結論から
株を持っていると、値上がりのほかに配当が入ります。 この配当を受け取ったままにせず、同じものを買い増したと考えて計算したのがトータルリターンです。 「配当込み」「配当再投資」と書かれていることもあります。
投資の実績を見るときに、この違いを知らないと数字を読み違えます。 同じ指数、同じ期間の話なのに、出てくる数字が違うことがあるからです。 嘘をついているわけではなく、含めているものが違うだけです。
同じ指数に、2本の線がある
ニュースで見る株価指数の多くは、値段の動きだけを追っています。 配当が支払われると、その分だけ株価は下がりますが、 値段だけを追う指数は、その下がったところをそのまま記録します。 受け取った配当は、どこにも記録されません。
上の線は、受け取った配当で同じものを買い増した場合です。 1年だけを見ると差はわずかですが、買い増した分がまた配当を生むため、 期間が長くなるほど差が開きます。
| 呼び方 | 含むもの | 使われる場面 |
|---|---|---|
| 価格指数 | 値上がりだけ | ニュースの「日経平均は◯円」 |
| トータルリターン | 値上がり+配当の再投資 | 投資の実績、投資信託の運用報告 |
なぜ2本に分かれているのかというと、指数のもともとの役割が 「市場のいまの水準を示すこと」だったからです。 きょうの相場が上がったか下がったかを伝えるには、値段の動きだけで足ります。 一方、投資した人の成績を測るには配当まで含める必要があります。 目的が違うので、別々の指数として計算されています。
ややこしいのは、この2つが同じ名前で呼ばれることです。 「S&P500」と言ったとき、価格指数を指していることも、配当込みを指していることもあります。 どちらなのかは、書いてある場所によって変わります。
なぜ差がここまで開くのか
配当の大きさは、国や時期によって違います。 高い配当を出す企業が多い市場では、価格指数と配当込みの差が大きくなり、 利益を再投資して成長を優先する企業が多い市場では、差は小さくなります。 同じ「配当込みかどうか」でも、効き方は市場によって変わります。
日本株でも米国株でも、配当は年に2%前後あることが多いです。 年2%と聞くと小さく感じますが、これが毎年積み重なると効いてきます。
10年で考えると、配当を再投資しなかった場合と比べて2割ほど、 20年なら5割を超える差になることもあります。差が開くのは、買い増した分がまた配当を生むからです。利息が利息を生むのと同じ仕組みが、配当でも起きています。
このため、期間が長い実績ほど、どちらの数字なのかが結果を大きく左右します。 「30年で何倍」という話を配当抜きの指数で語ると、 実際に持っていた人の成績より、かなり控えめな数字になります。
具体的に考えてみます。配当が年2%あり、株価が年5%上がる資産があるとします。 価格指数で見れば年5%ですが、配当を再投資すれば年7%に近い伸びになります。 この2%の差は、1年では小さく見えますが、10年で1.2倍、20年で1.5倍の開きになります。 長く持つほど、含めるかどうかの選択が結果を左右します。
さらに、配当は株価が下がった年にも支払われることがあります。 値段が下がった年でも配当が入っていれば、その分だけ実際の成績は価格指数より良くなります。 下げ相場で見比べると、この2本の差がはっきり出ます。
どちらの数字かを見分ける
配当込みかどうかは、書き手が意図的に隠しているわけではなく、 単に前提として省略されていることがほとんどです。 金融の実務では、扱う場面によってどちらを指すかが暗黙に決まっているため、 わざわざ断らないまま話が進みます。読む側が確かめるしかありません。
実績の数字を見たときは、次の言葉があるかを探してください。
- 「配当込み」「配当再投資」「トータルリターン」「TR」— 配当を含んでいます
- 「価格指数」「配当を除く」— 含んでいません
- 何も書いていない — 価格指数のことが多いですが、確かめたほうが安全です
投資信託やETFの運用報告に出てくる成績は、 ほとんどの場合、分配金を再投資した前提で計算されています。 一方、ニュースで流れる指数の値は価格指数です。同じ「S&P500が何%上がった」でも、出どころによって中身が違います。
さらにややこしいのは、配当込みの数字であっても、 そこから信託報酬などの費用が引かれているかどうかで、また数字が変わることです。 指数そのものには費用がかかりませんが、実際に買える商品には必ずかかります。
費用がどれくらい効くかは、自分の保有額で信託報酬の差を試算すると、円で確かめられます。
日経平均には配当込みが無い
指数そのものは民間の会社が計算して公表しているもので、 誰でも自由に使えるとは限りません。利用の条件は指数ごとに違います。
ここで実務上の困りごとがあります。 米国のS&P500には配当込みの指数が公開されていますが、日経平均の配当込み指数は、無料では手に入りません。
このため「日経平均に投資していたら」を計算するときには、 日経225に連動するETFの分配金再投資後の値を使うことがあります。 こちらは実際に買える商品の値なので、信託報酬が引かれたあとの結果になります。 指数そのものより、実際に受け取れた額に近いとも言えます。
| 指数 | 配当込みの入手 | 代わりに使えるもの |
|---|---|---|
| S&P500 | 公開されている | 指数そのものを使える |
| 日経平均 | 無料では入手できない | 連動ETFの分配金再投資後 |
| MSCI ACWI | 指数値が自由に使えない | 連動ETFの分配金再投資後 |
実際に使うときは
ここまでの話は、細かい違いのように見えて、 長く持つ人ほど効いてきます。 20年、30年と持つつもりなら、配当を含めるかどうかで結果が1.5倍近く変わりうるからです。 自分がどちらの数字を見て判断したのかは、覚えておく価値があります。
実績を比べるときの手順は単純です。同じ種類の数字どうしで比べる、これだけです。
- 配当込みと配当込みを比べる。配当抜きと配当抜きを比べる
- どちらか分からない数字は、判断に使わない
- 費用が引かれているかどうかも、そろえて見る
実務では、比べたい相手が同じ種類の数字を出していないことがよくあります。 そのときは、片方に合わせて計算し直すより、 「この2つは比べられない」と判断してしまうほうが安全です。 無理にそろえようとして概算の配当を足したりすると、その概算が正しいかどうかを あとから確かめられなくなります。
そろえられないときは、そろわないまま比べるのではなく、 「これは配当込み、あれは配当抜き」と分けて読むほうが安全です。 無理に1つの表に並べると、そこに優劣があるように見えてしまいます。
最後に、配当を再投資するというのはあくまで計算上の仮定である点にも触れておきます。 実際に配当を受け取ると税金が引かれますし、 その手元に残った額で必ず買い増すとも限りません。 投資信託の中で自動的に再投資される仕組みなら、この仮定に近い動きになりますが、 個別株の配当を自分で受け取っている場合は、指数の計算とは条件が変わります。
このため、配当込みの指数の数字は、実際に個人が受け取った成績より わずかに良く出ることが普通です。 税金と再投資の手間を差し引いた分だけ、現実は指数より少し下になります。 比べるときは、そのずれがあることを前提に読んでください。
