結論から
分散という言葉は、ほとんどの場合「1つに集中しないこと」という意味で使われます。 ここまでは誰でも納得できます。問題は、何をもって分かれていると言うのか、 その数え方がほとんど説明されないことです。
口座の画面には商品の一覧が並びます。本数が増えると、分かれているように見えます。 ところが下がるときにいっしょに下がるかどうかを決めるのは、 並んでいる行の数ではなく、その先にあるものです。 この記事は、その数え方の話です。
商品の数では数えない
まず、いちばん多い誤解から片づけます。 「3本買ったから3つに分散した」という数え方は、成り立ちません。
たとえば、米国の代表的な株価指数に連動する投資信託を、 運用会社の違う3本に分けて持ったとします。 本数は3つですが、中身はほとんど同じ会社の株です。 株価が下がる日には、3本とも同じだけ下がります。 分かれているのは購入した窓口だけで、値動きは1つです。
同じことは、名前が違う商品どうしでも起こります。 米国株の投信と、全世界株式の投信と、先進国株の投信を並べて持つと、 三者三様に見えます。しかし全世界株式も先進国株も、 時価総額で重みを付けるつくりのものは中身の半分以上が米国の株です。3本のうち2本が、1本目とかなり重なっています。
ここで数えるべきなのは、次の問いへの答えです。
- 何が起きると、これは下がるのか
- そのとき、ほかに持っているもののうち、いくつが同じ理由で下がるのか
- そのいくつは、資産全体の何割にあたるのか
3つ目が大事です。数ではなく割合で見ます。 8つに分けていても、そのうちの1つに8割が入っていれば、 値動きのほとんどはその1つが決めます。
割合で見る癖をつけると、判断が変わります。 たとえば100万円ずつ5つの投資信託に入れている人と、 1つに400万円、残り4つに25万円ずつ入れている人は、 どちらも「5本に分散している」と言えます。 けれども後者は、資産の8割が1本の値動きで決まります。本数が同じでも、抱えている値動きはまったく別ものです。
数える軸は4つ
分散は1本の物差しでは測れません。 別々の軸があって、片方で分かれていても、もう片方では寄っていることがあります。 実務で見ておく価値があるのは、次の4つです。
| 軸 | 何を見るか | 寄りやすい例 |
|---|---|---|
| 資産の種類 | 株・債券・現金・不動産などの割合 | 全部が株 |
| 通貨 | 円建てと外貨建ての割合 | 気づかないうちに米ドルばかり |
| 地域 | どの国の経済に賭けているか | 全世界株式でも米国が大きい |
| 1つの銘柄・商品 | 最大のものが全体に占める割合 | 勤め先の株や持株会 |
資産の種類の軸を、株の中身の話と混ぜないでください。 株どうしをどれだけ丁寧に分けても、株式市場が下がる日には全部が下がります。 債券や現金が別の軸として挙がるのは、それらが株とは違う理由で値段が決まるからです。 金利が下がれば債券の値段は上がりますが、それは企業の業績とは別の理由です。 種類をまたぐことに意味があるのは、この「値段が決まる理由が違う」という点にあります。
全世界株式を例にすると、この4つの見え方がばらばらなのが分かります。 地域では数十か国に分かれています。ところが資産の種類では株だけで、 通貨では米ドルの比重が大きくなります。「全世界」という名前は、地域の軸についてだけ正しいということです。
通貨の軸は、いちばん見落とされます。 外国株、外貨預金、外貨建ての保険は、口座の画面では別々の行に並びますが、 円高が進めば同じ方向に効きます。 円建てで買える商品でも、値段が外貨で決まるものは同じ側に入ります。 金などの貴金属や暗号資産がこれにあたります。
増やしても分散にならないとき
商品を足したのに分散が進まない、という状態にはいくつか型があります。 自分が当てはまっていないか確かめてみてください。
ひとつめは、投資信託の中身が重なっている場合です。 これは目論見書や月次レポートの上位銘柄を見れば分かります。 上位10社の顔ぶれが2本でほぼ同じなら、その2本はほぼ1本です。
ふたつめは、買った時期を分けただけの場合です。 積立の回数を増やすことは、買う値段を分けることであって、 持っているものを分けることではありません。 積み立て終わったあとの値動きは、まとめて買った場合と変わりません。
みっつめは、金融機関を分けただけの場合です。 証券会社を2社に分けても、中身が同じなら値動きは1つです。 金融機関を分けることに意味があるのは、 預金の保護の範囲や、万一その会社が使えなくなったときの話で、 値動きの分散とは別の目的です。
よっつめは、同じ業種に寄っている場合です。 個別の株を10社に分けても、そのうち7社が同じ業種なら、 その業界に逆風が吹いたときには7社ぶんがまとめて下がります。 銘柄の数は10でも、値動きの上では数個ぶんにしかなりません。
分散しても消えないもの
分散は万能ではありません。減らせるものと、減らせないものがあります。 ここを混同すると、分散したのに減ったと感じて、やめる理由になってしまいます。
減らせるのは、個別の事情による下げです。 1社の不祥事、1つの国の政変、1つの商品の運用の失敗。 これらは分けて持っていれば、全体に与える影響が小さくなります。
減らせないのは、市場全体が同じ方向に動くときの下げです。 景気が悪くなる、金利が急に上がる、現金が必要になった人が 持っているものを手当たり次第に売る。 こうした局面では、性質の違う資産もそろって下がります。 くわしくは「分散したのに、全部いっしょに下がったのはなぜ?」に書いています。
もうひとつ、分散が効くのは「どれが一番になるかを当てなくて済む」という点です。 年金積立金を運用しているGPIFは、主要な4つの資産に25%ずつ分けた場合、 その年の1位になることはなかったものの、最下位になることもなかった、と説明しています。 分散は成績を最大にするための方法ではなく、大きく外さないための方法だということです。 当てにいく前提を捨てられるなら、これは十分に見合う取引です。
もうひとつ、分散では解決しないものがあります。お金を使う時期です。 3年後に使うと決まっているお金は、どれだけ分散しても、 その3年後の値段で決まります。時期が決まっているお金は、 分散ではなく、値動きのないところに置いておくかどうかの話になります。
| 分散で | 対象 |
|---|---|
| 小さくできる | 1社・1国・1商品の事情による下げ |
| 小さくできる | どれが一番になるかを当て損なうこと |
| 小さくできない | 市場全体が同時に下がるとき |
| 小さくできない | 使う時期が近いお金の値動き |
自分の分散を数える
考え方が分かったら、あとは自分の数字で数えるだけです。 必要なのは、資産の種類ごとのおおよその金額だけで、 商品名も金融機関名も要りません。
手順はこうです。
- 持っているものを、商品名ではなく資産の種類でまとめ直す
- それぞれの金額を書き出し、全体に対する割合を出す
- いちばん大きい種類が何割かを見る
- 外貨で値段が決まるものを足し合わせ、それが何割かを見る
この4つが出れば、自分がどの軸で寄っているかは分かります。 そのうえで、寄っている資産が下がった場合に全体がいくら減るかまで見ておくと、 割合の話が金額の話になります。
自分の金額で、どこに寄っているかと減る額を試算すると、資産の種類ごとの割合と、条件を置いたときの減り方が内訳つきで出ます。 おすすめの配分は出しません。数えるところまでが、この道具の仕事です。

