信託報酬は年率で示されますが、年に1回まとめて引かれるわけではありません。 毎日少しずつ引かれています。そして、その様子は明細のどこにも出てきません。 いつ、どうやって引かれているのかを整理します。
毎日、少しずつ引かれている
投資信託は営業日ごとに基準価額が計算され、発表されます。 その計算の途中で、1年ぶんの信託報酬を日割りにした額が差し引かれます。
つまり、発表されている基準価額はすでに信託報酬が引かれたあとの数字です。 「基準価額が上がった」というとき、それは信託報酬を引いてもなお上がった、という意味になります。
年1回まとめて引く方式ではないので、途中で売っても、 持っていた日数ぶんだけを負担することになります。 1か月だけ持って売った人が、1年ぶんを取られることはありません。
なぜ明細に出てこないのか
銀行のATM手数料なら、入出金の明細に1行出ます。 クレジットカードの年会費も、請求のどこかに出ます。 ところが信託報酬は、証券会社の取引明細を探しても見つかりません。
理由は、お金が投資家の口座から出ていないからです。 信託報酬は投資信託の財産そのものから引かれていて、 投資家の口座は関係していません。だから口座の明細には何も残りません。
この仕組みは、投資家にとって手間がかからないという利点があります。 支払いのために現金を用意する必要も、引き落としの日を気にする必要もありません。 ただ、そのぶんいくら払っているかを意識する機会がなくなります。
| 銀行のATM手数料 | 信託報酬 | |
|---|---|---|
| 引かれる場所 | 自分の口座 | 投資信託の財産 |
| 明細に出るか | 出る | 出ない |
| 支払いの手間 | その都度かかる | 何もしなくてよい |
| いくら払ったか | 明細を数えれば分かる | 自分で計算しないと分からない |
どちらも手数料ですが、気づき方がまったく違います。
1日あたりいくら引かれているのか
年率を日割りにするので、おおよそ次の額になります。
500万円を年0.5%の商品で持っていれば、1年で25,000円、 1日あたりおよそ68円です。1日68円と言われると小さく感じますが、 止まることなく続きます。1か月で2,000円ほど、10年で25万円ほどです。
| 残高 | 年0.2% | 年0.5% | 年1.0% |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 1日 約5円 | 1日 約14円 | 1日 約27円 |
| 500万円 | 1日 約27円 | 1日 約68円 | 1日 約137円 |
| 1,000万円 | 1日 約55円 | 1日 約137円 | 1日 約274円 |
365日で割った概算です。実際には残高が日々動くので、額も変わります。
金額としてはこのとおりですが、日額で考えるのは向いていません。 1日単位では小さすぎて判断できないうえ、 投資信託は何年も持つものなので、その期間ぶんで見ないと意味がありません。
日額で見ることに意味がないのは、判断の単位と合っていないからです。 投資信託を持つかどうかは、1日単位で決めるものではありません。 何年持つかを決めて買うものなので、その期間ぶんの合計で見るのが自然です。
たとえば500万円を年0.5%で20年持つなら、単純計算で50万円です。 実際には残高が育つので、これより大きくなります。 1日68円と50万円は同じことを言っていますが、 後者のほうが「見直す手間をかける価値があるか」を判断できます。
売らなければ関係ない、ではない
「売らなければ損は確定しない」という言い方がありますが、 信託報酬にこれは当てはまりません。売買とは関係なく、 持っている日数のぶんだけ引かれ続けます。
相場が下がっているときでも同じです。基準価額が下がっている最中でも、 信託報酬は残高に対してかかります。増えていないのに費用だけがかかる、 という状態が起こりえます。
そして引かれた分は、そのあと運用に回りません。引かれた額そのものよりも、失うものは大きくなります。 20年30年と持つ前提なら、この積み上がりのほうが本体です。
信託報酬は「売るかどうか」とは無関係にかかります。 持ち続けるという判断そのものに、費用がついてくると考えてください。
引かれた額を確かめる方法
日々の額は明細に出ませんが、期間の合計は確かめられます。
- 運用報告書 … 決算期間中にかかった費用の合計と、1万口あたりの金額が載っている
- 交付運用報告書 … 上の要約版。証券会社の画面から見られることが多い
- 自分で計算する … 平均残高 × 年率 × 保有年数。おおよその額はこれで足りる
運用報告書には「1万口当たりの費用明細」という欄があり、 信託報酬のほか、売買にかかった手数料や保管費用まで内訳が載っています。 自分が持っている口数を掛ければ、実際に負担した額がおおよそ分かります。
目論見書の率と、運用報告書に載る実際の率は一致しません。 この差については投資信託の実質コストで扱います。
率の差が長期でいくらになるかは、投資信託の手数料、20年でいくら差がつく?で計算できます。日額ではなく、持ち続ける期間ぶんの差で見られます。
基準価額の見方を間違えない
信託報酬が基準価額の中で引かれていることを知ると、 基準価額の読み方が少し変わります。よくある誤解を整理します。
「基準価額が上がった」の意味
発表される基準価額は、信託報酬を差し引いたあとの数字です。 前日より上がっているなら、それは信託報酬を引いてもなお上がったということです。 運用の成果から費用を引いた、手取りに近い数字を見ていることになります。
逆に、指数は上がっているのに基準価額があまり上がっていない、 ということも起こります。差の一部は信託報酬です。 年1%の商品なら、1年で1%ぶん指数に置いていかれる計算になります。
指数との差は、コストだけではない
ただし、差の全部がコストというわけではありません。 指数に連動させる商品でも、完全に一致させることはできません。 売買のタイミングや、配当をどう扱うかで、わずかにずれます。 このずれを乖離と呼び、コストとは別に発生します。
長い期間で見ると、指数と基準価額の差はおおよそコストのぶんに近づきます。短い期間の差だけを見て「この商品は指数に連動していない」と判断するのは早いということです。
分配金を出す商品では、比べ方が変わる
分配金を出す商品の場合、出したぶんだけ基準価額が下がります。 分配金を受け取っているのに基準価額が下がっている、という状態は自然なことで、 損をしているわけではありません。
この場合、基準価額だけを追っても運用の成果は分かりません。 分配金を再投資したと仮定した数字を出している商品もあるので、 それと比べるほうが実態に近くなります。
毎日引かれることの意味
毎日引かれる仕組みには、判断に影響する点がいくつかあります。
持つ期間が短ければ、負担も小さい
年率で示されていても、実際に負担するのは持っていた日数ぶんだけです。 1か月で売れば1か月ぶんです。ここは購入時手数料と違います。
乗り換えても、その日から新しい率になる
コストの低い商品に替えれば、替えた日から低い率で計算されます。 過去にさかのぼって取り返せるわけではありませんが、これから先の分は替えた時点で変わります。
早く気づくほど、効果が大きい
残りの保有期間が長いほど、率の差が積み上がる余地も大きくなります。 同じ見直しでも、20年前にやるのと5年前にやるのでは結果が違います。
ただし、いま持っている商品を売って乗り換えると、 利益が出ている場合はその利益に税金がかかります。コストの差より税金のほうが大きいこともあります。 売らずに、これから買う分だけを低コストの商品にするという方法もあります。
毎日引かれるという仕組みそのものは、良くも悪くもありません。 支払いの手間がかからない代わりに、意識する機会がなくなる。 その両面があるだけです。
だからこそ、年に一度でも自分から見に行く機会を作る意味があります。 持っている商品の率を確認し、残高を掛けて、金額として眺める。それだけで、率のままでは分からなかった大きさが見えます。 見たうえで「この程度なら気にしない」と決めるのも、ひとつの判断です。
明細に出ないものを把握しておくのは、家計の管理と同じ考え方です。 使った覚えのない引き落としを見つけたときと違って、 こちらは探しに行かないかぎり出てきません。 自動で引き落とされる固定費が、気づかないうちに積み上がるのと似ています。 仕組みを知っていれば、確認しに行くこともできます。
