iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象です。ここは制度としてはっきりしています。 分かりにくいのは、それで税金がいくら減るのかのほうです。 「全額控除」という言葉から、掛金がそのまま戻ってくると読んでしまうと、 実際の金額を数倍に見積もることになります。
掛金は「小規模企業共済等掛金控除」になる
iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者が払った掛金は、 小規模企業共済等掛金控除という所得控除の対象になります。 生命保険料控除のような上限はなく、その年に払った額の全額が対象です。
年単位拠出という方法を選べば、年の後半にまとめて払うこともできます。 この場合も、控除の対象になるのはその年に払った額です。 ただし手続きの締め切りがあり、途中で変更しにくくなる面もあります。 毎月払うか、まとめて払うかは、家計の都合で選ぶところです。
対象になるのは加入者本人が払った掛金です。掛金の引き落とし口座が家族名義でも、 加入者本人の所得から控除します。逆に、配偶者の掛金を自分の所得から引くことはできません。 この点は、生命保険料控除や社会保険料控除と扱いが違うところです。 社会保険料控除は生計を一にする家族の分を自分の所得から引けますが、 小規模企業共済等掛金控除にはその仕組みがありません。
名前に「小規模企業共済等」とあるとおり、この控除はiDeCo専用のものではありません。 小規模企業共済の掛金や、企業型確定拠出年金のマッチング拠出も同じ控除に入ります。 複数を併用している場合は、合計額がこの控除の対象になります。
どこで引かれるのか
所得税は、収入からいくつかの段階を経て計算されます。掛金が引かれるのは、 税率を掛ける前の段階です。
給与所得者であれば、額面年収から給与所得控除を引いたものが給与所得です。 そこから社会保険料控除、基礎控除、扶養控除などを引いた残りが課税所得で、 この課税所得に税率を掛けます。iDeCoの掛金は、この「引く」グループに入ります。
つまり、掛金が同じでも、適用される税率が違えば軽くなる額は違います。 所得税の税率は課税所得によって5%から45%まで段階的に上がるので、 収入の多い人ほど軽くなる額は大きくなります。
もうひとつ、税率の段の境目にいる人には別の効果があります。 課税所得を掛金のぶん減らした結果、ひとつ下の段に移ることがあるためです。 この場合、減るのは掛金に対する税率ぶんだけではなく、 境目をまたいだ部分の税率差も効きます。境目の近くにいる人ほど、 掛金を増やしたときの効き方が急になります。
逆に、掛金を増やしても課税所得が同じ段の中にとどまるなら、 軽くなる額は掛金に比例して増えるだけです。 「掛金を上限まで増やせば効率が上がる」とは限りません。 自分の課税所得がどの段にあるかを見てから決めるほうが確実です。
「全額控除」は「全額戻る」ではない
ここが最も誤解されるところです。所得控除は課税所得を減らす仕組みであって、 税額から直接引く仕組みではありません。
住宅ローン控除は税額控除で、計算した所得税から直接引きます。 こちらは引いた額がそのまま減ります。iDeCoの掛金は所得控除なので、 性質が違います。
この違いは、両方を使っている人にとっては実害のある形で現れます。 住宅ローン控除で所得税がすでにゼロになっている人は、 iDeCoの掛金を増やしても所得税側では減らせる税金が残っていません。 住民税側の効果は残りますが、期待していた額の3分の1ほどにとどまることになります。 住宅を買った直後の数年は、この状態になりやすい時期です。
所得税と住民税で、効き方が違う
iDeCoの掛金は、所得税と住民税の両方で控除できます。ただし効き方が違います。
| 税率の決まり方 | 掛金1万円あたりの効果 | |
|---|---|---|
| 所得税 | 課税所得に応じて段階的に変わる | 税率しだいで変わる |
| 住民税(所得割) | 原則として一律 | どの所得でもほぼ同じ |
住民税の所得割は原則として一律の税率なので、掛金に対する効果は誰でもほぼ同じです。 一方、所得税は段階的に税率が上がるため、収入によって差がつきます。 「iDeCoは高所得者ほど有利」と言われるのは、この所得税の部分によるものです。
注意したいのは、所得税と住民税で控除の額そのものが違う項目があることです。 生命保険料控除や地震保険料控除は、所得税と住民税で上限が違います。 その点、iDeCoの掛金はどちらも同じ額を引けるので、計算は素直です。 所得税で引いた額をそのまま住民税でも引くことになります。
いつ、どうやって戻ってくるのか
所得税と住民税では、戻ってくる時期も形も違います。
- 所得税は、その年の年末調整または確定申告で精算されます。 会社員なら年末の給与に上乗せされる形で戻ることが多く、金額もその場で分かります。
- 住民税は、その年の所得に対して翌年度に課税されます。 戻るのではなく、翌年6月からの毎月の天引き額が下がる形です。 下がったことに気づきにくく、実感しにくい部分です。
会社員が年末調整で処理するには、国民年金基金連合会から届く 「小規模企業共済等掛金払込証明書」が必要です。10月ごろに届きます。 間に合わなかった場合は、確定申告でも処理できます。5年前まで遡って 還付申告できるので、過去に出し忘れていた年があっても手は残っています。
給与から天引きする方式(事業主払込)を選んでいる場合は、 会社が掛金額を把握しているため、証明書の提出が不要なことがあります。 勤務先の扱いを確かめてください。
住民税の効果が実感しにくいことは、家計の管理では意外に効いてきます。 所得税は戻ってくる形なので「得をした」と分かりますが、 住民税は翌年の天引きが少し減るだけで、明細を並べて比べないと気づきません。 軽くなった額の3分の2ほどが住民税側だという人も珍しくないので、 効果を確かめるなら、翌年6月以降の住民税決定通知書まで見る必要があります。
軽くなる額が小さくなる人
所得控除は、納めている税金の範囲でしか効きません。もともと課税所得が小さい人は、 掛金を増やしても軽くなる額はそこで止まります。
- 課税所得がない人(所得が各種控除の合計を下回る人)は、軽くなる税金もありません
- 課税所得が掛金より小さい人は、掛金の一部しか効きません
- 住宅ローン控除で所得税がすでにゼロになっている人は、所得税側の効果が出ません
もうひとつ見落とされやすいのが、口座管理手数料との関係です。 iDeCoには国民年金基金連合会と事務委託先金融機関に払う手数料があり、 運営管理機関によってはさらに上乗せがあります。金額そのものは大きくありませんが、 軽くなる税金が小さい人ほど、手数料の重みは相対的に大きくなります。 拠出時の効果が年に数千円しかないなら、手数料と並べて見る必要があります。
収入は変わります。いま課税所得が小さくても、数年後には税率の段が上がっているかもしれません。 iDeCoの掛金は年に1回変更できるので、始めた時点の条件で固定する必要はありません。 課税所得が小さいうちは少額で続け、収入が増えたら掛金を上げる、という選び方もできます。 その場合でも、加入年数は積み上がっていくため、出口で使える退職所得控除は伸びます。
自分の年収と掛金だと、拠出時にいくら軽くなるのか。そして受け取るときに いくら増えるのか。iDeCoは本当に節税?受取時まで含めて税金差を診断で、両方を通して計算できます。
