同じTOPIXに連動する商品でも、信託報酬は商品によって違います。 同じものを持っているはずなのに、なぜ払う額が変わるのか。 指数と商品の関係から整理します。
同じ指数でも、率はこれだけ開いている
まず事実から確かめます。金融庁が公表している、つみたて投資枠の対象商品の分布を見ると、 国内の指数に連動する商品だけでも、信託報酬は0.1%以下のものから0.5%近いものまで広がっています。
いちばん安い層と、上限に近いものでは5倍ほどの開きがあります。 追いかけている指数が同じなら、持っている中身もほぼ同じはずです。 それでも払う額がこれだけ変わります。
実際の分布はつみたて投資枠対象商品の信託報酬にまとめています。国内型の平均と、内外・海外型の平均も出しています。
そもそも、なぜ商品が複数あるのか
ここを取り違えていると、率の違いが理解できません。 指数というのは「何をどれだけ持つか」という決まりごとであって、 商品そのものではありません。
TOPIXは「東証に上場している株を、時価総額に応じて持つ」という規則です。 この規則に従って実際に株を買い、比率がずれたら調整し、 投資家の売買に対応する——そこまでが運用会社の仕事です。
同じ設計図から、複数の会社がそれぞれ商品を作っている状態だと考えてください。 設計図は同じでも、作る会社の規模も、作り方も、売り方も違います。その違いが、かかる費用の違いになって出てきます。
理由1:規模で分け合える費用が違う
投資信託には、規模に関係なくかかる費用があります。 決算のたびの監査、法定書類の作成と交付、システムの維持。 これらは預かっている資産が10億円でも1兆円でも、大きくは変わりません。
その費用を、預かっている資産で分け合うことになります。資産が大きいほど、1人あたりの負担は薄まります。 同じ額の費用でも、1兆円で割れば率としては小さくなります。
だから、資金が集まっている商品ほど低い率を設定しやすくなります。 逆に、規模の小さい商品が同じ率にしようとすると、運用会社の取り分が残りません。 率の差の一部は、この構造から来ています。
理由2:指数の追いかけ方が違う
指数に連動させる方法は、ひとつではありません。
- 完全法 … 指数に入っている銘柄を、すべて同じ比率で持つ
- サンプリング法 … 代表的な銘柄を選んで、指数に近い動きになるように持つ
- 他のファンドを通じて持つ … 同じ運用会社の別のファンドに投資する形
構成銘柄の多い指数では、全部そろえると売買の手間と費用がかさみます。 代表的な銘柄に絞れば、売買の回数が減り、費用も下がります。 そのかわり、指数との動きにわずかなずれが出ます。
どちらが優れているとは言えません。費用を抑えるか、指数への忠実さを取るかという選択です。 ただ、この選択がコストの差になって表れることは知っておく価値があります。
理由3:売り方と体制が違う
信託報酬は、運用会社・販売会社・受託会社の3者に配分されます。 このうち販売会社への配分は、どこでどう売るかによって変わります。
窓口で説明しながら売る商品は、そのぶんの体制が必要です。 対面での相談、書類の受け渡し、担当者の教育。インターネットだけで完結する商品より、費用がかかります。
これは「同じ商品を高く売っている」という話ではありません。 そもそも別の商品として設定されていて、配分の設計が違います。 対面での説明を必要とする人にとっては、その体制に価値があります。 自分で選んで自分で買う人にとっては、払う理由のない部分です。
| 低い率になりやすい | 高い率になりやすい | |
|---|---|---|
| 規模 | 資金が集まっている | 設定されて間もない・小さい |
| 追いかけ方 | 代表的な銘柄に絞る | 全部そろえる |
| 売り方 | ネット中心 | 窓口での説明を伴う |
| 設定時期 | 後から出た | 以前からある |
どれか1つで決まるものではなく、組み合わせで率が決まります。
理由4:出た時期が違う
あとから出た商品ほど、低い率で設定される傾向があります。 すでに同じ指数の商品がある市場に出すなら、 何かで上回らないと選ばれません。中身が同じなら、勝負できるのは率です。
この競争は、実際にここ数年続いてきました。 新しい商品が低い率で出ると、既存の商品も引き下げに動きます。結果として、同じ指数の商品群の率は下がる方向に進んできました。
ただ、引き下げは自動ではありません。 同じ指数の商品でも、下げた商品と下げていない商品が併存します。 昔から持っている商品の率が、いまの水準より高いままということは起こります。信託報酬の記事でも触れましたが、 年に一度は自分の持っている商品の率を確認する意味は、ここにもあります。
コストが低ければ、成績も良いのか
同じ指数を追いかけているなら、コストの低いほうが手元に残る額は多くなります。 これは計算として確実です。ただし、成績がそのまま順番どおりになるとは限りません。
指数に連動させる商品でも、指数とぴったり同じ動きにはなりません。 売買のタイミング、配当をいつ受け取るか、代表的な銘柄に絞っているかどうか。 こうした要因で、わずかなずれが出ます。このずれは、コストとは別に発生します。
だから、コストの低い商品が指数から大きくずれていれば、 コストの高い商品のほうが結果的に良かった、ということは起こりえます。 長い期間で見れば、差はおおむねコストのぶんに近づきますが、 短い期間では別の要因のほうが大きく出ます。
コストの低さは確実に効く要素で、事前に分かります。 指数からのずれは事前に分かりません。 だから、事前に選べるほうを優先するのが理にかなっています。
為替をどう扱うかでも変わる
海外の指数に連動する商品では、もうひとつ差が生まれる要因があります。 為替の扱いです。
外国の株を持つということは、その国の通貨で資産を持つということです。 円に直したときの価値は、為替が動けば変わります。 この動きを打ち消す仕組みを付けた商品を、為替ヘッジありと呼びます。
ヘッジには費用がかかります。2つの通貨の金利差にあたる分を負担することになり、 金利差が大きい時期には、その負担も大きくなります。これは信託報酬とは別にかかるもので、目論見書の率には含まれません。
同じ指数で「ヘッジあり」と「ヘッジなし」の両方が用意されていることがあります。 信託報酬もヘッジありのほうが高めに設定されることが多いのですが、 差の本体は率ではなく、ヘッジそのものの費用です。 率だけを見比べても、実際の負担の差は分かりません。
どちらを選ぶかは、コストの話ではなく為替の動きを取りに行くかどうかの話です。 長期で持つなら、ヘッジなしを選ぶ人が多いのですが、 これは正解が決まっている問題ではありません。
率のほかに見るところ
同じ指数の商品を比べるとき、率だけで決めると見落とすものがあります。
純資産総額
極端に小さい商品は、繰上償還されることがあります。 運用を続けるのに見合わない規模になると、途中で終わらせる判断が起こりえます。 そうなると、望まない時期に現金化されることになります。率が最安でも、規模が小さすぎる商品には別の注意が要ります。
実質コスト
目論見書の率が低くても、売買や保管の費用が上乗せされます。 率の差がわずかなときは、この上乗せで順番が入れ替わることがあります。 詳しくは投資信託の実質コストで扱っています。
償還日
あらかじめ終わる日が決まっている商品があります。 長く持つつもりなら、無期限のものを選ぶほうが手間がありません。 目論見書の「信託期間」に書かれています。
そして、いま持っている商品を売って乗り換えるなら、 利益が出ている場合は税金がかかります。率の差より税金のほうが大きいこともあります。 売らずに、これから買う分だけを低い率の商品にする方法もあります。
こうして並べると、率だけで選べない理由が見えてきます。 ただ、だからといって全部を調べる必要はありません。 純資産総額と償還日は、証券会社の商品ページに並んで載っています。 率を見るついでに目に入る情報なので、追加の手間はほとんどかかりません。
時間をかける価値があるのは、率が近い商品で迷ったときだけです。明らかに差がある場合は、そのまま低いほうで構いません。 どこに手間をかけるかを決めるのも、選び方のうちです。
率の差が実際にいくらの金額になるかは、投資信託の手数料、20年でいくら差がつく?で確かめられます。同じ指数の商品どうしを比べる見本も用意しています。
