余裕資金とは
なくなっても暮らしが変わらないお金のことです。 投資に回すか、繰上げ返済に使うか、預金のまま置いておくか。 その選択をしてよい範囲を指します。
預金残高とは別のものです。500万円の預金がある人が、 500万円を投資に回してよいということにはなりません。 その中には、収入が止まったときのために残しておくべき分と、 もう使い道の決まっている分が混ざっています。
3つを引いて出す
預金・現金の合計
普通預金・定期預金と、手元にある現金を足した額です。必要になったその日に使えるお金だけを数えます。 株式や投資信託は含めません。売却して現金にするまでに日数がかかりますし、 そのときの価格で決まるため、いくらになるかが事前に分かりません。
生活防衛資金
月の必須支出に、残す月数をかけたものです。 何か月分が適切かは働き方や家族構成で変わり、万人共通の答えはありません。 考え方は 生活防衛資金とは にまとめています。
近い将来の確定支出
1年以内に使うと決まっているお金です。 住宅の頭金、車の購入、入学金、リフォーム、車検、まとまった税金。時期と金額がおおよそ決まっているものが対象になります。
反対に、対象にしないのは「いつか使うかもしれない」というものです。 いつか車を買い替える、いつかリフォームする。 これらは金額も時期も決まっていないので、引きようがありません。 こうした先の予定は、確定支出としてではなく、生活防衛資金を厚めに見る理由として扱うほうが計算が安定します。
確定支出を全額引く理由
「70%の確率で使うから、3割は投資に回してもよいのでは」という考え方があります。 ToMiの診断では、この割り引きをしません。全額を引きます。
投資に回したお金が、支払いの時期にちょうど値上がりしている保証はありません。 むしろ、値下がりしている時期に使わざるを得なくなると、 損を確定させたうえで支払いに充てることになります。期間が短いほど、この確率は高くなります。 1年では、値動きが平均に戻るだけの時間がありません。
もうひとつ、確度で割り引くと判断が主観に寄るという問題があります。 「たぶん使う」「まだ分からない」の線引きは、そのときの気分で動きます。 投資に回したい気持ちが強いときほど確率を低く見積もることになり、 いちばん慎重であるべき場面で、いちばん甘い数字を使うことになります。 全額を引くと決めておけば、この揺れが入りません。
金額が固まっていない予定については、多めに入れるのではなく、固まってから計算し直すほうが実用的です。 住宅の頭金が「300万円か500万円か決めかねている」なら、 決まってから入れ直せば、余裕資金もその場で変わります。
同じ預金でも、余裕資金は変わる
預金500万円の3人を並べます。違うのは、必須支出と1年以内の予定だけです。
| Aさん | Bさん | Cさん | |
|---|---|---|---|
| 預金・現金の合計 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
| 月の必須支出 | 15万円 | 25万円 | 25万円 |
| 残す月数 | 3か月分 | 6か月分 | 6か月分 |
| 生活防衛資金 | 45万円 | 150万円 | 150万円 |
| 1年以内の確定支出 | 0円 | 0円 | 300万円 |
| 本当の余裕資金 | 455万円 | 350万円 | 50万円 |
Cさんは1年以内に住宅の頭金300万円を支払う予定がある想定です。
同じ500万円でも、動かしてよい額は455万円から50万円まで開きます。 「預金が500万円ある人はいくら投資できるか」という問いに一般的な答えが出せないのは、このためです。
AさんとBさんの差は、預金の額ではなく暮らしの大きさから来ています。 必須支出が月15万円と25万円では、同じ月数を残すのに必要な額が違います。 収入が多い人ほど支出も大きくなりやすいので、 「預金が多いから余裕がある」とは限りません。ここは残高だけを見ていると見落とします。
Cさんは、頭金を支払ったあとに計算し直すと余裕資金が変わります。 支払いが済んだ時点で確定支出が0になり、 残った預金200万円から生活防衛資金150万円を引いた50万円が余裕資金になります。 金額そのものは変わりませんが、この50万円は使い道の決まっていないお金である点が違います。
上限であって、目標額ではない
余裕資金は「ここまでなら動かしてよい」という線です。ここまで動かすべき、という意味ではありません。
455万円の余裕資金がある人が、455万円すべてを投資に回す必要はありません。 半分の200万円だけを動かす、100万円を国債・100万円を投資信託と分ける、 いまは何もせず様子を見る。どれも成り立ちます。
上限を知っておく価値は、動かす額を決めるときより、動かさない判断をするときに出ます。 「まだ余裕があるから焦らなくていい」と分かっていれば、 値動きの大きい時期に無理に動かさずに済みます。
目標額として扱うと、逆の問題も起きます。 余裕資金が50万円しかない人が、「50万円しか投資できないのか」と受け取って 何もしなくなることがあります。上限はその時点の条件で決まった線であって、 能力や優劣を表すものではありません。確定支出を払い終えれば上限は動きますし、 必須支出を下げても動きます。
マイナスになったときは
引いた結果がマイナスになる場合、余裕資金は0円です。 マイナスの余裕資金という状態は存在しません。投資や繰上げ返済に回せるお金は、いまはないということになります。
このとき先にやることは、生活防衛資金を積むことです。 足りない状態で投資を始めると、収入が止まったときや急な出費のときに、 値下がりしている時期でも売って現金化することになります。投資で失敗する理由の多くは、商品選びではなく、この売らざるを得ない状況にあります。
借入がある場合は、順番が変わることがあります。 年率15%の借入を抱えたまま預金に積むと、支払う利息のほうが大きくなります。 ただし防衛資金がまったくない状態で全額を返済に回すと、 次の急な出費でまた借りることになります。 繰り上げ返済の診断 では、返済後に残る現金まで含めて確認できます。
いつ計算し直すか
余裕資金は固定の数字ではありません。次のときは計算し直してください。
- 引っ越したとき:家賃が変われば必須支出が変わり、生活防衛資金も変わります
- 家族が増えたとき:支出も、必要な月数も増える方向に動きます
- 働き方が変わったとき:会社員から自営業になれば、厚めに持つ理由が増えます
- 予定していた支出が終わったとき:確定支出が0になり、余裕資金が増えます
- 新しい支出の予定ができたとき:確定支出が増え、余裕資金が減ります
何もなくても、年に一度は見てください。 必須支出は気づかないうちに動きます。 サブスクが増えた、保険を見直した、光熱費が上がった。1年前の数字で計算した余裕資金は、いまの余裕資金ではありません。
ToMiの 生活防衛資金の診断 は、この計算を3・6・12か月分すべてで出します。 入力した内容は保存できるので、次に見直すときは金額の変わった項目だけを直せば済みます。
余裕資金という言葉は、投資の入口としてよく使われます。 ただ、この記事で扱ってきたのは投資の話ではなく、手元のお金を3つに分ける作業です。分けたあとに何を選ぶかは、そのあとの話になります。 分けないまま選び始めると、あとから順番を戻すことになります。

