2%は、毎年同じ額が減るのではない
年2%のインフレが10年続いたとき、100万円で買えるものは何%減るか。 2×10で20%、と考えたくなりますが、実際は約18%です。
物価は前の年の水準に対して上がるので、掛け算で積み上がります。 買えるものは、その逆数で減っていきます。
100万円 ÷ 1.02の10乗 で、約82万円です。減ったのは18万円分。 引き算で考えた20万円分より、2万円ぶん少なく済んでいます。
短いうちは、この差はほとんど意識しなくて構いません。 5年なら引き算で10%、実際は9.5%。誤差の範囲です。 離れてくるのは20年30年になってからです。
5年・10年・20年・30年でどうなるか
年2%が続いたと仮定して、100万円で買えるものがどう変わるかを並べます。 比較のために、年1%と年3%も置きます。
| 年1% | 年2% | 年3% | |
|---|---|---|---|
| 5年後 | 95.1万円 | 90.6万円 | 86.3万円 |
| 10年後 | 90.5万円 | 82.0万円 | 74.4万円 |
| 20年後 | 82.0万円 | 67.3万円 | 55.4万円 |
| 30年後 | 74.2万円 | 55.2万円 | 41.2万円 |
この表から読み取ってほしいのは、1つの率を当てることに意味がないということです。 30年先の物価上昇率を当てられる人はいません。 並べて幅を見て、どの率でも同じ結論になるかを確かめるほうが役に立ちます。
もうひとつの読み方として、買えるものが半分になるまでの年数を見る方法があります。 年1%ならおよそ70年、年2%ならおよそ35年、年3%ならおよそ23年です。 年数×率がだいたい70になる、と覚えておくと見当がつきます。
年2%で35年というのは、いま30歳の人が65歳になるころ、 という長さです。老後資金のように何十年も先まで持つお金では、 この長さが現実の期間に入ってきます。 一方で、3年後に使うお金にとっては関係のない話です。
もうひとつ、期間のほうが率より効くことも見えます。 年2%で10年なら18%減ですが、同じ2%でも30年なら45%減です。 率を1%動かすより、期間を10年動かすほうが結果は大きく変わります。
金額が変われば、割合は変わらない
100万円の表ですが、金額が変わっても減る割合は同じです。 1,000万円なら10倍、3,000万円なら30倍して読めます。 年2%で10年なら、1,000万円は820万円相当、3,000万円は2,461万円相当です。
自分の金額でそのまま見たいときは、 インフレ実質価値計算機 が早いです。金額・年数・率を動かすと、その場で変わります。
2%は目標であって、予測ではない
そもそも、なぜ「2%」がよく出てくるのか。 日本銀行が消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標として掲げているからです。
目標は「そこを目指す」という方針であって、 「そうなる」という見通しではありません。 達成の時期も約束されていません。2%で計算した結果を「10年後の予測」として読まないのが、 この数字を扱ううえでいちばん大事なところです。
実際の物価上昇率は毎年変わります。 日本では長く0%付近が続いた時期があり、 それより高い時期も、マイナスの時期もありました。 直近の実績は 消費者物価指数のページ で見られますが、これも実績であって見通しではありません。
ではどう置くか。実務的には、低め・中くらい・高めの3本を並べるのが扱いやすい方法です。 どの率でも結論が同じなら、率の議論は不要になります。 率によって結論が変わるなら、そこが判断の分かれ目だと分かります。
預金の金利と一緒に見る
ここまでは金利0%として計算しています。 実際には預金にも利息がつくので、目減りはこれより小さくなります。
効くのは金利と物価の差です。 金利が0.2%で物価が2%なら、差は1.8%ほど。 金利が3%で物価が2%なら、買えるものは増えます。 この関係を年率で表したものを実質金利といいます。
注意したいのは、利息には税金がかかることです。 表示金利のまま差を取ると、実際より有利な数字になります。 税引後の金利で比べてください。詳しくは預金利息にかかる税金にあります。
よくある3つの誤解
1. 「給料も上がるから大丈夫」
物価が上がる局面では、賃金も上がる傾向があります。 ただし同じだけ上がるとは限りません。 上がる時期にもずれがあり、物価が先に動いて賃金が後から追う形になりがちです。
もうひとつ、これは働いているあいだの話です。 退職後は賃金がありません。いま持っている資産の目減りは、給料では埋まりません。 老後の資金を考えるときに、この違いが効いてきます。
2. 「年金も上がるから大丈夫」
公的年金には、物価や賃金に応じて改定する仕組みがあります。 ただし、財政の調整により物価の上昇より抑えられることがあります。 上がる前提で置くのは構いませんが、 物価と同じだけ上がると置くのは楽観に寄ります。
見通しを立てるときは、年金が物価に追いつかない場合も試してみてください。 追いついても成り立ち、追いつかなくても成り立つなら、 そこは判断の分かれ目ではないと分かります。
3. 「預金が減るなら、全部投資に回すべき」
これがいちばん危ない読み替えです。 目減りの計算はいくら減るかを示すだけで、 何に移すべきかも、いつ移すべきかも示しません。
生活防衛資金や近く使うお金まで動かすと、 必要なときに必要な額がない状態になります。 目減りより、そちらのほうが大きな問題です。余裕資金の範囲を先に決めてから、 その範囲の中で考える順番になります。
いくら減るかより、いつ使うか
ここまで減る額を計算してきましたが、その額だけでは何をすべきかは決まりません。 決めるのは、そのお金をいつ使うかです。
- 1年以内に使う:物価より、使う日に必要な額があることが優先。動かさないのが正解
- 生活費が含まれている:目減りを承知で現金のまま持つお金。先に残す額を決める
- 10年以上使わない:置きっぱなしにする理由が薄い。置き場所を考える意味がある
同じ1,000万円でも、来年使うお金と30年使わないお金では答えが逆になります。 目減りの金額は用途に関係なく同じですが、 それに対して何をすべきかは用途で変わります。
そして、目減りを避けるために動かすことにも代償があります。 物価に追いつく可能性のある資産は値段が動くものが中心で、下がる年を引き受けるということでもあります。 動かないものを選べば目減りを受け入れ、動くものを選べば下落を受け入れる。 どちらもリスクを取らない選択ではありません。
自分の預金がどちらなのかは、 預金の価値、インフレで何年後にどれだけ減る? で確かめられます。金額と年数を入れると目減りが出て、 そのあと3問で、いつ使うお金かによって次にやることが変わります。
生活費が混ざっているかどうかがはっきりしないなら、先に 預金、いくら残しておけば安心? で残す額を決めてください。分けたあとの残りが、 置き場所を考える対象になります。

