決められます。 その年齢に資産寿命が届いているかを見るのが、この数字の使い道です。 届いていなければ、資産・生活費・収入のどれかを動かす話になります。
何で決まるか。毎月の不足額と年数
資産寿命をいちばん大きく動かすのは、資産の額ではなく毎月の不足額です。不足額は割り算の分母にあたるので、 ここが小さいほど年数は大きく伸びます。
たとえば資産2,000万円で毎月の不足が5万円なら、 単純な割り算で400か月=33年4か月です。65歳から始めれば98歳まで。 ところが不足が月8万円になると250か月=20年10か月で、85歳まで縮みます。 月3万円の差が、13年以上の違いになります。
- 資産が1割増えると、年数はおおよそ1割伸びる
- 不足額が1割増えると、年数はおおよそ1割縮む
- 額が小さいぶん、不足額のほうが手を入れやすい
取り崩しを始める年齢そのものも、大きく効きます。 65歳で辞める予定を67歳にすると、2年ぶん取り崩さずに済むうえ、 そのあいだの収入も入り、さらに年金の受け取りを遅らせれば年金額も増えます。 1つの選択が3方向に効くので、資産を数百万円積むのと同じくらい動くことがあります。
だから改善を考えるときも、資産を増やす話より先に 毎月の収支のほうを見ます。年金の受け取り開始を遅らせれば不足額そのものが減り、 働く期間を延ばせば取り崩しの開始を後ろにずらせます。 どちらも資産を増やすのと同じ向きに効きます。
物価と年金を、同じ率で動かさない
ここが、この計算でいちばん誤りやすいところです。 老後の30年を計算するなら物価上昇を入れるべきですが、生活費と年金を同じ率で増やしてはいけません。
生活費も年金も同じ率で上がる前提にすると、毎月の不足額は 名目では増えても実質ではずっと同じままになります。 その結果、物価を何%に置いても資産寿命がほとんど動かない、 という不思議な計算になります。
実際には、年金にはマクロ経済スライドという仕組みがあり、 物価や賃金が上がってもそれより抑えて改定されます。 つまり年金は物価より遅れて上がります。 生活費だけが上がり年金が据え置きなら、不足額は年々広がっていきます。
前提を1つ変えると、何年も動く
資産寿命は、置いた前提しだいで大きく動きます。 同じ条件(65歳・資産2,000万円・生活費25万円・年金20万円)でも、 物価の前提を変えるだけでこれだけ変わります。
- 物価0%なら98歳4か月
- 物価1%なら86歳7か月
- 物価2%なら82歳6か月
- 物価3%なら80歳2か月
こうして並べると、物価を0%に置いた計算がどれだけ甘いかが分かります。 30年を見通す計算で物価を入れないのは、生活費が30年後も今と同じ額で済むという前提を置くのと同じです。 日本でも物価は上がっており、老後の計算でそこを外す理由はありません。 迷うなら、複数の率で出して、どれでも届くかを見るのが確かです。
0%と3%で18年の違いです。生活費を月1万円変えても、 年金の見込額を月2万円取り違えても、同じくらい動きます。1つの前提のずれが、何年もの差になるのがこの計算の性質です。
前提の自信のなさには順番があります。物価の見通しは誰にも分かりませんが、 年金の見込額は調べれば分かります。生活費も、 いまの支出を出発点にすれば当てずっぽうよりはずっと近づきます。調べれば分かるものを先に埋めて、分からないものだけを振る。 そうすれば、動いた幅がそのまま「どうしても残る不確かさ」になります。
だから資産寿命は、当てにいく数字ではありません。 前提を動かして何がいちばん結果を左右するかを見るための道具です。 自分がいちばん自信のない前提から動かしてみて、 それでも目標の年齢に届くかを確かめる。そういう使い方をします。
1つの数字として使わない
資産寿命が89歳と出たとき、やってはいけないのは その1つの数字を結論として持ち帰ることです。 前提を1つ変えれば80歳にも98歳にもなる数字なので、 そのまま「89歳までは大丈夫」と読むと判断を誤ります。
代わりに、次の3つを持ち帰ってください。
- 毎月いくら足りないか(いまの額で)
- 目標の年齢に届いているかどうか
- 届いていないなら、資産・生活費・収入をそれぞれいくら動かせば届くか
1つめと2つめは、いまの状態を知るためのものです。 2つめで届いていれば、それ以上ためなくてよいという意味ではなく、 いまの前提のもとでは足りている、というだけの話になります。 物価の前提を1つ上げてもまだ届くかどうかで、余裕の大きさが測れます。
3つめが行動につながる部分です。 同じ不足を「資産をいくら増やす」「生活費をいくら減らす」「収入をいくら増やす」 の3通りで言い換えられるので、自分にとって現実的なものを選べます。
老後、毎月いくら足りない?資産は何歳まで持つ?では、この3つをまとめて出します。物価の前提を0〜3%で振ったときに 資産寿命が何年動くかも並べているので、 自分の数字がどれくらい当てにならないかも合わせて見られます。
もう一つ、この数字は一度出して終わりにするものではありません。 年金の見込額も生活費も、これから何度も変わります。 物価の見通しも、そのときどきで変わります。 数年に一度、そのときの数字で出し直して、目標の年齢に届いているかだけを確かめる。 そういう付き合い方が、この数字には合っています。
