「家賃総額 vs ローン総額」では答えが出ない
持ち家と賃貸を比べる記事の多くは、30年間に払う家賃の合計と住宅ローンの総返済額を並べています。 どちらが大きいかで「持ち家のほうが得」「賃貸のほうが得」と結論づける形です。 分かりやすい比べ方ですが、この方法では答えが出ません。
理由は単純で、払い終わったあとに残るものが違うからです。 住宅ローンを払い終わった人の手元には住宅が残ります。売れば現金になりますし、 売らなくても住み続けられます。家賃を払い終わった人の手元に住宅は残りません。 支出の合計だけを並べると、この差がまるごと消えてしまいます。
逆の見落としもあります。賃貸を選んだ人は、頭金と購入時の諸費用を使っていません。 数百万円から一千万円を超えることもあるお金が、そのまま手元に残っています。 「賃貸は何も残らない」と言われますが、これも正確ではありません。 買わなかったぶんのお金が残っているのです。
もうひとつ、支出の合計では見えないものがあります。 持ち家には住宅ローンの返済のほかに、固定資産税や管理費、修繕のための費用がかかります。 一方で賃貸には、更新のたびに更新料がかかることがあります。 どちらも毎月の家賃やローン返済とは別に出ていくお金なので、 住居費として並べるときは両方を入れないと、比べる土台がそろいません。
30年後に手元へ残るもので比べる
比べる形を整理します。持ち家を選んだ人の手元には、その時点で住宅の価値から住宅ローンの残債を引いたものが残ります。 住宅の価値が3,000万円で残債が800万円なら、持ち分は2,200万円です。 売るつもりなら、そこから売却にかかる費用も引きます。
賃貸を選んだ人の手元には、買わなかったことで使わずに済んだお金が残ります。 頭金と購入時の諸費用がその中心です。加えて、敷金のうち戻ってくる見込みのぶんもあります。
ここに、もうひとつ足すものがあります。毎月の住居費の差です。持ち家のほうが月々の負担が重ければ、 賃貸を選んだ人はその差額を手元に残せます。逆に家賃のほうが高ければ、 持ち家を選んだ人に差額が残ります。30年も積み上がると、この差は小さくありません。
この形で比べると、「どちらが得か」は30年後に住宅がいくらで売れるかで ほとんど決まることが分かります。ところがこの金額こそ、誰にも分かりません。 だからToMiの診断では、将来の価格を当てにいくのではなく、いくらなら持ち家と賃貸が並ぶかを逆算して出しています。 その金額より高く売れそうだと思うなら持ち家側、 そうは思えないなら賃貸側、という判断のしかたになります。
持ち家と賃貸、30年後の純資産はいくら違う?では、住宅価格・家賃・頭金・金利・維持費を入れると、 この逆算した金額と、何年住めば逆転するかが出ます。
買うときと売るときの費用が効く
住宅を買うときには、物件の価格とは別にまとまった費用がかかります。 仲介手数料、登記の費用、不動産取得税、住宅ローンの事務手数料や保証料などです。 売るときにも仲介手数料などがかかります。
この費用は、住んだ年数で割ると短いほど重くなります。 30年住むなら年あたりに直せば小さな額ですが、5年で住み替えるなら 同じ額を5年で負担することになります。短い期間で住み替える前提なら、 家賃との差でこの費用を取り返す時間がありません。
これが「持ち家は長く住むほど有利になりやすい」と言われる理由です。 ただし何年で逆転するかは条件しだいで、 住宅の価格・家賃・金利・維持費・将来の売値のどれを変えても動きます。 「◯年住めば持ち家が得」という一般的な答えはありません。
物価が上がるとどうなるか
物価が上がる前提を置くと、持ち家と賃貸の比較は一方向に動きます。家賃は物価と一緒に上がりますが、固定金利の住宅ローンの返済額は上がりません。 30年のあいだに家賃が上がっていけば、その差はそのまま持ち家側に積み上がります。
ただし、ここには読み違えやすいところがあります。 物価が上がる前提で計算すると、30年後の金額はどれも大きく出ます。 「物価が上がるほど持ち家が有利」と見えるのですが、 その金額は将来のお金で表されています。 同じ100万円でも、物価が上がったあとの100万円はいまの100万円より買えるものが少なくなります。
だから比べるときは、名目といまの価値の両方を並べて見ます。 名目では差が大きく広がって見えても、いまの価値に直すと伸びはもっと小さくなります。 ToMiの診断では、インフレ率を0%から3%まで振ったときに 名目と実質がそれぞれどう動くかを表で出しています。
数字で決まらないときの考え方
ここまで比べ方を整理してきましたが、実際に計算してみるとどちらとも言えない範囲に入ることがよくあります。 将来の売値を少し動かしただけで結論がひっくり返る、という状態です。
こういうときに、無理に数字で決めようとすると危うくなります。 自分に都合のよい前提を選べば、どちらの答えも作れてしまうからです。 結論が前提しだいで変わる範囲にいると分かったら、それ自体がひとつの答えです。金額では決まらないので、金額以外で決めてよいということになります。
住まいは、通勤のしやすさ、家族の人数の変化、近所との関わり、 自分で手を入れられるかどうかといった、数字にならないもので決まる部分が大きいものです。 金額で差がつかないなら、そちらを重く見たほうが、あとで納得しやすくなります。
- 同じくらいの住宅の家賃を、実際の募集で調べる
- その地域で築30年ほどの同じような住宅が、いくらで売られているかを見る
- 頭金と諸費用を払ったあと、手元にいくら現金が残るかを書き出す
- 何年住む見込みかを、いまの仕事と家族の予定から考える
最後にもうひとつ。金額の比較より先に確かめたほうがよいことがあります。頭金を払ったあとに手元へ残る現金です。 住宅の持ち分は純資産には入りますが、急にお金が要るときにすぐ取り出せません。 手元の現金が薄いまま買うと、収入が途切れたときに返済が止まります。預金、いくら残しておけば安心?で必要額を出して、頭金の額と合わせて考えてみてください。
持ち家と賃貸の比較は、答えが1つに決まる問題ではありません。 置いた前提の上でだけ成り立つ比較であることを分かったうえで使えば、 判断の材料としては十分に役に立ちます。前提を1つずつ動かして、 どこで結論が入れ替わるのかを自分の目で確かめておくと、 あとから条件が変わったときにも同じ考え方で判断し直せます。
