結論から
分けて持っていたのに、下げた月は全部が赤字だった。 株も投資信託もREITも金も、そろってマイナスになっていた。 分散したはずなのに何が違ったのか、という疑問が出てきます。
答えは、分散が失敗したのではなく、 もともと分散になっていなかったか、 この局面ではそうなる、という性質のどちらかです。 この記事は、その2つを見分けるための話です。
同じ方向に動く、とは
2つの資産を並べて持ったとき、資産全体の振れ幅がどうなるかは、 2つの動き方の関係で決まります。関係の強さを表す言葉が相関です。
相関は、−1から+1までの数字で表されます。 +1なら完全に同じ動き、0なら関係がない、−1なら完全に逆の動きです。 実際の資産どうしは、この間のどこかに収まります。 数字そのものを覚える必要はありませんが、 0に近いほど組み合わせる価値が大きい、という向きだけは知っておくと役に立ちます。
左のように同じ方向へ動く2つを並べても、 合計した線の形は1本のときとほとんど変わりません。 金額は2倍になり、振れ幅も2倍になるだけです。
右のように逆に動く2つを並べると、片方の下げをもう片方が埋めるので、 合計の振れ幅は小さくなります。 年金積立金を運用しているGPIFは、この効果を アイスクリームを作る会社とおでんの具を作る会社の株にたとえて説明しています。 暑い年と寒い年でどちらかが伸びるので、 合わせると成績は平均になるかわりに、ブレは平均より小さくなる、という説明です。
ここでリターンは平均になるという点が大事です。 分散で小さくできるのは振れ幅のほうで、 増える力そのものが増えるわけではありません。 分けたのに増えないと感じるとしたら、 効果の出どころを取り違えている可能性があります。
危機のときほど、そろって下がる
やっかいなのは、この関係が固定ではないことです。 ふだんはばらばらに動いていても、大きな下げが来る局面では 同じ方向に動くものが増えます。
理由は単純です。売り急ぎが起きるとき、 人は下がったものだけを売るわけではありません。 現金が必要になれば、売れるものから売ります。 値上がりしているものほど売りやすいので、 本来なら下がる理由のなかった資産まで売られます。
この結果、分散がいちばん欲しい場面で、いちばん効きにくくなります。平時のデータだけを見て「この2つは逆に動くから安心」と決めていると、 実際に来たときに想定と違う動きになります。
株と債券は、片方が下がればもう片方が買われる、と説明されることがあります。 景気が悪くなって株が売られる局面では、そうなりやすいのは確かです。 ただしこれは、下げの理由が景気だった場合の話です。 物価が急に上がって金利が引き上げられる局面では、 金利の上昇が債券の値段を押し下げ、同時に株の値段の前提も崩します。 このときは、逆に動くはずの2つが同じ方向に動きます。 「この2つは逆に動く」という説明は、 何が起きたときの話なのかまで含めて受け取っておくほうが安全です。
なぜ同じ方向に動くのか
別々に見える資産が同じ方向に動くとき、たいてい共通の理由があります。 よくあるのは次の3つです。
| 共通の理由 | 同じ方向に動きやすいもの |
|---|---|
| 金利が上がる | 債券・REIT・配当を目当てに買われていた株 |
| 円高が進む | 外国株・外貨預金・外貨建て保険・金・暗号資産 |
| 現金が要る人が増える | 売れるものすべて。値上がりしていたものほど売られる |
1つめは、値段の決まり方そのものに理由があります。 債券もREITも、将来受け取る利息や分配金を今の価値に直して値段がつきます。 金利が上がると、その直し方が変わるので、両方の値段が下がります。 別の商品に見えても、同じ計算に乗っているということです。
2つめは、円で暮らす人にだけ効く共通項です。 外貨建ての資産は、現地での値動きに加えて為替が掛かります。 円建てで買えるものでも、値段が外貨で決まるものは同じ側に入ります。 金などの貴金属や暗号資産がこれにあたります。 商品の名前がばらばらでも、円高のときは同じ方向に効きます。
3つめは、資産の中身とは関係なく起きます。 売り急ぎの局面では、その資産が良いか悪いかではなく、 売れるかどうかで売られる順番が決まります。 だから、理屈のうえでは無関係なはずのものまで、同じ日に下がります。
一緒に動くものの見分け方
相関を数字で計算しなくても、見当はつきます。 持っているものについて、次の問いに答えてみてください。
- それは何で値段が決まっているか。企業の業績か、金利か、為替か
- その値段は、どの通貨で付いているか
- ほかに持っているもので、同じ答えになるものはいくつあるか
- 同じ答えのものを足すと、資産全体の何割になるか
答えが同じものは、別の商品であっても同じ側に数えます。 名前や買った金融機関で分けても、値段の決まり方が同じなら、 下げの日にはまとまって下がります。
過去の値動きのグラフを重ねて見るのも早い方法です。 下げた時期の形が似ているなら、それが答えです。 上げている時期は似ていて当然なので、見るのは下げた時期の形にしてください。
この見分け方には、もうひとつ利点があります。 新しく何かを買い足すときに、 「いま持っているものと同じ答えになるか」で判断できることです。 同じ答えになるなら、それは分散を増やしていません。 金額を増やしているだけです。 違う答えになるものを選べたときに、はじめて組み合わせが変わります。
それでも分散する理由
危機のときに効きにくくなるなら、分散する意味はないのか。 そうはなりません。効きにくくなるだけで、消えるわけではないからです。
そろって下がる局面でも、下げの深さは資産によって違います。 全部が同じ率だけ下がるわけではなく、 浅く済むものと、半分近くまで沈むものがあります。 分けてあれば、いちばん深いものに全額が乗っている状態は避けられます。
もうひとつ、戻り方が違います。 下げた理由が資産ごとに違えば、戻る時期も戻る速さも変わります。 1つに全額を置いていると、その1つが戻るまで何もできません。 分けてあれば、戻ったものから必要な現金を作れます。
そして、そもそも危機はいつも来るわけではありません。 ほとんどの年は、資産ごとに別々の動きをします。分散が効かない場面があることと、効く場面がないことは違います。
同時に来た場合を先に試す
一緒に動くかどうかを当てるのは難しいのですが、 一緒に動いた場合にいくら減るかは、いま計算できます。 当てる必要がないぶん、こちらのほうが確かです。
やり方は、悪いことを1つずつ試すのではなく、 同時に起きた場合を置いてみることです。 株が下がる日に円高が重なる、株と債券が同時に下がる、 といった置き方をすると、ふだん見ている数字よりも大きく出ます。
置く数字は、自分が怖いと思う大きさでかまいません。 過去の平均に合わせる必要はありませんし、 こちらから「この組み合わせが来ます」と示すこともしません。 出てくるのは予想ではなく、置いた条件をいまの資産に当てはめた結果だけです。
複数が同時に下がった場合を、自分の金額で試算すると、資産の種類ごとに何%動くかを選んで、 資産全体の減り方と内訳が出ます。 どれとどれが一緒に動くかを、こちらで決め打ちはしません。 組み合わせを選ぶのは持ち主です。
