結論から
「10年で4.6倍になった」という数字を見ると、次の10年も似たことが起きそうに感じます。 けれどその4.6倍は、その10年に起きたことを1つの数にまとめただけのもので、 次の10年について何かを言っているわけではありません。
この記事では、なぜ過去の数字がそのまま先に伸ばせないのか、 それでも過去を見る意味はどこにあるのかを整理します。
はっきりさせておきたいのは、過去の数字が役に立たないと言いたいわけではない、 ということです。起きたことは事実で、そこからしか分からないこともあります。 問題は、その事実を「これからも同じことが起きる」という予想にすり替えて読んでしまう点にあります。 事実として読むぶんには何の問題もありません。
なぜ続くとは言えないのか
株価が動く理由は、企業の利益、金利、人々の期待、為替など、いくつも重なっています。 過去10年の結果は、その期間にたまたま重なった条件の産物です。同じ条件がもう一度そろう保証はありません。
たとえば直近10年の日本株や米国株には、金利が低かったこと、 円が大きく安くなったこと、上位のIT企業が伸びたことが効いています。 これらはどれも、これから逆に動きうるものです。 金利が上がれば株価の評価は下がりやすくなり、円高が進めば 外貨建ての資産は円で見て目減りします。
| 過去10年に効いたこと | これから逆に動いたら |
|---|---|
| 低い金利 | 金利が上がると、株の評価は下がりやすい |
| 円安 | 円高では、外貨建ての資産が円で目減りする |
| 上位企業の急成長 | 成長が鈍れば、指数全体の伸びも鈍る |
| 世界的な株高 | 同じ時期に、まとめて下がることもある |
つまり過去の数字は「こうなった」という記録であって、 「こうなる」という見通しではありません。両者を同じ顔で並べると、 記録のほうが見通しの信頼を借りてしまいます。
もうひとつ見落とされやすいのが、いま高い実績を出している指数ほど、 その実績が「これから買う人にとっての条件の悪さ」を意味しうることです。 値上がりしたあとに買うということは、同じ会社の同じ利益に対して、 前の人より高い値段を払うということでもあります。 過去に大きく増えたという事実は、その資産がいま割安であることを意味しません。 むしろ逆の可能性もあります。
過去の数字がそのまま続かないことは、実際の値動きを少し細かく見ると分かります。 好調が10年続いたあとに、5年ほとんど増えない時期が来ることがあります。 逆に、長く停滞した市場が急に伸びることもあります。 どちらも起きたことですが、伸びていた10年の途中でこの先の停滞を言い当てた人も、 停滞の途中でこの先の急伸を言い当てた人も、ほとんどいませんでした。 分かっていたなら、その時点の値段はもっと違っていたはずだからです。
どこから数えたかで答えが変わる
同じ指数でも、いつからいつまでを数えたかで結論が変わります。 暴落の直後から数えれば大きく増えた話になり、高値の直前から数えれば ほとんど増えていない話になります。どちらも本当に起きたことです。
このため「10年で何倍」という数字を見たときは、 その10年がいつからいつまでなのかを必ず確かめてください。 期間の書いていない実績は、都合のよい期間が選ばれている可能性があります。
意図的に選んでいなくても、これは起こります。 たとえば「直近10年」という区切りは自然に見えますが、 その10年がたまたま good な時期であれば、数字は自然と大きく出ます。 区切りを1年ずらすだけで年率が数%動くことは珍しくありません。 1つの期間の数字だけを見て判断すると、その期間の性格をそのまま将来の性格だと思い込むことになります。
自分の金額で、期間を変えながら確かめられます。投資額と期間を入れて試算すると、期間ごとの年率と、その期間にいちばん沈んだところが並びます。
年率は経験を表さない
年率は、始点と終点を結んで均した数字です。途中の道のりは、この数字に残りません。
上の図の2本は、始点も終点も同じなので、あとから計算した年率は同じになります。 けれど下の線は途中で大きく沈んでいます。 実際に持っていた人にとって、この2本はまったく別の経験です。
この違いは、結果を眺めるぶんには関係ありませんが、 持ち続けられるかどうかには決定的に効きます。 資産が半分になった月に、あと何年かすれば戻ると信じて持ち続けられる人は多くありません。 年率だけを見て「この程度なら耐えられそうだ」と判断すると、 耐える対象がそこに書かれていないまま決めることになります。
年ごとの動きを見ると、増えた年と減った年が混ざっています。 それを均した1本には、減った年があったことは残りません。 「年率◯%」だけを見て投資を決めると、下げた年に耐えられるかどうかを考えないまま始めることになります。
この点は、積み立てで買っている場合にはさらに複雑になります。 毎月買い続けていると、買った時期ごとに取得価格が違うため、 指数の年率と自分の資産の増え方は一致しません。 指数が10年で2倍になっても、後半にたくさん買っていれば、自分の資産は2倍にはなりません。 指数の実績は、その期間の最初に一度だけ買った人の結果です。
では過去の数字は何に使うのか
使い道はあります。ただし増えた側ではなく、減った側を使います。
- その資産が、過去にどれくらい下がったことがあるかを知る
- 自分の金額に当てはめて、いくら減る場面があったかを見る
- その減り方に耐えられるかを、投資する前に決めておく
将来のリターンは分かりませんが、「その資産が荒れるときはどれくらい荒れるか」には、 過去がある程度の目安を与えてくれます。 もちろん次の下落が過去より深いことはあるので、目安であって上限ではありません。
増えた側を使わないのには理由があります。 増えた側は、その期間に起きた条件に強く左右されるので、 期間を変えると数字が大きく動きます。 一方で下がった側は、その資産がどれくらい荒れる性質を持っているかを表していて、 期間を変えても性格そのものは大きくは変わりません。 株式は荒れる資産で、預金は荒れない資産です。これは期間の取り方では変わりません。
この考え方を使うと、投じる金額を自分で決められます。 いくらまで減っても持ち続けられるかを先に決め、 それを過去の下落率で割れば、投じてよい額の目安が出ます。
この決め方の良いところは、将来を当てにいかなくてよいことです。 何%で増えるかを予想する必要はありません。 必要なのは、自分がいくらまでの下落なら売らずにいられるかという、自分についての判断だけです。 相場の予想は外れますが、自分の許容額は自分で決められます。
| 決めること | 決め方 |
|---|---|
| なくなっても暮らしが続く額 | 生活費と、近く使う予定のお金を除いた残り |
| いくらまで減っても持ち続けられるか | その額を見ても売らずにいられる線 |
| 投じてよい額の目安 | 耐えられる額 ÷ 過去の最大下落率 |
読むときの3つの手順
過去のリターンを見かけたとき、この順で確かめると読み違えません。
- いつからいつまでか。期間が書いていなければ、その数字は判断に使わない
- 配当を含んでいるか。含む数字と含まない数字を並べて比べない
- その期間に、いちばん沈んだのはどこか。増えた話しかなければ、片側しか見ていない
この3つがそろって初めて、その数字が何を言っているのかが分かります。 どれか1つでも欠けていれば、数字そのものは正しくても、読み取れることは限られます。
最後に、この記事の話は「投資をやめたほうがよい」という意味ではありません。 過去の数字を将来の約束として読まないほうがよい、というだけです。 荒れ方を知ったうえで、荒れても困らない金額に収めておけば、 将来が分からないままでも決めることはできます。 分からないものを分かったことにするより、そのほうが確かです。
