投資信託を選ぶときに必ず出てくるのが「信託報酬」です。 年0.1%のものもあれば、年2%を超えるものもあります。 この率が何を意味していて、実際にいくら払うことになるのかを整理します。
信託報酬とは何か
信託報酬は、投資信託を持っているあいだ、ずっとかかり続ける費用です。 年率で示され、預けている資産の残高に対してかかります。 100万円を預けていて年1%なら、1年で1万円ぶんです。
買うときにかかる手数料や、売るときに引かれる金額とは性質が違います。 そちらは1回きりですが、信託報酬は保有している日数のぶんだけかかります。 1年持てば1年ぶん、20年持てば20年ぶんです。
率そのものは、目論見書や証券会社の商品ページに書かれています。 「信託報酬 年0.1%(税込0.11%)」のような書き方です。 税抜きと税込みの両方が書かれていることが多いので、 商品どうしを比べるときはどちらかにそろえてください。
誰に払っているのか
信託報酬は、1つの会社に払っているわけではありません。 投資信託は3つの立場が関わって動いていて、それぞれに配分されます。
- 運用会社 … 何をどれだけ買うかを決め、実際に運用する
- 販売会社 … 証券会社や銀行。口座を通じて売買を取り次ぎ、報告書を届ける
- 受託会社 … 信託銀行。資産を預かり、運用会社の指示で売買を実行する
目論見書には、この3者への配分まで書かれていることがあります。 同じ商品でも、どの証券会社で買っても信託報酬は変わりません。 販売会社への配分は決まっているので、買う場所を変えても信託報酬は下がりません。
下げられるのは商品を変えたときだけです。ここは購入時手数料と違うところで、 購入時手数料は同じ商品でも販売会社によって違うことがあります。
どうやって引かれるのか
信託報酬は、請求されるものではありません。銀行の手数料のように 口座から引き落とされることもなければ、入出金の明細に出てくることもありません。
毎日発表される基準価額は、その日の運用の成果から信託報酬を差し引いたあとの数字です。 年率の信託報酬を日割りにして、毎日少しずつ引かれています。だから「払った」という感覚がまったく残りません。
これは仕組みとして自然なことで、隠しているわけではありません。 ただ、気づきにくいのは事実です。銀行のATM手数料なら明細に1行出るので 「今月は何回使った」と数えられますが、信託報酬はそれができません。 自分で率を調べて、残高を掛けて、はじめて金額になります。
年0.X%は、大きいのか小さいのか
率のままでは大きさが分かりません。円に直すのがいちばん早い方法です。
| 残高 | 年0.1% | 年0.5% | 年1.5% |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 1,000円 | 5,000円 | 15,000円 |
| 500万円 | 5,000円 | 25,000円 | 75,000円 |
| 1,000万円 | 10,000円 | 50,000円 | 150,000円 |
| 3,000万円 | 30,000円 | 150,000円 | 450,000円 |
1年ぶんの概算です。実際には残高が動くので、日々の残高に応じて変わります。
こうして並べると、同じ率でも残高によって重さが変わることが分かります。 残高が小さいうちは年数千円で、気にするほどではないかもしれません。 ただ、積み立てを続けて残高が育つと、同じ率でも払う額は増えていきます。
そしてこの表は1年ぶんです。投資信託は数年で売るものではなく、 10年20年と持つことを前提に選ぶものなので、この額が毎年かかり続けると考える必要があります。
引かれた分は、それ以降ふえない
長期で見るときに見落とされやすいのが、ここです。 信託報酬として引かれたお金は、単に出ていくだけではありません。 そのお金が将来生むはずだった分も、一緒に失われます。
1年目に引かれた1万円は、そのあと20年運用されていれば 2万円以上になっていたかもしれません。引かれた時点で、その可能性ごと消えます。 だから払った手数料の合計より、失う資産のほうが大きくなります。
この差は期間が延びるほど開きます。5年ならほとんど変わりませんが、 30年になると無視できない差になります。 若いうちに始める人ほど、コストの差が効いてくるということです。
コストを比べるときは、率でも、1年ぶんの金額でもなく、持ち続ける期間ぶんの資産の差で見てください。 そこではじめて、手間をかけて見直す価値があるかが判断できます。
実際にいくらの差になるかは、投資信託の手数料、20年でいくら差がつく?で計算できます。保有額と積立額、いまの率と比べたい率を入れると、 5年・10年・20年・30年の差が出ます。
自分の率を確かめる
いま持っている商品の信託報酬は、次のどれかで確認できます。
- 証券会社や銀行の商品ページ … いちばん早い。保有商品の一覧からも辿れることが多い
- 交付目論見書 … 「ファンドの費用・税金」の欄に載っている
- 運用報告書 … 実際にかかった費用の合計が載っている
気をつけたいのは、税抜きと税込みが混ざることです。 目論見書では税抜きで書かれ、商品ページでは税込みで出ていることがあります。比べるときは、どちらかにそろえてください。 消費税のぶんだけ、税込みのほうが1割ほど高く見えます。
もうひとつ、目論見書に載っている率と、実際にかかった率は一致しません。 売買のときの手数料や、海外の資産を保管する費用などが上乗せされるためです。 こちらは投資信託の実質コストで扱います。
つみたて投資枠の対象商品なら、信託報酬に上限が決められています。 実際にどのあたりに集まっているかはつみたて投資枠対象商品の信託報酬にまとめています。自分の率が高いか低いかの目安になります。
率は変わることがある
信託報酬は、買ったときの率がずっと続くとは限りません。 運用会社の判断で引き下げられることがあり、実際にここ数年は 同じ指数に連動する商品どうしで引き下げ競争が起きています。
引き下げられた場合、こちらから手続きをする必要はありません。 持っている商品の率が下がるので、そのまま持ち続ければ恩恵を受けられます。安い商品に乗り換えたつもりが、元の商品も下がっていたということも起こります。
率が変わったときは、運用会社から通知が出ます。 証券会社に登録しているメールアドレスに届くことが多いのですが、 気づかずに過ごすこともあります。年に一度、自分の持っている商品の率を 確認する機会を作っておくと、こうした変化に気づけます。
逆に引き上げられることは、ほとんどありません。 信託報酬の引き上げには、投資家への通知や、 場合によっては書面決議といった手続きが必要になるためです。下がる方向には動きやすく、上がる方向には動きにくいと考えてよいでしょう。
なお、率が下がったからといって運用の中身が変わるわけではありません。 指数に連動させる商品なら、追いかける指数はそのままです。 コストだけが下がるので、投資家にとっては単純に良い変化です。
高い・低いをどう判断するか
率だけを見て「高い」「低い」とは言えません。何に投資している商品かで、 かかる手間が違うからです。
指数に連動させるだけの商品は、何を買うかが機械的に決まるので手間が少なく、 信託報酬も低くなります。一方、独自に銘柄を選ぶ商品や、 複数の資産を組み合わせて配分を調整する商品は、そのぶん高くなります。高いこと自体が問題なのではなく、その差に見合う成果が出ているかが問題です。
見合っているかを確かめるには、同じ期間の指数と比べます。 指数を上回ることを目指す商品なら、信託報酬を引いたあとで 指数を上回っているかどうかが判断の材料になります。 これは短い期間では分からないので、数年単位で見る必要があります。
コストが低いというだけで選ばないでください。 信託報酬が低くても、自分が投資したい対象と違う商品では意味がありません。まず何に投資するかを決めて、そのうえで同じ対象の商品どうしでコストを比べる—— この順番を逆にすると、安いけれど狙いと違うものを持つことになります。
もうひとつ、いま持っている商品を売って乗り換えるときは、コスト以外のことも関わります。 利益が出ている状態で売れば、その利益に税金がかかります。 コストの差より税金のほうが大きいこともあるので、 金額を並べてから決めてください。
