目論見書に載っている信託報酬が年0.1%でも、実際にかかった費用はそれより多くなります。 差はわずかなこともあれば、無視できないこともあります。 この「実際にかかった率」を実質コストと呼びます。
表に出ている率と、実際にかかった率
信託報酬は、運用会社・販売会社・受託会社に払う報酬で、 率があらかじめ決まっています。買う前に確認できるのは、この率です。
ところが投資信託を運用するには、報酬以外にもお金がかかります。 株を売買すれば証券会社に手数料を払い、海外の資産を持てば現地で保管する費用がかかります。 これらは信託報酬に含まれず、別に投資信託の財産から支払われます。
結果として、実際に負担している率は目論見書の数字より高くなります。 これが実質コストです。「隠れコスト」と呼ばれることもありますが、 隠しているわけではなく、事前に確定できないというだけです。
上乗せされるもの
信託報酬の上に乗るのは、おもに次のようなものです。
- 売買委託手数料 … 組み入れている株や債券を売買するときの手数料
- 有価証券取引税 … 国によっては、売買そのものに税がかかる
- 保管費用 … 海外の資産を現地で保管してもらう費用
- 監査費用 … 決算のたびに監査法人に払う費用
- その他の費用 … 目論見書の作成や、法定書類の交付にかかる費用
このうち金額が大きくなりやすいのは、売買委託手数料です。 運用の方針として頻繁に入れ替える商品ほど、ここが積み上がります。 逆に、指数に合わせて持ち続ける商品なら、売買の回数そのものが少なくなります。
海外の資産を持つ商品は、保管費用が乗ります。 国内の株だけを持つ商品より、外国の株を持つ商品のほうが 上乗せ分が大きくなりやすいのは、これが理由のひとつです。
上乗せされる費用の多くは、投資家が選べるものではありません。 運用の方針として売買が必要なら、その費用は発生します。 海外の資産を持つなら、保管費用も避けられません。商品を選んだ時点で、おおよその水準が決まっているということです。
だから実質コストは、運用会社の努力不足を示す数字ではありません。 その商品がどういう運用をしているかの結果です。 頻繁に入れ替える方針なら高くなるのが当然で、 問題はその方針に見合う成果が出ているかどうかになります。
なぜ事前に率が決まらないのか
売買委託手数料は、実際に売買してみないと決まりません。 1年間でどれだけ入れ替えるかは、相場や資金の出入りによって変わります。
資金の出入りも影響します。多くの人が買えば、その分を運用に回すために買い付けが必要になり、 多くの人が解約すれば、資産を売って現金を用意する必要があります。他の投資家の動きが、自分の負担する費用にも影響します。
だから目論見書には「上限」や「実費」としか書けません。 確定するのは決算が終わったあとで、そこではじめて数字として出てきます。
| 信託報酬 | 上乗せされる費用 | |
|---|---|---|
| 買う前に分かるか | 分かる | 分からない |
| 決まり方 | 率があらかじめ決まっている | 実際にかかった額 |
| 確認できる場所 | 目論見書 | 運用報告書 |
| 年によって変わるか | 変わらない(改定時を除く) | 変わる |
性質が違うので、確認するタイミングも場所も変わります。
運用報告書で確かめる
実質コストは、運用報告書の「1万口当たりの費用明細」で確認できます。 決算期間中に何にいくらかかったかが、項目ごとに載っています。
そこには合計の金額と、それが平均の基準価額に対して何%にあたるかが出ています。 この率が実質コストです。信託報酬の率と並べて見れば、上乗せ分が分かります。
気をつけたいのは、決算期間が1年とは限らないことです。 半年決算の商品なら、載っているのは半年ぶんです。 年率に直して比べないと、実際の倍以上の差があるように見えてしまいます。
運用報告書は、証券会社の保有商品の画面か、運用会社のサイトで見られます。 「交付運用報告書」は要約版で、費用明細はこちらにも載っています。
どれくらい上乗せされるのか
商品によって幅がありますが、性質から予想はつきます。
上乗せが小さくなりやすい商品
国内の指数に連動させる商品です。売買の回数が少なく、 海外での保管費用もかかりません。上乗せは年0.01〜0.05%程度に収まることがあります。
上乗せが大きくなりやすい商品
新興国の資産を持つ商品や、頻繁に入れ替える商品です。 保管費用が高く、売買も多くなります。信託報酬と同じくらいの額が上乗せされることもあります。
つまり、信託報酬が年0.1%の商品と年0.15%の商品を比べたとき、 実質コストでは順番が入れ替わることがありえます。 率の差が小さいほど、この入れ替わりは起こりやすくなります。
そして、上乗せ分も信託報酬と同じように毎日引かれ、 引かれた分はそれ以降ふえません。長期で持つなら、 ここも含めて比べる意味があります。
費用明細の読み方
運用報告書の費用明細は、慣れないと読みにくい形をしています。 どこを見ればよいかを順に説明します。
「1万口当たり」で書かれている
金額は、自分が持っている口数ではなく1万口を基準に書かれています。 自分の負担額を知りたいなら、持っている口数を1万で割って掛けます。 10万口持っているなら、書かれている金額の10倍です。
率のほうは口数に関係なく使えます。比べるときは金額ではなく率を見るほうが早いということです。 金額は自分の負担を実感するために使ってください。
期間が1年とは限らない
決算が年2回の商品なら、載っているのは半年ぶんです。 年1回の商品と並べると、半年ぶんのほうが小さく見えます。 期間は報告書の冒頭に書いてあるので、必ず確認してください。
年率に直すには、半年ぶんなら2倍します。 ただし売買の多い時期と少ない時期があるので、 単純に2倍した数字が翌年もそうなるとは限りません。複数の期を見て、だいたいの水準をつかむのが現実的です。
項目ごとの内訳を見る
合計だけでなく、内訳を見ると商品の性格が分かります。 売買委託手数料が大きければ、それだけ入れ替えているということです。 指数に連動させるはずの商品でこの数字が大きいなら、 何が起きているのかを確かめる価値があります。
保管費用が大きい商品は、海外の資産を多く持っています。 これは商品の性質そのものなので、避けようがありません。 同じ対象に投資する商品どうしで比べれば、この差は小さくなります。
商品を比べるときの使い方
実質コストまで見るべきかどうかは、状況によります。
信託報酬の差が大きい(0.5%以上など)なら、実質コストを見なくても結論は変わりません。 差が小さい(0.05%程度)ときにだけ、運用報告書まで見る価値があります。
率が近い商品どうしで迷っているときは、実質コストが判断の材料になります。 逆に、片方が明らかに高いなら、上乗せ分で逆転することはまずありません。手間をかける場面を選んでください。
もうひとつ、新しく設定された商品には運用報告書がまだありません。 この場合は実質コストを確かめようがないので、信託報酬で比べるしかありません。 運用が始まって決算を迎えれば、そのとき確認できます。
実質コストが低いというだけで選ばないでください。 何に投資している商品かが違えば、コストを比べる意味そのものがありません。同じ対象・同じ指数の商品どうしで比べるのが前提です。
率の差が将来いくらの金額になるかは、投資信託の手数料、20年でいくら差がつく?で確かめられます。実質コストの率を入れれば、上乗せ分まで含めた差が出ます。
実質コストという言葉は、必要以上に不安を煽る使われ方をすることがあります。 「表に出ていない費用がある」と言われると、隠されているように聞こえます。
ただ、実際には運用報告書で公開されていて、誰でも確認できます。 事前に率を確定できないのは仕組み上そうならざるをえないためで、不透明というより、確定しようがないというだけです。 確認できる場所があると分かっていれば、必要なときに見に行けます。
率が近い商品で迷ったときにだけ運用報告書を開く。 それ以外の場面では信託報酬で判断する。 手間をかける場面を選ぶことも、判断のうちです。
