結論から
「長期・分散・積立なら大丈夫」という言い方をよく見かけます。 この3つが判断を助けるのは本当ですが、 損をしない方法という意味ではありません。
この言い方が広く使われるのは、それが多くの場合に役立つからです。 短期で売り買いを繰り返すより、長く持つほうが結果はよくなりやすい。 そこまでは言えます。問題は、そこから先に一歩進んで 「だから損しない」と読み替えてしまうところにあります。
この記事では、どういう場合に長期でも元本割れするのか、 そのうえで何ができるのかを整理します。
なぜ「長期なら大丈夫」と言われるのか
まず、この言い方がどこから来ているのかを確かめます。 まったく根拠のない話ではないので、そこを押さえてから検討します。
この言い方が広まった背景には、短期の売買で損をする人が多いという事実があります。 頻繁に売り買いするより、長く持つほうが結果がよかった、という比較は数多くあります。 その比較自体は妥当ですが、そこから「長期なら損しない」まで進むと、話が飛びます。
主な根拠は、過去のデータです。 米国株のように長期的に上がってきた市場では、 保有期間を15年、20年と伸ばしていくと、 どの時点で買っても最終的にプラスになった、という調べ方の結果があります。
これは事実として起きたことですが、特定の市場の、特定の期間についての話です。別の市場、別の期間では、同じ結論にはなりません。
もうひとつの根拠は、期間が長いほど1年ごとの上下が均されることです。 1年だけを見れば大きく上下しますが、 20年を通した年率で見れば、その幅は小さくなります。 ただしこれは「幅が小さく見える」だけで、 最終的な金額が元本を上回ることを保証するものではありません。
もうひとつ、言葉の意味がはっきりしていない点もあります。 「長期」が何年を指すのかは、話す人によって違います。 5年を長期と呼ぶ人もいれば、20年以上を指す人もいます。 何年持つ前提の話なのかが決まらないまま「長期なら大丈夫」と言われても、 自分に当てはまるかどうかは判断できません。
実際には戻らなかった時期がある
根拠として挙げられるデータには、いくつかの偏りがあります。 意図的なものではなく、データの集まり方からくるものです。 ここを知っておくと、示された数字の重みが違って見えます。
過去のデータを見るときに気をつけたいのは、 いま存在している市場のデータしか残っていないことです。 長く成長してきた市場のデータは残り、途中で消えた市場のデータは目に入りません。 残っているものだけを見ると、実際より良い結論になりがちです。
日本株には、指数が高値をつけてから、 その水準に戻るまで30年以上かかった時期があります。 その間に買って持ち続けた人は、長期に持っていても元本を割ったままでした。
米国株にも、10年以上ほとんど増えなかった期間があります。 長い目で見れば右肩上がりに見える市場でも、 切り取る期間によっては、長く持っても報われないことがあります。
「長期なら大丈夫」という言い方は、 こうした期間を含まない範囲で数えたときにだけ成り立ちます。 どこから数えるかで結論が変わることは、実績の読み方の基本です。
いつ必要になるかで結果が変わる
市場が戻るまで待てるかどうかは、市場の側の問題ではありません。 待てるだけの余裕が手元にあるかどうかで決まります。ここを見ていきます。
ここまでは市場の側の話でした。 ここからは、自分の側の事情がどう効いてくるかを見ます。 実はこちらのほうが、結果を左右することが多くあります。
もうひとつ大事なのは、売る時期を自分で選べるとは限らないことです。
長く持つつもりでも、住宅の購入、家族の事情、収入の変化などで、 お金が必要になることがあります。 そのときに相場が下がっていれば、下がった値段で売ることになります。
| 条件 | 元本割れの起こりやすさ |
|---|---|
| 使う時期が決まっていない | 低い。回復を待てる |
| 数年以内に使う予定がある | 高い。待てないまま売ることになる |
| 生活費に近いお金 | 高い。下げた局面ほど売る必要が出る |
つまり元本割れするかどうかは、市場の性質だけでは決まりません。自分がいつ売る必要に迫られるかが、同じくらい効きます。ここは市場と違って、ある程度は自分で決められる部分です。
本当の危険は、途中で売ること
市場の話と自分の事情の話をしてきましたが、 この2つが重なるところに、いちばん大きな落とし穴があります。 それは、市場が下がっている時期と、売りたくなる気持ちが重なることです。
ここまでの話をふまえると、注意すべき場所がはっきりしてきます。 市場が下がること自体は避けられませんが、 そのときにどう振る舞うかは、ある程度まで自分で決められます。
長期投資の実績としてよく示される数字は、最後まで持ち続けた人の成績です。 途中で売った人は、その数字を受け取っていません。
そして人が売るのは、たいてい大きく下げた局面です。 資産が半分になった月に、あと何年か待てば戻ると信じて持ち続けるのは、 言葉で言うほど簡単ではありません。
だから、長期投資でいちばん大きな危険は、市場が下がることそのものではなく、 下がったときに売ってしまうことです。 売ってしまえば、そこで損が確定し、そのあとの回復には乗れません。
この点は、事前にどれだけ理屈を理解していても、 実際にその場面に立つと違って感じられるものです。 だからこそ、下げた局面で判断しなくて済むように、 始める前に金額と方針を決めておく意味があります。
できる備え
ここまで、できないことばかりを書いてきました。 最後に、できることを整理します。数は多くありませんが、効きます。
では何ができるのか。相場を当てにいく話ではありません。 自分の側の条件を整えて、下げた局面で売らなくてよい状態にしておくことです。
将来の相場は分かりませんが、 自分の側で決められることはあります。
- 近く使う予定のお金を、投資に回さない
- 生活防衛資金を先に確保して、下げた局面で売らずに済むようにする
- いくらまで減っても持ち続けられるかを、始める前に決めておく
3つ目は数字にできます。 耐えられる金額を、その資産が過去にいちばん下げた率で割れば、 投じてよい額の目安が出ます。 この決め方なら、相場の予想をしなくても金額を決められます。
手元に残す額の目安は、生活防衛資金の診断で確かめられます。 そのうえで、過去の下落を自分の金額に当てはめると、投じてよい額まで出ます。
最後に、この記事は投資をやめるべきだと言っているわけではありません。 元本割れしうることを知ったうえで始めるのと、 知らないまま始めて下げた局面で驚くのとでは、 同じ相場でも結果が変わります。変わるのは相場ではなく、そのときの自分の判断です。
預金には元本割れがない代わりに、物価が上がれば買えるものは減っていきます。 どちらにも避けられない性質があり、どちらを選んでも何かは引き受けることになります。 引き受けるものを知ったうえで選ぶ、というのがこの記事で言いたいことです。
