結論から
S&P500も全世界株式も、米ドル建てで計算されています。 日本で暮らし、日本円で買い物をする人にとって意味があるのは、 円に直したあとの金額です。この記事はその読み方の話です。
円換算リターンとは
外貨建ての資産は、外貨で見た値段と、その外貨の円に対する値段という、 2つの値段を同時に持っています。円で見るとは、この2つを掛け合わせることです。
円換算リターンは、外貨建ての資産の値動きを、 そのときどきの為替で円に直して計算した成績です。
買ったときと売るときで為替が違えば、その差も結果に乗ります。 指数がまったく動かなくても、円安になっていれば円では増えていますし、 円高になっていれば円では減っています。
この計算は、実際に売って円に戻すかどうかとは関係ありません。 持ったままでも、円で評価すればその時点の為替が反映されます。 日本の証券会社の画面に出る評価額も、その日の為替で円に直したものです。 売っていないから為替は関係ない、ということにはなりません。
| 指数の動き | 為替の動き | 円で見ると |
|---|---|---|
| 上がる | 円安 | 大きく増える |
| 上がる | 円高 | 増え方が小さくなる。減ることもある |
| 下がる | 円安 | 減り方が小さくなる。増えることもある |
| 下がる | 円高 | 大きく減る |
指数と為替は掛け算になる
為替の動きは、株価に比べると穏やかに見えますが、 長い期間では大きな差になります。 1ドル100円が150円になれば、それだけで5割の上乗せです。 株価が5割上がるのと同じだけの効果が、投資先とは無関係なところで生まれています。
このため、投資先を選ぶときの検討と、通貨をどうするかの検討は、 本来は別々に行うべきものです。 どの国のどんな企業に投資するかを丁寧に考えても、 結果の半分近くが為替で決まってしまうことがあります。
足し算ではなく掛け算になるのが、この話の要点です。
指数が10年で2倍になり、そのあいだに1ドルが100円から150円になったとします。 このとき円で見た資産は、2 × 1.5 で3倍です。 指数だけを見ていた人は「2倍になった」と思いますが、 実際に円で受け取れる額は3倍になっています。
逆も同じです。指数が2倍でも、1ドルが150円から100円になっていれば、 2 × 0.67 で約1.3倍にしかなりません。指数の成績はよくても、円での成績はそれほどでもない、ということが起こります。
この掛け算のせいで、円で見た値動きは指数そのものより荒くなることも、 穏やかになることもあります。 株が下がるときに同時に円高が進めば、両方が悪い方向に効いて下げが深くなります。 逆に、株が下がるときに円安が進めば、円で見た下げは小さく済みます。 どちらになるかは、そのときの理由によって変わります。
直近10年は為替が大きく効いた
為替が結果に効いていることは、意識されにくいものです。 証券会社の画面には円の評価額しか出ないため、 増えた理由が投資先の成長なのか円安なのかは、そこからは分かりません。 両方が同じ方向に効いた時期は、とくに区別がつきにくくなります。
ここ10年ほどは円安が進みました。 このため、外貨建ての資産を円で見た成績は、 指数そのものの成績よりかなり大きく出ています。
これは実際に起きたことなので、その期間に持っていた人は本当にその恩恵を受けています。 ただしこの上乗せは、指数が生んだものではありません。為替が動いたから乗ったもので、逆に動けば逆に効きます。
どれくらい効いたかは、指数の伸びと為替の伸びを分けて計算すると分かります。 円で見た伸びを、現地通貨での伸びで割れば、残りが為替の寄与です。 この作業をすると、直近10年の円換算の成績のうち、 相当な部分が為替によるものだったことが見えてきます。
過去の円換算の実績を見て「この調子で増える」と考えると、 円安が続く前提を無意識に置いていることになります。 為替の先行きは、株価と同じかそれ以上に分かりません。
為替ヘッジをすればよい?
為替の影響を受けたくない、と考える人は少なくありません。 投資先の判断は自分でできても、為替の見通しまでは持てないからです。 その気持ちに応えるための仕組みが用意されています。
為替の影響をどう扱うかは、投資先を選ぶのとは別の判断です。 同じS&P500に投資する商品でも、ヘッジのありなしで結果が変わります。 投資先が同じなら同じ結果になるはずだ、と考えていると、 思っていたのと違う動きに見えます。
為替の影響を打ち消す仕組みとして、為替ヘッジがあります。 ヘッジありの投資信託を選べば、円高で目減りする影響を抑えられます。
ただし、ただではありません。 ヘッジには2つの通貨の金利差にあたる費用がかかります。 日本の金利が相手国より低いあいだは、その差の分だけ成績が削られます。
| 円高のとき | 円安のとき | 費用 | |
|---|---|---|---|
| ヘッジなし | 目減りする | 上乗せされる | かからない |
| ヘッジあり | 影響を抑えられる | 上乗せも入らない | 金利差の分がかかる |
もうひとつ、ヘッジは為替の影響を完全に消すものではありません。 仕組み上わずかなずれが残り、金利差が大きく動けば費用も動きます。 「ヘッジをしておけば円建てと同じ」と考えると、想定と違う動きに戸惑うことになります。
実績を読むときは
読み方さえ決めておけば、外貨建ての資産を避ける必要はありません。 何が結果を動かしているのかを分けて見られれば、判断はできます。
ここまでの話をまとめると、外貨建ての資産には 「投資先がどうなるか」と「為替がどうなるか」という2つの分からないことが 同時に乗っている、ということになります。 分からないものが2つある以上、片方だけを見て判断はできません。
外貨建ての資産の実績を見たときは、次を確かめてください。
- その数字は現地通貨か、円換算か。書いていなければ現地通貨のことが多い
- 円換算なら、その期間に為替がどれだけ動いたか
- 指数の寄与と為替の寄与を、分けて考える
分けて考えると、その成績のうちどれだけが 「投資先が伸びたぶん」で、どれだけが「円が安くなったぶん」かが見えます。 後者は投資先の実力とは関係ありません。
円で見た実績は、実際の金額で確かめられます。円換算での結果を自分の金額で試算すると、同じ月の為替で直した金額が出ます。
分けて考えることには、もうひとつ利点があります。 自分がすでに持っている資産の中で、外貨建てのものがどれだけあるかを意識できることです。 外国株、外貨預金、外貨建ての保険など、別々の商品に見えても、 円高になれば同じ方向に効きます。 1つずつ見ていると分散しているように見えて、為替の面ではまとまっていることがあります。
これは分散が意味を持たないという話ではありません。 投資先の国や業種を分けることと、通貨を分けることは別の話だ、というだけです。 全世界株式に投資していても、その多くは米ドル建てで動いています。 国の分散と通貨の分散を、同じものとして数えないようにしてください。
