「1,000万円」は何を指した数字か
教育費の話は、たいてい総額から始まります。幼稚園から大学まで、すべて公立なら1,000万円前後、 私立が混ざれば2,000万円を超える、といった数字です。金額そのものは公表値から出ているので、 間違っているわけではありません。
問題は、その数字が18年から22年かけて出ていく合計だということが、 抜け落ちやすいところにあります。総額をそのまま「貯めておくべき額」として読むと、 用意すべき額を実際の何倍にも見積もることになります。
分けるべきなのは金額の大きさではなく、いつ払うかです。 毎年ならして出ていく費用と、短い期間に大きく出ていく費用では、備え方が変わります。
考え方は家賃と車の買い替えの違いに似ています。家賃は毎月の収入から払うもので、 10年分を前もって貯めておく人はいません。車の買い替えは数年に一度まとまった額が出ていくので、 そのときに向けて用意します。教育費のなかにも、この2種類が混ざっています。 総額はその両方を足した数字なので、そのまま貯める目標にはなりません。
教育費は、ならして出ていかない
小学校から高校までの費用は、年によって大きくは変わりません。公立なら年40万円から60万円ほどで、 毎年ほぼ同じ額が続きます。給与から毎月払っている支出に近い性質で、前もって貯めておかないと払えない、という種類の費用ではありません。
ところが大学に入る年から、金額の桁が変わります。国立で自宅から通う場合でも年120万円ほど、 私立で家を借りれば年270万円近くになります。これが4年続きます。
この形を見ると、備えるべき場所がはっきりします。左側の低い棒は、その年の家計から払えます。 右側の高い棒は、その年の収入だけでは払いきれないことが多い。だから前もって用意しておく必要があるのは、右側のほうだけです。
どこから先を積み立てて用意するか
ここを決めないまま金額を出すと、必要額は一気に変わります。 同じ子ども・同じ進路でも、積立で用意する範囲を広げれば広げるほど、毎月の必要額は上がります。
| 積み立てる範囲 | 用意する額 | 毎月の積立額 |
|---|---|---|
| 大学・専門学校だけ | 481万円 | 月30,900円 |
| 高校以降 | 660万円 | 月42,400円 |
| これから先の教育費すべて | 970万円 | 月59,800円 |
小学3年生・すべて公立・国立大学に自宅から通う場合の例です。 範囲を「大学だけ」から「すべて」に広げると、必要な毎月の額は2倍近くになります。金額が変わったのではなく、 その年の家計から払う前提だったものを、前もって貯める側に移しただけです。
決め方の目安はひとつです。その年の家計から払える費用は、積立の対象にしない。 いま小学校の費用を毎月の収入から払えているなら、中学校の費用も同じように払える見込みが立ちます。 積み立てておかないと払えないのは、収入の何倍もの額が一度に出ていく年です。
総額を月数で割ると、何が抜けるか
用意する額が決まったあと、次は毎月いくら積むかです。ここで総額を残り月数で割る方法を使うと、 もうひとつ抜けが出ます。
この式は、最後の1円まで使い切る形でちょうど足りる額を出します。 つまりいちばん最後の時点でだけ帳尻が合う計算です。 途中で足りているかどうかは、この式のどこにも出てきません。
教育費は年度のはじめにまとめて出ていきます。大学に入る年には、その年のぶんが必要になります。 割り算で出した額を積み立てていると、総額としては足りていても、 入学の年には貯まっていない、という状態が起こりえます。
正しくは、月ごとに残高を進めて、どの時点でも0を下回らない最小の額を逆算します。 手で計算するのは大変ですが、教育費の診断では学年と進路を入れるだけでこの形で出します。
きょうだいがいると、総額より山が効く
子どもが2人いる場合、総額はおおよそ2倍になります。ただ、家計に効いてくるのは総額ではなく、同じ年に2人が在学する年のほうです。その年の支出は、単純な足し算になります。
たとえば中学3年生と小学5年生のきょうだいがいると、下の子が大学に入る年に、 上の子はまだ大学在学中という年が出てきます。その年だけ、大学の費用が2人ぶん必要になります。 総額を人数で割った平均で見ていると、この山は見えません。
年齢が離れていれば重なりは小さくなり、近ければ大きくなります。 どちらが有利ということではなく、重なる年がいつで、その年にいくら要るかを 先に知っておくかどうかの違いです。重なる年が分かっていれば、そこに向けて貯める目標が1つに決まります。
積立額を決める前に確かめること
必要額は、支援制度の対象になるかどうかで下がります。 積立額を決めてから制度を調べるのではなく、順番は逆のほうが無駄がありません。
- 児童手当。受け取った分を教育資金に回している家庭では、そのぶん積立額が下がります。
- 高校生等への修学支援。所得の条件を満たせば、授業料の負担が変わります。
- 高等教育の修学支援新制度。授業料等の減免と給付型奨学金があり、いちばん重い大学の費用に効きます。
それぞれの対象と条件は児童手当と修学支援のページにまとめています。児童手当だけでも、1人あたり234万円ほどになります。
いずれも所得や世帯の条件で決まり、条件は改正で動きます。 ToMiの試算はこれらを反映していないので、対象になれば、出した必要額より小さくて済みます。 進学の年の条件で確かめてください。
早く始めるほど、毎月の額は下がる
必要な積立額を決めるもう1つの要素が、残りの年数です。同じ金額を用意するのでも、 期間が長ければ毎月の額は小さくなります。当たり前のようですが、効き方は思ったより大きくなります。
| いまの学年 | 大学まで | 必要な毎月の積立額 |
|---|---|---|
| 小学1年 | 12年 | 月26,800円 |
| 小学3年 | 10年 | 月30,900円 |
| 中学1年 | 6年 | 月44,600円 |
| 高校1年 | 3年 | 月66,900円 |
すべて公立・国立大学に自宅から通う場合の例です。用意する額はどれも同じ481万円で、 変わっているのは残りの年数だけです。小学1年から始めれば月2万7千円ほど、 高校1年からだと月6万7千円。残りの期間が4分の1になると、毎月の額は2.5倍になります。
ここで言いたいのは「早く始めなさい」ということではありません。いま何歳かによって、現実的に取れる手が違うということです。 残りの期間が短い場合、毎月の額を上げるより、進路の前提か積立の範囲を見直すほうが早いことがあります。
順番を決めてから、金額を出す
ここまでを順番にすると、次のようになります。
- 教育資金を、生活費と別の口座に分ける。分けていないと、積んだつもりの額が日々の支出に流れます。
- どこから先を積立で用意するかを決める。ここで必要額が大きく変わります。
- 出ていく時期ごとに足りるかを見て、毎月の額を逆算する。総額を月数で割らない。
- 支援制度の対象になるかを、進学の年の条件で確かめる。対象なら必要額が下がります。
金額から入らないのは、金額だけを先に出しても動かせる場所が分からないためです。 「月8万円必要です」と言われて続けられないとき、次に何をすればよいのかが出てきません。 範囲と進路のどちらを動かせるかが分かっていれば、そこから戻れます。
具体的な金額は教育費の診断で出せます。総額と、積み立てて用意する額を分けたうえで、 いつ・いくら足りなくなるかまで出します。

