年金

年金の損益分岐点とは?

損益分岐の年齢は、増額率と減額率だけで決まります。自分の年金額を知らなくても計算できる、という点がこの数字の性質です。

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この記事の要点

  • 損益分岐の年齢は、増額率と減額率だけで決まります。年金額がいくらでも変わりません。
  • 累計額は開始からの直線なので、2本の交点を解けば月まで求められます。年ごとに数えると1年単位に丸まります。
  • 65歳開始と70歳開始が入れ替わるのは約81歳11か月、75歳開始とは約86歳11か月です(現在の増額率の場合)。
  • 税金と社会保険料を引いた手取りで比べると、入れ替わる年齢は少し後ろにずれます。
  • 累計額が最大になる開始年齢は、節目の年齢ではなくその途中にあることが多く、比べる期間で動きます。
  • 損益分岐は判断の材料の1つで、答えではありません。待つあいだの生活費と、家族の条件が別に要ります。

損益分岐点とは

年金を早く受け取れば額は小さくなり、遅く受け取れば大きくなります。 早く始めたほうは先に積み上がり、遅く始めたほうは出遅れるかわりに増え方が速い。この2本が入れ替わる年齢が損益分岐点です。

早く始めた線に、遅く始めた線が追いつく累計年齢早く開始遅く開始損益分岐ここより長く受け取るなら、遅く開始したほうが多くなる
縦は累計の受取額、横は年齢です。早く始めた線は先に立ち上がりますが、傾きはゆるやかです。遅く始めた線は出遅れるかわりに傾きが急で、どこかで追い越します。その交わる一点が損益分岐です。年金額がいくらでも、交わる年齢は変わりません。

交点より手前で受け取りを終えるなら、早く始めたほうが多く受け取っています。 交点を過ぎて生きるなら、遅く始めたほうが多くなります。 それだけの話ですが、どちらになるかは選べません

損益分岐点は、増額率と減額率だけで決まります。 自分の年金額を知らなくても計算できる、というのがこの数字の性質です。

計算のしかた

累計額は、開始してからの直線です。年額を12で割った月額に、受け取った月数を掛けるだけです。

累計額 =(年金額 ÷ 12)×(その時点までに受け取った月数)

2本の直線が等しくなる点を解けば、分岐する時点が出ます。 65歳を0か月として、AとBそれぞれの開始月と年金額を置くと、次の形になります。

分岐する月 =(Bの年金額 × Bの開始月 − Aの年金額 × Aの開始月)÷(Bの年金額 − Aの年金額)

年ごとに累計額を並べて「初めて上回った年」を探す方法もありますが、 それだと答えが1年単位に丸まります。 損益分岐は「81歳」と「81歳11か月」で受け取り方の判断が変わることがあるので、式を解いて月まで出すほうが実用的です。

式の形からも分かるように、分岐する時点は2つの年金額の比開始月の差だけで決まります。 どちらも制度で決まっている値なので、計算する人によって答えが変わることはありません。 年金の話には推定や前提の置き方で答えが動くものが多いなかで、 ここは珍しく1つに定まる部分です。

この式が使えるのは、年金額が受け取っているあいだずっと同じ場合です。 実際には毎年度改定されるので、厳密には直線になりません。 ただし両方に同じ改定がかかるので、入れ替わる年齢はほとんど動きません

年金額に左右されない理由

損益分岐の年齢は、年金額がいくらでも同じです。理由は単純です。

増額率も減額率も、65歳から受け取る場合の年金額に対する割合で決まっています。年金額が2倍になれば、 早く始めたほうの累計額も遅く始めたほうの累計額も、どちらも2倍になります。 両方が同じ倍率で伸びるので、入れ替わる位置は動きません。

これは実務上とても便利な性質です。 ねんきん定期便が手元になくても、生年月日さえ分かれば損益分岐は計算できます。年金額を推測して埋める必要がありません

マネック案内役):自分の年金額が分からないと何も分からない、と思われがちなんだけど、順位と分岐年齢は額と関係ないんだよね。 金額が要るのは「いくら違うか」を円で見たいときだけ。

逆に言うと、「いくら違うか」を円で知りたいときだけ年金額が要ります。 「70歳まで繰り下げると、90歳までに◯◯万円多く受け取れる」という言い方をするには、 ねんきん定期便の見込額が必要です。 順位だけを知りたいのか、金額まで知りたいのかで、用意するものが変わります。

同じ理由で、開始年齢の順位も年金額に左右されません。 「90歳まで受け取るなら71歳台の開始がいちばん多い」という結論は、 年金が月10万円でも月20万円でも変わりません。

よく見る「約81歳」はどこから来るか

65歳開始と70歳開始を比べたときの分岐年齢としてよく挙がる数字です。 出どころは、上の式に制度の増額率を入れた結果です。

70歳開始は5年(60か月)遅れます。そのかわり年金額が増えるので、 1か月あたりの差で60か月ぶんの遅れを取り戻していきます。 取り戻し終わるまでの月数を計算すると16年11か月ほどになり、 65歳から数えて約81歳11か月になります。

比較追いつく年齢の目安
60歳開始 vs 65歳開始80歳台の前半
65歳開始 vs 70歳開始80歳台の前半
65歳開始 vs 75歳開始80歳台の後半
70歳開始 vs 75歳開始90歳台の前半

よく比べられる組み合わせと、追いつく年齢の目安

この表に具体的な月まで書いていないのは、増額率と減額率が法改正で動く値だからです。実際、令和4年4月に減額率が変わり、 60歳開始と65歳開始の分岐年齢も動きました。 自分の生年月日での正確な年齢は、率を持っている計算機で出してください。

もうひとつ、60歳開始と65歳開始の分岐年齢が生年月日で変わることも押さえておいてください。 減額率が小さいほど、繰り上げても失う額が小さくなるので、追いつかれる年齢は後ろへ動きます。 「80歳10か月」といった数字を他人と共有しても、生まれが違えば当てはまりません。

手取りで比べると、少し後ろにずれる

ここまでの計算は、税金と社会保険料を引く前の額です。 手取りで比べると、分岐年齢は少し後ろへずれます。

公的年金は雑所得として課税されます。公的年金等控除を引いた残りに税金がかかるので、 年金額が大きいほど、控除を超えた部分が増えて税負担が重くなります。 繰り下げて年金額を増やすと、増えた分の一部は税と社会保険料へ回ります

社会保険料も同じ向きに効きます。国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料は 所得に応じて決まるので、年金額が増えれば上がります。これは税金ではありませんが、 手取りは同じように減ります。

どれだけずれるかは、年金以外の所得や住んでいる自治体で変わるため、 一律の年数では出せません。方向だけは確かです——手取りで比べると、繰下げが追いつくのは少し遅くなります。 税の計算の土台は公的年金等控除に置いています。

分岐年齢と、いちばん多くなる開始年齢は別のもの

損益分岐は「AとBのどちらが多いか」を答えます。 ですが、実際に選べるのはAとBの2つだけではありません。 60歳から上限の年齢まで、1か月きざみで170通りほどあります。

「何歳まで受け取るか」を決めて、その全部を計算すると、 累計額がいちばん多くなる開始年齢が1つ決まります。 そしてそれは、65歳でも70歳でも75歳でもない、途中の月になることが多いです。

何歳まで受け取るかで、最も多くなる開始年齢が動く80歳まで60歳台の前半85歳まで60歳台の後半90歳まで70歳台の前半95歳以上上限まで← 早く受け取る    遅く受け取る →
横軸は受け取りを始める年齢の早い・遅いです。比べる期間が長いほど、累計額が最も多くなる開始年齢は後ろへ動きます。何歳まで受け取るかは選べないので、この図に1つの正解はありません。目安の位置で、具体的な年齢は生年月日と年金額の条件で変わります。

さらに、比べる期間を変えると、この開始年齢は動きます。 80歳まで受け取る前提と95歳まで受け取る前提では、答えが別の場所に来ます。1つの正解は存在しません

自分の生年月日で、選べる開始時期を全部計算した結果は年金、何歳から受け取ると累計額が多くなる?で確かめられます。比べる期間を動かすと、答えがどう移るかも見られます。

損益分岐で決めてはいけない理由

損益分岐は、判断の材料としては優秀です。 年金額を知らなくても計算でき、制度の値だけで決まり、誰が計算しても同じ答えになります。

ですが、これで受け取り方を決めるのは無理があります。理由は3つです。

1. 何歳まで生きるかは選べない

分岐年齢を超えるかどうかが、そのまま損得を決めます。 そして、それは事前に分かりません。 平均余命はありますが、半分の人はそれより長く生きます。 平均を見て「自分は超えない側だ」と決めるのは、根拠のある判断ではありません。

もっと言えば、分岐年齢を超えるかどうかは受け取り終えたあとにしか分かりません。 判断するのは受け取り始める前なので、答え合わせのできない数字を使っていることになります。

2. 待つあいだの生活費が計算に入っていない

繰下げは待つことでできています。 待っているあいだの生活費を資産から出せば、その資産は減ります。 年金だけを比べた分岐年齢には、この減りが入っていません。

3. 加給年金と在職老齢年金が入っていない

どちらも繰下げによる増額の対象外です。 当てはまる人にとっては、増額率で計算した分岐年齢そのものが成り立ちません。加給年金の対象かどうかは、加入記録を見ないと決まりません。

  • 分岐年齢は2つを比べたときの参考。答えではありません。
  • 年齢を1つ選ぶより、比べる期間を動かして答えがどれだけ動くかを見るほうが役に立ちます。
  • 個別の条件(加給年金・在職中の支給停止)は、年金事務所で確かめる以外にありません。
マネック案内役):分岐年齢は計算できてしまうから、 つい答えに見えるんだよね。でも「何歳まで生きるか」を当てにいってる数字だから、 そこは忘れないでほしいな。

よくある質問

損益分岐の年齢は、年金額で変わりませんか?
変わりません。増額率も減額率も65歳からの年金額に対する割合なので、額が2倍になれば両方の累計額が2倍になるだけで、入れ替わる年齢は同じです。だからこそ、ねんきん定期便が手元になくても計算できます。ただし税金と社会保険料を引いた手取りで比べると、額によって少し変わります。
「約81歳」という数字はどこから来ていますか?
65歳開始と70歳開始を比べた場合の交点です。70歳開始は5年(60か月)遅れるかわりに年金額が増えるので、その差で遅れを取り戻すまでの月数を計算すると約16年11か月になり、65歳から数えて約81歳11か月になります。増額率が変われば、この年齢も変わります。
平均余命より長く生きそうなら、繰り下げたほうがよいですか?
そう単純には決まりません。平均余命は寿命ではなく、半分の人はそれより長く生きます。加えて、繰り下げているあいだの生活費をどこから出すか、加給年金の対象か、厚生年金に加入して働くかによって、累計額の比較そのものが変わります。損益分岐は材料の1つとして使ってください。

参照した一次情報

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この記事は商品の仕組みを説明するものであり、 特定の商品の購入を勧めるものではありません。 個別の投資助言でもありません。制度や条件は変わることがあるため、実際のご判断にあたっては日本年金機構の老齢年金のページや、お取引先の金融機関で最新の条件をご確認ください。