年収では決まらない
「年収◯万円を超えると社会保険に入る」という説明が広く出回っています。 勤務先の健康保険・厚生年金について言えば、これは正確ではありません。 加入するかどうかを決めているのは、まず週の所定労働時間と勤務先の規模です。
極端に言えば、週の所定労働時間が短ければ、年収がいくらであっても 短時間労働者としての加入対象にはなりません。逆に、時間の条件を満たしていれば、 年収が小さくても加入することがあります。
この順番を取り違えると、実際には起きないことを心配することになります。 たとえば週に十数時間だけ働いている人が、収入が増えることを恐れて時間を抑えたとします。 しかしその働き方では、そもそも勤務先の社会保険の対象になりません。 心配すべきだったのは、勤務先の加入ではなく、 配偶者の健康保険の被扶養者でいられるかどうかのほうです。 どちらの話をしているのかが分からないまま金額だけを見ていると、 止める必要のないところで手を止めることになります。
勤務先の社会保険に入る条件
短時間労働者が勤務先の健康保険・厚生年金に入るのは、 いくつかの条件をすべて満たしたときです。ひとつでも外れれば、対象になりません。
見られているもの
- 週の所定労働時間。実際に働いた時間ではなく、契約で決まっている時間
- 勤務先の規模。厚生年金の被保険者の数で数える
- 学生かどうか。学生は対象から外れる
- 雇用期間の見込み。ごく短い期間だけの雇用は対象から外れる
- 所定内賃金の月額。ただしこの要件は撤廃が予定されている
ここで見られている「週の所定労働時間」は、契約で決まっている時間です。 たまたま忙しくて残業した週があっても、それで判定が変わるわけではありません。 逆に、契約上は週の時間が長いのに実際にはあまり働いていない、という場合も、 判定は契約のほうで行われます。実績ではなく契約だという点が、 年収で判定すると思っているとずれるところです。
「106万円」という数字の出どころ
よく見かける「106万円の壁」という数字は、法令に書かれているものではありません。 条件のひとつである所定内賃金の月額要件を12倍した、おおよその年収です。
12倍しただけの数字なので、実際の判定とはずれます。 判定は月額で行われるので、年の途中で働き方が変われば結論も変わります。 また、賞与や残業代など、この月額に算入しないものもあります。
さらに、この月額要件そのものが撤廃される予定になっています。 撤廃されたあとは、週の時間の条件を満たしていれば、 賃金の額にかかわらず対象になります。 「106万円」という呼び方だけが残って、判定の中身が変わる形です。
被扶養者でいられるかは、別の判定
勤務先の社会保険に入らない場合、次に問題になるのが配偶者の健康保険の被扶養者でいられるかです。 これは上の加入条件とはまったく別の判定で、決めるのも別の相手です。
決めるのは、配偶者が加入している健康保険(協会けんぽや健康保険組合)です。 年間の収入の見込みで判定されます。過去1年の実績ではなく、これからの見込みで見るのが特徴です。
税金の扶養との違いをもう一度整理しておきます。 税金は1月から12月までの1年間の所得が確定してから判定します。 被扶養者かどうかは、これからの1年間の見込みで判定します。 過去の実績ではないので、働き方を変えた時点から扱いが変わり得ます。 同じ「扶養」でも、見ている期間がまったく違います。
また、年齢や障害の有無によって基準額が変わる場合があります。 一般の基準より高い額が使われるケースがあるので、 自分がどの基準で見られるのかは、加入先の健康保険で確かめてください。
いちばん負担が重いのは、どちらでもない道
「社会保険に入ると損」と言われます。しかし保険料の負担だけを見れば、いちばん重いのは勤務先の社会保険に入らないまま、被扶養者からも外れる道です。
3つの道と、負担の違い
- 勤務先の社会保険に入る。保険料は勤務先と折半する。将来の厚生年金も増える
- 被扶養者のまま。自分が払う保険料は0円
- どちらでもない。国民健康保険と国民年金を全額自分で払う。折半してくれる相手がいない
3つ目に入るのは、週の所定労働時間が短いまま、収入だけが被扶養者の基準を超えた場合です。 時給が高い仕事で短時間働いていると、この形になりやすくなります。 専門的な資格を使う仕事や、短時間でも単価の高い仕事では、 気づかないうちにこの位置に入っていることがあります。
この状態を抜ける方法は2つあります。働く時間を減らして被扶養者の基準に収めるか、 逆に働く時間を増やして勤務先の社会保険に入るかです。真ん中がいちばん重いという形になっているので、 どちらかに寄せたほうが世帯の手取りは大きくなります。 どちらに寄せるべきかは、働ける時間と勤務先の条件で決まります。
国民年金の保険料は全国一律で額が決まっていますが、 国民健康保険の保険料は自治体・所得・世帯構成で変わります。 金額を知るには、お住まいの市区町村で確認する必要があります。
保険料を払うと、何が変わるのか
保険料の負担だけを見ると、加入は損に見えます。 しかし保険料は掛け捨ての手数料ではありません。 払うことで受け取れるものも変わります。ここを金額に換算しないまま 「損」と決めると、判断を誤ります。
変わるもの
- 将来受け取る年金。厚生年金に入った月数と報酬に応じて、老齢厚生年金が上乗せされる
- 病気やけがで働けないときの傷病手当金。勤務先の健康保険に入っていないと受け取れない
- 出産で休むときの出産手当金。こちらも勤務先の健康保険の給付
- 保険料の半分を勤務先が負担する。国民健康保険・国民年金にはこの仕組みがない
とくに見落とされやすいのが、保険料の半分を勤務先が払っていることです。 給与明細に載っているのは自分の負担分だけで、 同じ額をもう一度、勤務先が払っています。 国民健康保険と国民年金には、この折半がありません。
将来の年金がいくら増えるかは、加入する期間と報酬で決まるため、 いまの時点で正確な金額を出すのは簡単ではありません。 ただ、金額にしていないだけで、無いわけではないことは覚えておいてください。 短期の手取りだけを並べた比較は、この部分を0円として扱っています。
条件は変わる。日付で見る
社会保険の加入条件は、制度改正で段階的に広がってきました。 勤務先の規模の基準も、賃金の月額要件も、時期によって違います。
このため、「いま有効な条件」は日付で決まります。 去年書かれた記事の数字が、今年も同じとは限りません。 ToMiでは、条件ごとに適用が始まる日と終わる日を持たせて、基準日で判定を切り替えています。施行が確認できるまで、 予定を現在の決まりとして先取りはしません。
自分の場合を確かめる
自分がどの道に入るかは、週の所定労働時間、勤務先の規模、そして収入の見込みで決まります。 この3つが分かれば判定でき、判定が決まれば保険料の額も出ます。
ToMiの扶養を外れて働くと、世帯手取りはいくら増える?では、年収ではなく週の時間と勤務先の規模で加入を判定し、 そのうえで世帯の手取りがいくら変わるかを出します。 制度が切り替わる日をまたぐ場合は、基準日で判定を変えます。
そのうえで、扶養を外れるなら年収いくらまで働けば元が取れるかを逆算します。 扶養を外れた直後は負担が先に来るため、中途半端に超えるのがいちばん損になります。 どこまで働けば戻るのかは、条件を入れてみないと分かりません。
