足りないと分かったら、まず前提を疑う
老後資金の試算をして「足りない」と出たとき、すぐに どう増やすかを考えたくなります。けれど順番としては、その計算が正しく立っているかを先に確かめるほうが早いことが多い。
この計算は入力が少ないぶん、1つのずれが結果を大きく動かします。 年金の見込額を月2万円取り違えていれば、30年で700万円以上の差になります。 足りない額が400万円なら、その誤差だけでひっくり返ります。
前提を疑うのは、楽をするためではありません。 前提が正しくないまま対策を決めると、 必要のない我慢をするか、必要な手当てを打たないかのどちらかになります。 足りないと出たのに実は足りていた人が生活費を切り詰めるのも、 足りていると出たのに実は足りていなかった人が何もしないのも、同じ一つの誤りから起きます。
1. 年金の見込額を確かめる
いちばん影響が大きいのに、いちばん当てずっぽうで入れられているのが年金です。 「だいたい月15万円くらい」と思っていても、実際には数万円違うことがあります。
見込額はねんきん定期便かねんきんネットで確かめられます。 50歳以上の人の定期便には、このまま働き続けた場合の 65歳からの見込額が年額で出ています。それを12で割った額が出発点です。
配偶者がいるなら、その人の年金も忘れずに足してください。 世帯としての収入で計算するので、片方だけでは足りない額が大きく出ます。 逆に、どちらかが先に亡くなったあとは世帯の年金が減ります。 遺族年金が出る場合もありますが、金額も条件も別の仕組みなので、 そこまで織り込むなら年金事務所で確かめるのが確実です。
50歳未満の定期便には、これまでの加入実績に応じた額しか出ていません。 これから納める分が入っていないので、そのまま使うと少なく出ます。 ねんきんネットなら、働き方の条件を入れた見込みを出せます。
2. 生活費に何が入っていないかを見る
生活費のほうも、多く見積もっていることより入れ忘れていることのほうが多い。 毎月の額だけで計算していると、次のものが落ちます。
- 介護や医療が増えたぶん(後半になるほど増える)
- 住宅の修繕(外壁と屋根で1回100〜200万円規模)
- 車の買い替え(1回で100〜300万円)
- 家電の更新、冠婚葬祭、子や孫への支援
どれも毎月の支出ではないので、月額で考えているうちは出てきません。 けれど金額は大きい。300万円は、毎月の生活費を25年にわたって1万円削るのと同じ重さです。 月額で考えていると同じ重さに見えないだけで、資産寿命への効き方は変わりません。
時期については、思っているほど単純ではありません。 「早く出ていくほど痛い」と言われますが、それは資産を運用している場合の話です。運用しないなら、 遅い時期の支出のほうが痛いことすらあります。 そのころには物価で金額そのものが膨らんでいるからです。 気にするべきなのは、まず金額のほうです。
入れ忘れを防ぐいちばん簡単な方法は、 いまから老後までのあいだに起きることを、年ごとに書き出してみることです。 車を何年ごとに買い替えているか、家の修繕を前回いつしたか。 過去の実績があるものは、次がいつ来るかも見当がつきます。 思い出せないものは、そのくらいの頻度でしか起きないということでもあります。
逆に、減るものもあります。働かなくなれば通勤費と昼食代と仕事着が減り、 子が独立すれば教育費と食費が減ります。住宅ローンが終われば返済も消えます。 いまの支出をそのまま老後の生活費にすると、今度は多く見積もることになります。
3. 住まいをどうするかを決める
老後の生活費で金額がいちばん大きく、人によっていちばん違うのが住居費です。 賃貸なら家賃が生涯続き、しかも物価とともに上がります。 持ち家でローンが終わっていれば、住居費は固定資産税と修繕費だけになります。
統計の平均を使うときは特に注意が要ります。 家計調査の住居費は月1.7万円ほどしかありませんが、これは家賃を払っていない持ち家の世帯が母数に入っているためです。 賃貸の人がこの平均を使うと、数万円ぶん少なく見積もります。
持ち家なら住居費は小さくなりますが、0にはなりません。 固定資産税・都市計画税は毎年かかり、マンションなら管理費と修繕積立金が続きます。 修繕積立金は築年数とともに上がるのが普通で、いまの額のまま続く前提にはできません。
動かせる場所は3つある
前提を確かめてもなお足りないなら、ここから先が対策の話です。 動かせる場所は3つしかありません。
大事なのは、この3つが同じものさしで測れることです。 「95歳まで持たせるには、資産を◯◯万円増やすか、生活費を月◯◯円減らすか、 収入を月◯◯円増やすか」という形に並べれば、 どれが自分にとって現実的かを金額で比べられます。
並べてみると、生活費を減らすほうが、同じ額の収入を増やすより効きます。 生活費は物価で毎年増えていくので、元の額を下げると その先の増えていく額もまとめて下がるからです。 一方で年金などの収入は物価ほどには増えないので、 足した額はそのままの価値では残りません。
効く順番と、手を出さないほうがいいもの
手を付ける順番としては、次のようになります。
- 働く期間を延ばす(収入が増え、取り崩しの開始も後ろにずれる。二重に効く)
- 年金の受け取り開始を遅らせる(増えた額が生涯続く)
- 固定費を見直す(一度直せば毎月続く)
- 資産を増やす(時間がかかるが、額は大きく動く)
順番に意味があります。上にあるものほど、 決めてから効き始めるまでが短く、しかも効果が生涯続きます。 働く期間を延ばすのも年金を繰り下げるのも、 決めたその年から先の収支がまるごと変わります。 資産を増やす話は額としてはいちばん大きく動きますが、 積むのに時間がかかるぶん、老後が近い人ほど間に合いません。
1つめがいちばん効きます。65歳で辞める予定を67歳にするだけで、 2年ぶん取り崩さずに済み、そのあいだの収入も入ります。 資産寿命でいえば、資産を数百万円増やしたのと同じくらい動くことがあります。
もう一つ、足りないと分かったあとに増えるのが 「増やします」と近づいてくる相手です。老後資金が足りないという不安は、 そこに付け込みやすい状態でもあります。 利回りの高さだけで選ばず、途中で換金できるか、 手数料がいくらかかるか、元本が減る可能性がどれだけあるかを、 同じ紙の上で比べてください。
取り崩しながらの運用については辞めた直後の下落が、いちばん効く理由を先に読んでください。
自分の場合にどれをどれだけ動かせば届くかは、老後、毎月いくら足りない?資産は何歳まで持つ?で出せます。3つの道をそれぞれ金額で並べたうえで、 5問に答えるとその資産寿命をそのまま信じてよい条件かどうかまで出します。
