誰の税金が変わるのか
配偶者控除と配偶者特別控除は、どちらも所得控除です。 所得控除とは、税金を計算するときに所得から差し引ける金額のことです。 差し引ける額が大きいほど、課税される所得が小さくなり、税金が減ります。
ここでいちばん取り違えられるのが、誰の税金が減るのかです。 この控除を受けるのは、配偶者を扶養している側です。 パートで働いている本人の税金が減るわけではありません。 働く人の収入が増えると、配偶者の控除が小さくなり、配偶者の税金が増えます。
働く本人にも所得税・住民税はかかりますが、それは自分の収入が課税される水準に達したという別の話です。 2つの話を混ぜると、「扶養を外れると自分の税金が急に増える」という誤解になります。 給与から引かれるものの全体像は給与から引かれるもので扱っています。
配偶者控除と配偶者特別控除は地続き
名前が2つあるので別の制度に見えますが、実際にはひと続きの仕組みです。 働く人の所得が一定額までなら配偶者控除、そこを超えると配偶者特別控除に移ります。 移った瞬間に控除が消えるのではなく、段階的に小さくなっていきます。
左側の高い部分が配偶者控除です。働く人の所得が増えるにつれて、 右側の配偶者特別控除の段が1段ずつ下がっていきます。 最後の段を越えると、どちらの控除も受けられなくなります。
この形になっているのには理由があります。もし崖のようにゼロになる仕組みだったら、境目の手前で働く手を止めるほうが得になってしまいます。 段階的に減らすことで、働いた分だけ世帯の手取りが増えるようにしてあります。
段が下がっていく途中では、働く人の収入が増えても、 世帯の手取りが減ることはありません。増えた収入のほうが、 小さくなった控除による税金の増加より大きいためです。 税金の扶養だけを見れば、働いた分だけ世帯の手取りは増える形になっています。 「働くと損をする」範囲が生まれるのは、社会保険や会社の手当が絡んだときです。
1円超えても、ゼロにはならない
「◯万円を1円超えたら大損」という言い方が広く出回っています。 税金の扶養について言えば、これは正しくありません。 配偶者控除が受けられなくなる所得を超えても、配偶者特別控除へ移るだけです。
しかも、移ってすぐに額が小さくなるわけでもありません。 最初のいくつかの段では、配偶者控除と同じ額の控除が続きます。 つまり、上限を少し超えたくらいでは世帯の控除は1円も減っていないことがあります。
崖になっているのは別のところです。社会保険の被扶養者から外れると、 保険料が段階的にではなく一度にかかります。会社の配偶者手当も、 条件を1円超えた月から全額なくなることがあります。 「1円超えたら」の話は、たいていこちらが元になっています。 3つの違いは扶養とは?税金と社会保険の違いで整理しています。
控除が減っても、税金は同じだけ増えない
もうひとつ大きな誤解があります。 「控除が38万円減る」と聞いて、税金が38万円増えると受け取ってしまうことです。 そうはなりません。
所得控除が減ると、増えるのは課税される所得です。 税金はその所得に税率をかけて計算されるので、実際に増える税額は、 減った控除に税率をかけた分だけです。
所得税の税率は所得が多いほど高くなる累進の仕組みなので、 同じ控除の減り方でも、増える税額は人によって違います。 控除を受ける側の所得が多いほど、影響は大きくなります。
税率が人によって違うということは、同じ働き方をしても世帯への影響が違うということでもあります。 配偶者の所得が高い世帯ほど、控除が減ったときに増える税額は大きくなります。 インターネットで見かける「控除がなくなると年◯万円の損」という数字は、 どこかの誰かの税率で計算されたものです。自分の世帯に当てはまるとは限りません。
また、控除が減るのは所得税と住民税の両方ですが、効いてくる時期がずれます。 所得税はその年のうちに精算されますが、住民税は前年の所得に対して翌年にかかります。 働き方を変えた初年度と、その翌年度では、手取りの感覚が変わります。
控除を受ける側の所得でも変わる
控除の額を決めるのは、働く人の所得だけではありません。控除を受ける側(配偶者)の所得でも変わります。 受ける側の所得が多いほど控除は小さくなり、一定額を超えると受けられなくなります。
2つの所得で決まる
- 働く人の所得。多いほど、控除の段が下がっていく
- 控除を受ける側の所得。多いほど、同じ段でも控除が小さくなる
つまり、同じ年収で働いていても、配偶者の収入が違えば世帯への影響は変わります。 「年収◯万円までなら大丈夫」という一律の答えが出てこないのは、これも理由のひとつです。
控除を受ける側の所得が一定額を超えると、配偶者控除も配偶者特別控除も受けられなくなります。 この場合、働く人の収入がいくらであっても控除はゼロなので、税金の扶養を気にする意味がなくなります。 残るのは社会保険と会社の手当の話だけです。 自分の世帯がどちらなのかを先に確かめておくと、考えることが減ります。
どうやって申告するのか
配偶者控除・配偶者特別控除は、黙っていても適用されません。 控除を受ける側が自分で申告する必要があります。 会社員であれば、年末調整のときに提出する書類に配偶者の情報を書きます。
このとき書くのは、その年の配偶者の所得の見積額です。 年末調整は12月に行われますが、その時点ではまだ12月分の給与が確定していないこともあります。 見積もりで書いておき、実際の金額と違っていた場合は、 あとから会社に申し出るか、確定申告で精算します。
働く人の側でやることは、基本的にありません。 この控除を申告するのは控除を受ける配偶者のほうなので、 働く本人の年末調整の書類には、この控除の欄そのものが出てきません。世帯の中で、どちらが手続きをするのかを取り違えないでください。
自営業やフリーランスなど、年末調整のない働き方をしている場合は、 確定申告のときに申告します。この場合も、申告しなければ控除は受けられません。
自分の場合を確かめる
控除がいくら減り、税金がいくら増えるのかは、 働く人の収入と、控除を受ける側の所得の両方が分からないと出ません。 さらに社会保険と会社の手当まで含めないと、世帯として得か損かは決まりません。
ToMiの扶養を外れて働くと、世帯手取りはいくら増える?では、控除の減り方を段ごとに計算したうえで、 配偶者の税金が実際にいくら増えるかを出します。 控除の額そのものではなく、税率をかけた後の金額で比べられます。
そのうえで、「扶養の中でいちばん稼いだ場合」と比べて、 外れるなら年収いくらまで働けば元が取れるかも逆算します。 金額を覚えるのではなく、自分の条件で計算するほうが早く答えにたどり着きます。
