iDeCoの説明で必ず出てくるのが「掛金が全額所得控除」「運用益が非課税」「受取時にも控除がある」の3つです。 3つ目だけ言い方が違うことに気づいた方は、正しく読んでいます。受取時は「非課税」ではなく「控除がある」。つまり、控除を超えた分には税金がかかります。
受け取るときは、非課税ではない
iDeCoで積み立てたお金を受け取るとき、その全額が課税の対象になります。 自分が払った掛金の部分も含めてです。掛金を出したときに所得控除を受けているので、 そのぶんの課税を受け取るときまで先送りしている、という形になっています。
ですから、iDeCoの効果を知りたいなら、拠出しているあいだに軽くなった税金から、 受け取るときに増える税金を引く必要があります。片方だけを見た数字は、 途中式であって答えではありません。
なぜ受取時の税金は見落とされるのか
理由は単純で、時期が離れているからです。掛金を払った年の税金は、 年末調整や確定申告ですぐに結果が出ます。金額もはっきり分かります。 一方、受け取るのは早くても60歳です。30代で始めた人なら25年以上先の話になります。
もうひとつは、受取時の税額が自分ひとりの条件では決まらないことです。 一時金で受け取るなら会社の退職金と合わせて計算し、年金で受け取るなら公的年金と合算します。 どちらも、拠出を始める時点では金額が分かりません。分からないものは、計算から外れがちです。
分からないからといって、ゼロと置くのは正確ではありません。 退職金がいくらなら結果がどう変わるかを、いくつかの条件で並べて幅で見るほうが、 実際の判断には役立ちます。
三つめの理由は、説明する側にとって拠出時の数字のほうが伝えやすいことです。 「年収500万円の方なら年間で約4万円」と言えば、聞いた人はすぐに大きさをつかめます。 一方、受取時の税金は「退職金の額と勤続年数と受け取る年による」としか言えません。 条件が多いほど説明は長くなり、短く言い切れる数字のほうが残っていきます。
結果として、拠出時の軽減額が「iDeCoの節税額」として一人歩きします。 これは誰かが意図的に隠しているというより、比べやすい数字だけが繰り返された結果です。 読む側としては、その数字が計算のどこまでを指しているのかを確かめる習慣を持つほうが確実です。
一時金と年金で、使う制度が変わる
iDeCoの老齢給付金は、一時金で受け取るか、年金で受け取るか、その両方を組み合わせるかを選べます。 この選択で、税金の計算に使う制度がまるごと変わります。
- 一時金で受け取ると退職所得になり、退職所得控除を使います
- 年金で受け取ると雑所得になり、公的年金等控除を使います
- 組み合わせると、一時金の部分と年金の部分をそれぞれの制度で計算します
どちらが有利かは人によって逆になります。会社の退職金が大きい人は一時金にすると 退職所得控除が足りなくなりがちですし、公的年金が多い人は年金にすると 公的年金等控除を超えやすくなります。制度の名前だけでは決まりません。
受け取り方は、加入している金融機関の規約の範囲で選びます。 一時金と年金を組み合わせられるか、年金の期間を何年から何年まで選べるかは、 金融機関によって違います。制度上は選べても、自分の口座では選べないことがあります。 出口の設計を考えるなら、まず規約を確かめるところからになります。
一時金:退職所得として計算する
一時金で受け取る場合、iDeCoの受取額は退職所得として扱われます。 退職所得の計算は、他の所得と比べてかなり優遇されています。
控除を引いたうえで、さらに半分にしてから税率を掛けます。 そのうえ他の所得と合算しない分離課税なので、給与と足して税率が上がることもありません。
控除額は勤続年数(iDeCoでは掛金を払った年数)から決まります。年数が長いほど大きくなり、 20年を超えると1年あたりの額が増えます。長く続けた人ほど有利になる作りです。
控除額の計算と、退職金と重なったときの調整についてはiDeCoの退職所得控除とは?で詳しく扱っています。
年金:雑所得として計算する
年金形式で受け取る場合、確定拠出年金からの給付は公的年金等に含まれます。 国民年金や厚生年金と合算して、公的年金等控除を引いた残りが雑所得になります。
合算する点が重要です。公的年金だけなら控除の範囲に収まっていた人でも、 iDeCoの年金を足すと超えることがあります。超えた分は他の所得と合算して課税されます。 一時金のような1/2もありません。
さらに、雑所得が増えると国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料も上がります。 これは税金ではありませんが、手取りは同じように減ります。 税額だけを比べていると、この分が抜け落ちます。
引くのは「増えた分」だけ
ここで間違えやすいのが、受取時の税額を丸ごと引いてしまうことです。 会社の退職金がある人は、iDeCoがなくても退職金に税金がかかることがあります。 その分まで引くと、iDeCoの不利を実際より大きく見せることになります。
比べるのは、iDeCoをやった場合とやらなかった場合の2つです。 やらなかった場合にも払う税金は、iDeCoのせいではありません。
逆に、拠出時の軽減額だけを見て「これだけ得」と言うのも同じ種類の誤りです。 どちらも、2つの世界を比べていないという点で同じです。
もうひとつ、税制の差と運用の結果は分けて考える必要があります。 iDeCoの中で運用がうまくいけば受取額は増えますが、増えた分には受取時に課税されます。 運用益を税制のメリットとして足すと、増えるかどうか分からないものを 確定した利益のように扱うことになります。制度の効果は制度の効果として、 運用の結果は運用の結果として、別に見るほうが判断を誤りません。
自分の場合に何を確かめればよいか
受取時の税額を左右するのは、次の5つです。金額の大きい順ではなく、 分からないと計算が始まらない順に並べています。
- 会社の退職金があるか、あるならおおよその額と受け取る年齢
- 勤続年数と、iDeCoに掛金を払う年数
- 受け取り方(一時金・年金・その組み合わせ)
- 公的年金の見込額(年金で受け取る場合)
- 受け取る順番と、その間隔
退職金が分からない場合でも、計算をあきらめる必要はありません。 いくつかの金額を当てはめて幅で見れば、自分がどのあたりにいるかの見当はつきます。 幅の中で結論が変わるなら、それは「先に退職金を確かめたほうがよい」という結果です。
そのうえで、税制の差だけで決める話ではないことも押さえておく必要があります。 iDeCoの掛金は原則60歳まで引き出せません。途中で家計が苦しくなっても、 解約して現金にすることは原則できないのです。掛金を止めることはできますが、 止めているあいだも口座管理手数料はかかり続けます。 税金の差が何十万円あっても、必要なときに動かせないお金であることは変わりません。
年収・年齢・掛金と、分かる範囲の退職金から、拠出時の軽減と受取時に増える税金を まとめて計算できます。iDeCoは本当に節税?受取時まで含めて税金差を診断で確かめてください。分からない項目は、複数の条件で幅を出します。
