民間の保険は、いちばん外側にある
民間の保険を検討するとき、その保険だけを見て多い少ないを判断することはできません。 内側に、公的な保障と勤務先の保障があるからです。
金融庁は、公的な保険には民間の保険を補完する面があり、 公的な保険の保障内容を理解したうえで、 必要に応じて民間の保険に加入することが重要だとしています。
内側は3層に分かれています。いちばん内側が公的な保障で、 健康保険・年金・雇用保険といった、加入している制度から出るものです。 その外側に、勤務先の制度と住宅ローンの団信があります。 団体保険、弔慰金、見舞金、そして団信は、 自分で保険に入っているという意識が薄いぶん、いちばん見落とされます。
医療費:高額療養費が内側にある
健康保険が使える医療費には、1か月あたりの自己負担の上限があります。 高額療養費制度です。窓口で3割を払っても、 上限を超えた分はあとから戻る(または最初から上限までで済む)仕組みです。
上限の額は、年齢と所得で変わります。 同じ入院でも、現役世代の高所得者と、年金生活の人では上限が違います。
この制度があるので、「入院したら医療費が青天井になる」ということは、 健康保険が使う治療の範囲では起こりません。 ここを知らないまま医療保険を検討すると、必要な額を大きく見積もることになります。 仕組みとして押さえるのは3点です。
- 上限は1か月(暦月)ごと。月をまたぐ入院では、月ごとに計算します。
- 同じ月に何度も上限に達した月が続くと、4回目からは上限が下がります(多数回該当)。
- 事前に限度額適用認定証やマイナ保険証を使えば、窓口での支払い自体を上限までにできます。
この3つ目は、手元の資金への効き方が大きく違います。 あとから戻る形だと、いったん窓口で数十万円を立て替えることになり、 戻ってくるまでに数か月かかります。 最初から上限までで済ませられれば、その立て替えが要りません。 入院が決まった時点で手続きをしておく価値がある、ということです。
高額療養費でカバーされないもの
ここが、民間の医療保険が埋める部分です。高額療養費は健康保険が使える医療費にしか効きません。
| 対象になる | 対象にならない |
|---|---|
| 診察・検査・投薬・手術など、保険が使える医療費 | 差額ベッド代(個室などを希望した場合) |
| 入院中の保険診療 | 先進医療の技術料 |
| — | 食事代の自己負担分 |
| — | 入院中に減った収入 |
| — | 家族の交通費・付き添いの費用 |
高額療養費の対象になるもの・ならないもの
このうち、金額が読みにくいのが先進医療の技術料と入院中に減った収入です。前者は全額自己負担で、 治療によっては数百万円になることがあります。後者は働き方によって差が大きく、 会社員か自営業かで話がまったく変わります。
もうひとつ、忘れられがちなのが月をまたぐ入院です。 上限は暦月ごとに計算するので、 月末から翌月初にかけて入院すると、上限が2か月分かかります。 同じ入院日数でも、始まった日によって自己負担が変わるということです。 ここは自分では選べないので、 「上限額のひと月分だけ用意すればよい」とは考えないほうが安全です。
働けなくなったとき:傷病手当金
会社員が病気やけがで働けなくなったとき、健康保険から傷病手当金が出ます。 医療費ではなく収入を補うためのお金です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1日あたりの額 | 標準報酬月額の平均を30で割った額の、およそ3分の2が基礎 |
| 支給期間 | 支給開始日から通算1年6か月 |
| 待期 | 連続して3日休んだあと、4日目から |
| 給与との関係 | 給与が出ている間は、その分が調整される |
傷病手当金のおおまかな仕組み
支給期間が「通算」1年6か月である点は押さえておいてください。 途中で復職して再び休んだ場合、休んだ期間を合計して数えます。 治療と復職を繰り返す病気では、この数え方が効いてきます。
制度の詳しい条件は傷病手当金の支給条件と支給額に、出典と確認日をつけて置いています。
自営業には傷病手当金がない
ここが、保険の記事でいちばん見落とされる分岐です。国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。
「傷病手当金があるから就業不能保険は要らない」という説明は、 会社員を前提に書かれています。自営業・フリーランスには当てはまりません。 働けなくなったときの収入は、貯金か民間の保険で用意することになります。
| 会社員(健康保険) | 自営業(国民健康保険) | |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | あり(通算1年6か月) | 原則なし |
| 障害年金 | 障害基礎年金+障害厚生年金 | 障害基礎年金 |
| 労災 | 業務上の場合あり | 原則なし(特別加入を除く) |
働けなくなったときの、公的な備えの違い
自営業でも、国民年金保険料の免除や、 市区町村によっては独自の給付が用意されていることがあります。 ただし、会社員の傷病手当金のように「働けない間の収入を継続して補う」 仕組みではありません。埋める手段が違うということです。
障害年金も、加入している制度で受け取れる範囲が変わります。 厚生年金に加入していれば、障害基礎年金に加えて障害厚生年金があり、 障害の程度が軽い場合にも対象になる範囲が広がります。
亡くなったとき:遺族年金と団信
死亡保障を考えるときも、内側に2つあります。
遺族年金
亡くなった人が加入していた制度と、残された家族の構成で決まります。 子のある配偶者・子には遺族基礎年金があり、 厚生年金に加入していた場合は遺族厚生年金が上乗せされます。
金額は加入期間や報酬で変わるため、ここで「◯万円」とは書けません。ねんきんネットや年金事務所で、自分の場合を確かめるのが確実です。
気をつけたいのは、遺族基礎年金が子のある配偶者と子を対象にしていることです。 子が18歳到達年度の末日を過ぎると、そこで終わります。 「遺族年金があるから大丈夫」と考えていると、 子が独立したあとに残る配偶者の生活費が抜け落ちます。 必要な額は、家族の年齢とともに変わっていきます。
住宅ローンの団信
団体信用生命保険に入っていれば、亡くなったときに住宅ローンの残債は無くなります。 残された家族は、その家に住み続けながら、ローンの返済が不要になります。
確認したことを、どう使うか
内側を確認したあと、民間の保険をどう見るか。順番はこうです。
- その場面で、公的な保障からいくら出るかを把握する。
- 勤務先の保障・団信で、さらにいくら埋まるかを確認する。
- 貯金でどこまで払えるかを決める。
- 残った部分が、民間の保険で用意する範囲。
ToMiの診断では、この確認が済んでいるかどうかを訊いて、済んでいない場合は先に確認へ送ります。 公的な保障の額を自動で差し引くことはしていません。 正確に差し引くには標準報酬月額や所得区分が必要で、 そこを推測すると、作った数字で判断させることになるためです。
確認先も決まっています。高額療養費の上限額は、 加入している健康保険の発行元(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村)です。 傷病手当金も同じ窓口です。遺族年金は、ねんきんネットか年金事務所。 団信の保障範囲は、住宅ローンの契約書か、借りている金融機関。 勤務先の制度は、人事か福利厚生の窓口です。 どれも、聞けばその日のうちに分かる範囲のことです。
自分の契約を並べるところから始めるなら保険保障マップ、確認の順番まで出すなら保険料、似た保障に何重にも払っていない?です。

