結論から
「10年で4.6倍」と言われても、それがすごいのかどうかは分かりにくいものです。 そこで1年あたりに直したのが年率で、この場合は年16.5%になります。 比べるための道具としては便利ですが、失われる情報もあります。
年率リターンとは何か
年率は「1年あたりに直した率」ですが、 その1年に実際に起きたことを表しているわけではありません。 あくまで、結果を1年単位に割り戻した数字です。
年率は、始まりの金額と終わりの金額から逆算します。 途中で何が起きたかは使いません。「毎年この率で増え続けたとしたら、何%だったことになるか」という数字です。
100万円が10年で461万円になったなら、4.61の10乗根から1を引いて、年16.5%です。 この率で10年間ずっと増え続けたのと、結果だけを見れば同じになります。
注意したいのは、この計算が途中の値をまったく見ていないことです。 10年のあいだに何度上がって何度下がったかは、年率には反映されません。 始まりと終わりの2点だけで決まります。 だから同じ年率でも、その中身はまるで違うことがあります。
| 10年後の倍率 | 年率にすると |
|---|---|
| 1.5倍 | 約4.1% |
| 2倍 | 約7.2% |
| 3倍 | 約11.6% |
| 4.6倍 | 約16.5% |
倍率と年率の関係は、直感より緩やかです。 10年で2倍と聞くと大きく感じますが、年率にすると7.2%です。 逆に「年7%」と聞くと控えめに感じますが、10年続けば2倍になります。 率と倍率は、桁の感じ方がずれる組み合わせなので、両方で見ておくと間違えません。
倍率のままだと期間の違う実績を比べられませんが、 年率にすれば、3年の実績と10年の実績を同じ物差しに載せられます。 これが年率のいちばんの使いどころです。
2種類ある。足して割る年率と、複利の年率
どちらの方法で計算されたかは、実績の表に書かれていないことがほとんどです。 金融機関の資料であれば複利で計算されているのが普通ですが、 記事やブログの「平均◯%」は、単純に足して割っただけのことがあります。 数字の出どころによって、意味が変わってしまいます。
年率には計算のしかたが2つあります。この違いが、思ったより大きな差を生みます。
- 単純平均 — 各年の増減を足して年数で割る
- 複利の年率(CAGR)— 始点と終点から逆算する
たとえば、1年目に+50%、2年目に−50%だったとします。 単純平均なら(50 − 50)÷ 2 = 0%で、増えも減りもしなかったように見えます。
しかし実際は、100万円が1年目に150万円になり、 2年目にその半分の75万円になっています。2年で25%減っています。複利の年率で計算すると年−13.4%です。
なぜ単純平均だと大きく出るのか
この違いは、増減の順番には関係ありません。 先に上がって後で下がっても、先に下がって後で上がっても、 最終的に手元に残る金額は同じになります。 効いているのは順番ではなく、掛け算で積み上がるという性質そのものです。
金額そのもので考えると分かりやすくなります。 率は元になる金額に対する割合なので、元が小さくなれば、 同じ率でも動く金額は小さくなります。 率だけを並べて足し引きすると、この「元がいくらだったか」が抜け落ちます。
減ったあとは、元になる金額そのものが小さくなっています。 小さくなった金額に対して同じ率だけ増えても、元には戻りません。
| 減った率 | 元に戻すのに必要な率 |
|---|---|
| −10% | +11% |
| −20% | +25% |
| −30% | +43% |
| −50% | +100% |
−50%から戻るには+100%が要ります。 単純平均はこの非対称を無視して、どちらの年も同じ重みで足してしまいます。 だから実際より良い数字が出ます。
この非対称は、実際の投資でも効いてきます。 大きく下げた年があると、そのあと平均以上に増える年が続かないかぎり、 全体の年率は思ったより伸びません。 「良い年が多かったのに、通しで見るとそれほどでもない」という結果は、 たいていこれが理由です。
複利の年率は、始点と終点だけを見るので、この問題が起きません。 途中でどれだけ荒れても、最終的にいくらになったかから逆算します。
年率にすると失われるもの
ここが、年率という数字のいちばん大事な性質です。 正しく計算された年率であっても、それだけでは投資の判断材料として足りません。 何が残り、何が消えたのかを知ったうえで使う必要があります。
複利で計算すれば正しい年率が出ますが、 それは「正しく要約できた」というだけで、 要約する前にあった情報が戻ってくるわけではありません。 要約は情報を捨てる作業なので、何を捨てたのかを知っておく必要があります。
複利の年率は正しく計算できますが、それでも途中の道のりは残りません。
同じ年率でも、真っすぐ増えた道のりと、途中で半分になってから戻った道のりがあります。 結果だけを見れば同じですが、持っていた人にとってはまったく違う経験です。
この点は、商品を選ぶときにも効いてきます。 年率がわずかに高い商品と、年率は少し低いが値動きが穏やかな商品があったとき、 数字だけを見れば前者を選びたくなります。 けれど前者の途中の下落に耐えられなければ、その年率は自分のものになりません。 年率は「持ち続けられた人が受け取った結果」であって、誰でも受け取れる数字ではありません。
年率を見るときは、必ずその期間の下落もあわせて見てください。 年率が高くても、途中で耐えられない下落があれば、 その結果にたどりつく前に売ってしまいます。
期間ごとの年率と、その期間にいちばん沈んだところを並べて見られます。自分の金額で年率と下落を確かめると、両方が同じ画面に出ます。
使うときの注意
もうひとつ、積み立てで買っている場合の年率は、 指数の年率とは一致しません。 買った時期ごとに取得価格が違うため、後半にたくさん買っていれば、 指数が2倍になっても自分の資産は2倍にはなりません。 指数の年率は、その期間の最初に一度だけ買った人の結果です。
年率は比べるための道具です。道具として使うぶんには便利ですが、 次の3つは覚えておいてください。
- 期間を確かめる。同じ指数でも、いつからいつまでかで年率は大きく変わる
- 配当を含むかを確かめる。含む数字と含まない数字では、年率が数%違う
- 下落もあわせて見る。年率だけでは、耐えられるかどうかが分からない
年率は便利な数字ですが、便利さの正体は「情報を減らしたこと」にあります。 10年ぶんの値動きを1つの数にまとめるからこそ、他と比べられるようになります。 その代わりに、いつ下げたか、どれだけ下げたか、どれくらいで戻ったかは消えます。 比べるときは年率を使い、耐えられるかを考えるときは元の値動きに戻る、 という使い分けをすると、判断を誤りにくくなります。
もし手元に年率しかないなら、少なくとも複数の期間で計算してみてください。 3年、5年、10年と切り替えて、数字がどれだけ動くかを見れば、 その資産の振れの大きさがある程度つかめます。 1つの期間の年率だけを見て決めるより、ずっと確かです。
